表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハヤトが逝く  作者: 砂流
11/109

打ち上げと買い物と

今、俺はトパの店で絶賛絡まれ中だ。


相手はゾフィさん。パーティ『白銀の翼』のリーダーにして数少ないAランカーの一人だ。


今回のグランダン戦では、6人の冒険者が犠牲となった。『白銀の翼』からも1人が犠牲となった。


グランダン討伐成功と俺の冒険者ランク昇格を兼ねて打ち上げをすることになったのだが、今夜はトパが店を解放するということで、屋台で買った料理を持ち寄り、トパの店での宴会となった。ゾフィさんはギルドへの討伐報告をし、亡くなったパーティメンバーの家族に遺体を届けた後で俺たちと合流した。


「だ~か~ら~、君はもっと自分を主張しなきゃダメなわけぇ!えっと、君の名前何だっけ?」


ちょ、顔が近いっす。トパが不機嫌そうに、そして力まかせに俺とゾフィさんの顔を引き離す。


「何度も言いますが、俺はハヤト。OKですか?で、まだ冒険者として1週間しかたってないわけっす。トパ、リオン、エルモに教えてもらうことがたっくさんあるんす。まぁ、チートなスキルってことは今日あらためて自覚しましたけど、期待してくれるほどの実力はついてませんから。」


「はぁ?わたしの眼はふしあなとちゃうぞー!メンバーへの指示、周囲への警戒、攻撃と回避の間合い、どぉれも十分Bのトップでもおかしゅうないき。いずれはAランクも遠くないぞ。私が保証する。」


「そりゃどうも。まぁ、のんびりとやりますよ。」


「でだ、私の婿にならんか?」


「「ぶふぉ」」俺と…トパ?…が口に含んでいた飲み物(俺は下戸なのでコピペで出したコーラ)を噴出した。


「ゾフィ、お前、旦那がいるだろうが!」


「死んだ。」


「そうか、おめでとうっ。」


……「あの、ゾフィさんのパーティのテーブルから、すんごい恨めしそうな視線がきてるんですが、あれって誰ですか?」


「ん?あー、旦那…かな?でも、まぁなんだ。Aランクになれば、伴侶は5人までOKだから気にするな。」


「そ、そうなのか、トパ?」


「いや、聞いたことないぞ。」


「うっそぴょーん。で、どうよ、婿にならんか?」


「くどいっ!」


「なぜ、トパが答える。ははぁー、お前もこいつに惚れとるか?」


「そ、そんなんじゃない。けど、なんかむかつくんだよ!」


なんか、俺…遊ばれてるよね?弄られてるよね?あ、レオンたち楽しそうだ。あっち行こ。


「おい、君、名前なんだっけ?どこに行く?」


いいかげん、俺の名前覚える気ないよね?スルーして、レオンたちの会話に加わることにした。エルモは、何やら女性冒険者たちのマスコットみたいになって、ごきげんそうだ。少し前には、一部の男たちが口説いてたようだが、そいつらはテーブルに伏して微動だにしない。どうしたんだろう。トパのバーはいつもに増して喧噪につつまれていた。


……………


翌朝、いつもの時間に目を覚ました。が、今日は冒険者稼業、休みだったと気づき二度寝しようと布団にもぐってみたが、眠気がこない。規則正しい生活、自衛隊の習慣が身に沁みついているのだろう。この世界に来て初めての休日なのだが、何をしたいのか思い浮かばず、とりあえず宿の食堂に降りた。


「おはよう。今日はのんびりとしてるね。」


「おはようございます。今日は休みなんですよ。何か食えますか?」


「朝定食でよければいつでも食べられるわよ。」


ここホテル『スカイライン』の朝定食は、硬めの平パンに野菜スープ、サラダ、それに干し肉をあぶったものだ。この世界の食事は塩味がほとんどで、ハヤトには物足りない。テンドンさんが、マヨネーズ作りに成功してからは、皿にマヨネーズを一絞り盛ってそれを干し肉やサラダにつけて食べるようなメニューとなり、そこそこ評判らしい。


コピペで、食事の材料はかなり出すことができるようになったが、この世界の食材を見て回るのも面白そうだ。よし、今日は買い物に行こう。1週間でずいぶん金もたまったしな。


昨日のグランダンの討伐では、無報酬とは言えギルドから功労金として一人5万ドンが支給され、魂石が何と500万ドンで売れたため、冒険者たちで分配すると一人あたり約25万ドンになった。それに加えて解体した肉と皮膚もそれぞれかなりの高額で売れたため、討伐参加者一人当たり35万ドンの臨時収入を得ていた。


朝定食を食べ終わるとリオンとエルモに声をかけて出かけることにした。リオンは二日酔いで声を出すのも頭に響くのか、いってらっしゃいとばかりに手をヒラヒラさせていた。エルモは、どうやら昨日仲良くなった女性冒険者たちと一緒に出掛けるらしい。どこに行くのかな?


……………


まず向かったのは、シグナの町に一つだけある生鮮マーケット。肉、野菜、魚、薬草、それに種類は少ないが調味料もあった。マーケットが一つしかないのにはわけがある。この世界では、一般家庭はおろか、かなり大きな商店でもなければ冷蔵庫がない。マーケットに隣接した保存庫と呼ばれる建物に、数少ない氷属性の魔法を使える人たちが氷を作りだし、商人たちが使用料を払って共同で利用しているというわけだ。


あちこちの店をのぞいてみたが、呼び名こそ違うけれど元いた世界と同じような品物が並んでおり、この世界ならではってのはせいぜい魔物の肉くらいだったろうか。


次に向かったのが本屋さん。ここにはびっくりした。ごくごく貧相な本が、何と1冊10万ドン以上するんだ。というのも、この世界に活版印刷の技術はない。もちろん、コピーやプリントアウトなんて機械はあるわけがない。どうやって作っているのか興味津々だ。元の本は手書きのようだけど、人気がある本は何冊が同じものがあるから、書き写しているわけでもなさそうだし、あとでエルモに聞いてみよう。ただ、さすがにこれだけの値段となると気楽に買うわけにもいかず、何冊か手にとってめくってみただけで、すごすごと店を出た。


市場から少し離れて、衣料品店、武具店、雑貨屋と商品を見て回った。いつしか南の城壁近くまで来ていた。


「兄さん、いい子いるけどどうですか?」


目つきの悪…くない、いかつい…身だしなみはかなりきちんとしている、荒くれ…いや穏やかそうな爺さんが隼人に声をかけてきた。こ、これって、いわゆる、ヤらしいサービスを提供してくれる店の客引きなのか?あちこちの店で、随分いろっぽいウサ耳姉さんやら、思わずモフモフしたくなるキツネ尻尾の御嬢さんやらの店員さんを見てきたが、ここにも?いや、その手のサービスを受けたいわけじゃないんだよ?ただ、まぁ…そうだ、社会見学だ。この世界をもっともっと知りたいだけさ…たぶんね。


「どんな子がいるのかな?」


「どうぞ、見ていってやって下さい。うちは、品ぞろえがこの町では一番だと思いますよ。ささ、どうぞどうぞ。お一人様、ごあんなぁい。」


強引に(ほんとは自発的に?)店の中へと招きいれられた………ち、ちがう!俺が思ってた店じゃない!店内には幾つかの部屋があり、手持ちぶさたにタバコをふかしている筋骨隆々とした男たちや世間話をしながら縫い物をしている女性たち、何やらままごとのような遊びをしている子供たち…。


「えっと、ここって、その…いわゆる…その手のサービスを受けられる店ではないのかな?」


「へっ?おっしゃってることがよくわかりませんが?うちは、奴隷屋ですよ。」


奴隷!やっぱあるんだ。ってことは、こいつ、悪いやつなんだ。でも、すごく温厚そうだし、とても悪人には見えないんだが…。


「あんた、見かけによらず悪人なんだな?」


「これは心外な!確かにこういう商売をやってる同業者の中には、買い叩いたり無理やり攫ってくるような輩もおりますが、そういう輩の店は長続きしません。何より発覚すれば死罪ですし、よほど食い詰めたか追い込まれでもしない限り、割にあわないと思いますがね。」


「では、あなたの店は良心的だとでも?」


「もちろんですよ。国からの営業許可証も領主様からの開店許可証も、ほらフロントに提示しております。商品も、ちゃんと本人の同意印と経歴書がつきます。安心してご購入頂いても何ら問題ございませんよ。」


「俺は最近、遠くの田舎から出てきたからよくわかんないんだが、奴隷って公認なのか?」


「そうですよ。といいますか、逆にお聞きしたいのですが、どうしてもお金が必要だけれど働いたり物を売ったりする術のない方たちは、あなたの田舎ではどうやって金を得ていたのでしょう?」


「うーん、それは生活保護とかキャッシングとか…」


「おっしゃってることがよくわかりませんが、ともかく、法的にも人道的にも何ら問題ありませんので、どうぞ見ていって下さいまし。」


言われてみれば、奴隷に身を落としたような悲壮感が彼ら、彼女たちにはなかったな。けど、なぜ子どもまで?この爺さんの言葉を信用すれば親が売ったんだろうけど…。


「なあ、そっちの男やこっちの女たちは、働き手としてわかるんだが、子供なんて買うやついるのか?」


「そう言えばお客様は、奴隷契約初めてでございましたね。少しご説明させて頂きましょう。まず、ご購入の前にそれぞれの奴隷の仕様書に目を通して頂くことになります。例えば、この男性の場合ですと得意なのは力仕事。拒否事項…これはお断りという仕事内容ですが、炊事、洗濯、高所作業など列記されておりますね。そうした仕事をさせた場合は、賠償金が科せられることになります。それから、ご購入とは言っておりますが、実際には期間契約です。当店に支払っていただく手数料と奴隷が欲する金額に達するまでが契約期間となります。この男性の場合は2年ということですね。金が貯まれば料理店を出したいそうですよ。それで、お客様のおっしゃってた子供ですが、たいていの場合、契約期間は10年以上となっております。鍛冶屋や大工、商店の丁稚など、幼い頃から仕事を覚えさせれば、契約が終わるまでには十分な仕事をこなすことができるようになります。それは、子供たちにとっても手に職をもついい機会ですし、雇った側からすれば、契約終了後も今度は正社員としての雇用にも結び付きますから、いいことづくめだと思います。まだ親御さんが恋しい年頃ではありますが、その点は年に2度の里帰りの権利もございますから。」


なるほど、俺が読んだ小説の中にあるような奴隷とはちょっと…いや、かなり違うようだ。むしろ、そういう奴隷ならいいんじゃないかな?これって、この爺さんに洗脳されてるだろうか?だが、俺は根無し草の冒険者。家政婦も執事も必要ない。メイドさんは欲しいけど…。


「お客様、基本的に奴隷との性交渉はたとえ合意の上でも禁じられておりますので、ご了承のほど。」


うっ、何か俺の頭の中をみすかしてないか?この爺さん。まあ、こうした店を見たのもこの世界の社会勉強になったし、いいか。結局、冷やかしになっちまったけどな。グルっと店内を回り、引き返そうとした時、ふとグレーのカーテンの奥の気配に気づいた。


「あのカーテンの向こうも奴隷の部屋?」


「あ、あちらは1年以上売れなかった奴隷たちの部屋でございます。わたくしどもも商売ですので、毎日、奴隷たちを食わせていく費用ばかり嵩みますと、追い返すしかございません。こればかりは、非人道的だと言われても仕方ございませんね。」


「いや、それは仕方ないだろう。見せてもらってもいいかな?」


「ええ、どうぞ。今いるのは、えーと、一組の母娘ですね。希望が母娘で働けることというのですが、娘さんの方が小さい頃、魔物に襲われて手足の骨を骨折、眼を傷つけられております。骨折しても処置が適切であれば問題はなかったはずなのですが、十分な治癒魔法を受けられなかったため、ごらんのように四肢は曲がったままで歩くことすら不自由しております。おまけに、眼も見えないとなれば、幾ら母親が何でもやりますと言っても、娘さんの世話をしながらでは…。そんなわけで、残念ながら来週の便で彼女たちの里に送り返すことになっております。」


「いくらだ?」


「は?」


「だから、彼女たち、幾らで売る?」


「お買い上げ頂けるので?少々お待ち下さい。」


丸い耳は狸族だろうか。親子でそっくりな愛嬌のある顔立ちだ。


「お待たせしました。こちらに来てからの維持費が二人分で48万ドンですが、これは母親の方がここでの内職で稼いでくれてたのでチャラですね。で、彼女たちからの希望金が、当面食べていけるだけの金額100万ドン。当店の手数料が1割の5万ドンで、合計105万ドンとなっております。」


「元々送り返すつもりだったんだろう?手数料、まからない?」


「そうでございますね、では3万ドンでいかがでしょう?」


「5000ドン!」


「それはあまりに…せめて2万5000!」


「1万でどうだ?」


「厳しゅうございますね。仕方ございません、2万ドンで手を打ちましょう。」


「いいだろう、あんたも商売だからな。それと、彼女たちの希望金は交渉できないのか?」


「わたくしどもは、奴隷の後ろ盾となる仕事と認識しております。ですから、無茶な交渉はお断りさせて頂きたいところですが、彼女たちにとっても追い返されるよりは、契約期間を短くしてでも幾らか希望金に近い金額を受け取れるにこしたことはないかと存じます。交渉されるようでしたら、立ち合わせて頂きますが?」


「ぜひ頼む。」


……………


俺たちの話を聞いていたのだろう。母親が縋るような目で俺を見ていた。


「こんにちは。俺はハヤトって言います。名前教えてもらえますか?」


「はい、私はリィカ、娘はレンチです。どうぞ、よろしくお願いします。」


「早速だけどリィカさん、俺、手持ちが50万くらいしかないんだ。もしかすると、あと2、30万くらいは出せるかも知れない。どうだろう?希望は3年契約らしいが、1年契約で50万で。」


「お客様、さすがに半値はいかがなものかと。それに、1年なんてあっという間でございますよ?それではこの母娘がまた奴隷に戻ることになりますし、わたくしどもも二度目となりますと、さすがに店におくわけにも…。」


「おたくの事情はわかる。だから、俺からの提案だ。1年間は俺の下でそれぞれの仕事の修行をしてもらう。もちろん生活費は出そう。そして、1年後は二人を俺のパートナーとして雇おう。それでどうだ?」


「お言葉ですが、お客様は冒険者とお見受けします。母親はともかく、娘はこの体、冒険者は無理でございましょう。」


隼人は交渉の前に既に彼女たちの将来を頭の中で描いていた。


「いや、母親は冒険者としてではなく、料理人として使いたい。それから娘は冒険者だな。」


「申し訳ございません。私は何でもやります。でも、娘に冒険者は無理でございます。」


「そうですよ、お客様。眼も見えない、満足に歩くこともできないこの子に、それは酷と言うものでございましょう。」


「この子は俺が治す。」


「「…」」


「骨折したのは、1年余り前だろう?ならば成長期のこの子の骨なら、たぶんちゃんと治療を受ければ治る。そして、眼だ。この子は見ることができる。おそらく、見たくないという心因性の視覚障害だろう。心を治してやれば、きっと見えるようになるはずだ。」


一見しただけだが、骨は癒着しきってはいないと判断した。たとえ癒着していても、今、適切な治療を施せば成長とともにきっと正しく生育するだろう。そして、眼はちゃんと瞳孔が反応している。見えてはいるが、頭の中で「見ている」という処理ができていないだけだろう。実際、そういう人を何かのTV番組で観た記憶があった。


「治るのですか!?」


「確約はできない。だが、治せなければ違約金を支払おう。たしか希望金額の3倍だったな?」


「さようで。でも、今、お手元に50万しかないとおっしゃってましたが…。」


「この1週間で俺が稼いだ額がざっとそれくらいだ。1年間で300万ごとき稼げないとでも。」


「いえ、失礼いたしました。それで、リィカさん、どうします?」


「願ってもないことです。是非、それでお願いします。」


「わかりました。では、契約期間1年で50万ドン。契約終了後は雇用を継続。娘さんが場合は当初の契約金100万ドンの3倍、300万ドンを違約金として支払う。手数料は2万ドン。仕事内容は、リィカさんが料理人、レンチちゃんが冒険者。以上でご契約を進めさせて頂いてよろしいですね。」


俺も、リィカさんも異存はない。その内容で契約書を作成するという。その間に、俺はひとまず金を取りに宿に戻ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ