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ハヤトが逝く  作者: 砂流
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いよいよ治癒魔術を覚えますよ

多くの方に呼んで頂きありがとうございます。お気に入りに加えてくださった方が10名様を超えました。とても励みになり嬉しく思います。

「思ったより大変だな。ってか、できるのか?俺に…。」


エルモ先生のレッスンが始まって1時間もたたないうちに、このセリフ。そういえば、この世界にきて何度か試したことはあるのだが、いまだ魔法が発動したことがない。水の一滴、ともしびの一つすら出せない俺が、治癒?はっきり言ってなめてました。


まずは、木の枝を折り、それを箱の中にいれて魔術で繋げるという、ごく簡単そうな勉強からだった。手をかざし、箱の中の枝を感じ取れ…というのだが、まったくわからない。治癒スキルは4となっている。ならば、たやすいはず…とエルモ先生はおっしゃるが、さっぱりなわけ。


「仕方ないでありますね。いっそ、私がやりましょうか?」


「そうだな。俺のはおいおい修行するってことで、エルモ、お願いしても?」


「了解であります。じゃ、レンチちゃん、こっちに来てうつ伏せになるでありますよ。」


リィカさんが、こっちと言われても、見えないレンチちゃんの手をひき、床にうつ伏せに寝かせた。


エルモの手がレンチちゃんの左腕をそっと撫でてゆく。ボコッと盛り上がってるところに来ると、手を止める。しばらくすると、エルモの手の平から白い光がレンチちゃんの腕の上で光り、少しずつ青色の光へと変わってゆく。そして、青い光が消えた後は…さきほどまでいびつに曲がっていた二の腕が真っ直ぐになっていた。その間、時間にして30秒ほどだろうか。


「すげぇな、治ってるよ。」


「ハヤト殿も、これができるよう頑張るでありますよ。しっかりと見ていて下さいね。」


「できれば、どうやってるか解説しながらやってくれると嬉しいんだが?」


「さすがにそれは私でも無理であります。治癒中は神経を集中させているでありますから、見て覚えて下さい。」


何かのドラマだったか映画だったか、有名な大学の先生のオペで見学者がいて、オペの状況を解説してる人がいたんだけど、あんなのは無理なのかな?もう一人、治癒術が使える人がいればできるのかも知れないなぁ。


そんなことを考えている内に、左腕の処置が終わり、右腕へと治癒は移っている。


「かわいそうに。こんなに一杯、怪我をしてたのね。でも、もう大丈夫。私たちと一緒なら、どんな魔物でもやっつけちゃうでありますよぉ。あ、そんなに緊張しなくていいから、力を抜くであります。」


治癒しなければならない箇所にエルモの手が触れるたびに、レンチちゃんはビクッとして緊張してたようだけれど、痛みが全くないせいか次第にリラックスしていくのが表情からわかる。


腕と脚の治療は1時間もかからずに終わった。念のために、背中とお腹、それに顔にも手をかざしたところ、鎖骨と肋骨にも目立つことはないが骨折した跡が感じられたけれど、こちらはそのままで問題ないと言って、エルモの治癒は一息ついた。


「レンチちゃん、立ってみるであります。大丈夫よ。最初はお母さんの肩につかまって立ち上がりましょうか。」


さきほどまで、やや左に傾き、曲がった脚で弱々しく立って、不器用にひょこひょこと歩いていたレンチちゃん。しっかりと立ち上がりました!見慣れたごくごく普通の立ち姿にこれほど感動するのはなぜなんだろう。きっと、これまでのレンチちゃんを知ってるからだね。リィカさんの表情がすごく明るい。その眼にはいっぱい涙を湛えていた。


「はいはい、感動してるのはわかりますけど、ここからが本番でありますからねぇ。レンチちゃん、今度は椅子に座ってね。ハヤト様、その椅子をベッドの前に持ってきて欲しいであります。」


そう言うと、エルモはリィカさんたちのベッドの上に立ち上がり、椅子に座ったレンチちゃんの後ろから、ゆっくりと後頭部に手をかざした。


魔力の質が違う!まだ治癒術を使えない俺にもその違いはわかった。光…光と言えるのだろうか?…


エルモの手の平に球形の光が現れた。骨折の治癒をしていた時の光は確かに白だった。けれど、この光は透明。表現しにくいのだけれど、空気に極限まで透明を追求した色…明らかにそこだけ、同じ透明ではあるが、周囲の空気とは違う透明。その球形の光がエルモの手を離れ、レンチちゃんの頭の中へと入っていく。


「リィカさん、レンチちゃんの手を握ってあげて。それから、ハヤト様、レンチちゃんの口にタオル巻いてください。レンチちゃんが暴れるかも知れないであります。これからエルモはしゃべることができません。でありますから、もし暴れたら抑えてあげて下さい。」


「わかった。レンチちゃん、頑張ってな。エルモ、頼んだぞ。」


リィカさんがレンチちゃんの手を握ると、エルモの表情が消えた。夢を見ていない眠りのように表情のない顔。その顔が次第に苦痛にゆがんでゆく。エルモの心とレンチちゃんの心が同調しているようだ。そして、エルモの眼からとめどなく涙が溢れ出す。一際、大粒の涙がこぼれ落ちると同時にレンチちゃんがうめく。叫ぼうとしているようだが、タオルが口を塞いで叫べないでいる。そのせいか、幼い女の子とは思えないような力で暴れる。俺でも、押さえるのに必死だった。


そのまま、5分、10分と時間が流れる。爪をたてられたのか、レンチちゃんの手を握っているリィカさんの手に血が滲んでいる。


「大丈夫、大丈夫。お母さん、ここにいるよ。大丈夫だからね。」


紫色になったリィカさんの手。痛くないはずがないのに、これが母の愛…


その時は唐突に訪れた。フッと暴れていたレンチちゃんの力が抜ける。そして、エルモの声が、頭の中に響いてきた。エルモの口は動いていない。脳に直接話しかけるような声だった。


【レンチちゃん、今、いくつぅ?】


【みっちゅ】


【みっつですかぁ。何してるのかなぁ?】


【あのね、今日はママのおたんじょおびなの。だから、レンチ、花輪つくってあげてるんだぁ。】


【そうなの?これだけあったら、おっきい花輪ができるよねぇ。ママ、きっと喜ぶよぉ。でも、そろそろおうちに帰ろうかぁ。暗くなると危ないからねぇ。】


【うん、おねえちゃんも一緒に帰ろ?】


【いいわよー。いいこのレンチちゃんに、とっておきの魔法見せてあげるね。おねえちゃんがレンチちゃんのお年といっしょのみっつ数えたら、レンチちゃんはおうちの前にいるのよ。】


【わぁ、すごい。おねえちゃん、魔法使いなんだぁ。レンチ、たのしみぃ。】


【それじゃいくよぉー、わん・つー・すりぃ、それぇ!】


レンチちゃんの体が一瞬ビクっと震える。けれど、まだ眠ったように力が抜けたままだ。そのまま、時間が流れる。エルモの表情が次第に柔らかく、優しくなってゆく。しばらくすると、レンチちゃんの頭から黒い光の球が出てきた。エルモがフッと息を吹きかけると黒い光の球は消えた。


「終わったであります。」


「治ったのか?」


「レンチちゃんが魔物に襲われた時の記憶を消したであります。ただ、このままでは襲われた時の年齢のままでありますから、これから最後の仕上げをするでありますよ。その前に、お水を一杯頂けるでありますか?」


ぐったりしたエルモに、コピペでコンビニの冷たく冷やした「六○の美味しい水」の入ったペットボトルを渡す。井戸から水を汲んできてもよかったのだが、そうしたい気持ちだったのだ。


隼人が渡した水をゴキュゴキュと飲み干すと、ベッドから降りてエルモがレンチちゃんの前に移動する。


「リィカさん、もう手を離しても大丈夫でありますよ。」


「は、はい。」


「ハヤト様、ちょっとお部屋の明かりを落とせるでありますか?」


この世界の照明は魔物の魂石をエネルギーとして、明かりをともしている。俺のいた世界の蛍光灯と同じくらいに明るい。その照明に、俺の上着を被せると部屋はほの暗くなった。


【レンチちゃん、聞こえますかぁ?】


【あ、魔法使いのおねえちゃん、どこ行ってたのぉ?】


【ちょっとね。レンチちゃん、これからもう一度、レンチちゃんに魔法をかけるよぉ。今度、魔法をかけるとね、レンチちゃんは9歳のおねえちゃんになってるんだよぉ。すごいでしょ。】


【わぁ、それもたのしみぃ。うん、かけてかけてぇ。】


【それじゃ、いくよぉ。また三つ数えるねぇ。そしたら、レンチちゃんは9歳で目が覚めるんだよぉ。いくよー、スリー・つー・ワン・ゼロォ!】



「あれぇ?ここどこぉ?」


目をパチクリさせながらレンチちゃんが首をかしげている。


「あ、ママ!どうしたの、どこか痛いのぉ?」


リィカさんは泣いていた。そして、レンチちゃんをギュッと抱きしめる。


「うまくいったわね。」


「だな。でも、記憶は3歳のままなのか?」


「そうよ。でも、見えなくなってからの記憶っていらないと思う。ずいぶん辛い思いをしてたわ。レンチちゃんはまだ9歳でありますから、これから失った6年を取り戻していけばいいと思うであります。」


「エルモ、よくやった!」


思わず、エルモを抱きしめた。


「ハヤト様、く、苦しいでありますよ?」


「すまん、すごいよ。やっぱエルモすげぇ!あらためて先生と呼ばせてもらうわ。」


「っつ。えっと、その呼び方は治癒術のレッスンの時だけにして欲しいであります。」


「おねえちゃん、ママが…ママがおてて怪我して泣いてるの。魔法で治してあげてぇ。」


レンチちゃん、ママは痛くて泣いてるんじゃないんだよ…そう言葉をかけようとしたら、エルモから声をかけられる。


「ハヤト様、出番でありますよ。さ、リィチさんの手の治癒を。」


「ええー、エルモ、お前がやってくれよー。」


「わたしはもうクタクタであります。それに、これこそいい練習になるでありますから、頑張ってください。じゃ、レンチちゃん、一緒に夕ごはん食べに行こうか?」


「うん、ママ、おねえちゃんと一緒にいっていい?」


「ええ、いってらっしゃい。エルモさん………ほんとにありがとうございました。」


「エルモ、今日は俺のおごりだ。好きなだけ食ってきていいぞ!」


「はぃー、では遠慮なくぅ。今日はいつもよりいっぱいお腹に入りそうでありますぅ。」


あ、エルモの本気の食欲忘れてた。というより、リィカさんと二人きりにしていいのか?俺もリィカさんもいい年だぞ。これから、ベッドに横たえて手を握って…


「それくらいの治癒なら、椅子に腰掛けて数分でできるでありますから、リィカさんも終わったら食べにくるでありますよ。待ってますからぁ。」


そ、そうなのか?ベッドに寝かせなくていいのか?そっちの方がやりやすいと思うんだが…。あ、ほんとにヨコシマなこと考えてないよ。治癒のためだからね。ほんとだよ?


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