ゾフィさん、リアクションもAランクですね
休日はなかなか筆が進まないので、一気に戦闘シーン終了まで書き上げてみました。連続投降、失礼します。
「ゾフィさんってのはどこだ?」
「ほら、左手10mほど先に、岩を楯に弓を構えてる人がいるでしょ。あいつよ。」
「お、トパ、知ってたんだな。ってか、女だったんだ。」
「ま、うちの店の常連さんだからね。」
強い酒が売り物のトパのバー…その常連ってことはけっこういける口なんだろうな。下戸の俺には縁がなさそうだが…。
「救援にきました。ちょっといいですか?」
彼女が矢を放ち終えたのを確認して後ろから声をかけた。
「あぁ、トパさんはこの戦闘では役に立たないと思うが、君は何ができるんだい?」
さすがAランカー、後ろを振り返らずとも気配で俺たちのことわかってたようだ。
「銃を使ってやつの足止めをしようと思います。やってみなきゃわかりませんが、マシンガンで弾幕張って、時折48mmのマグナム撃ってれば、少なくともやつの前進を抑えられると思います。加えて、ゾフィさんの弓があれば、どこまでダメージを負わせられるかわかりませんが、少なくとも応援が来るまで耐えることはできるでしょう。ギルド長が、既に応援を呼んでましたし。」
「うむ、銃とかマグナムとか、君の言ってることはわからんが、今は話している時間はなさそうだ。私は少し後退する。君にこの場で足止めを任せても?」
「はい、やらせて下さい。」
「だが、グランダン以外にも、弱小の魔物も見かけている。周囲の警戒もしながらになるが、頼む。」
「あ、そいつらは多分俺のパーティで何とかできるでしょう。さ、前衛を下げて、ゾフィさんも次の攻撃ポイントまで下がって下さい。」
ゾフィの射撃で、足止めされていたグランダンが立ち上がる。
「氷結、来るぞ!後退だ!すぐに後退しろ!」
その声に、前衛にいた冒険者たちはすばやく左右に散会し、攻撃を絞らせないようジグザグに走りながら後退してゆく。数秒後、グランダンの口からブレスとともに氷結が放たれたが、射程距離は数十m程度らしく、冒険者たちは無事、後退を終え、次の足止めポイントで待ち構えようとしていた。
「前衛の皆さん、もっと下がって下さい!」
俺の声に振り返り不審そうな顔を見せる冒険者たち。
「その男の言う通りにするんだ!下がれ!」
ゾフィの声に慌てて前衛たちが下がってゆく。
前衛が射線から外れたのを確認し、伏射の構えをとってマシンガンのロックを解除した。俺の絶対防御が氷結にどれだけ効果があるのかわからないが、トパ、エルモ、リオンが近くにいるのを確認し、半径3mの範囲で絶対防御のバリアを張る。岩の陰からグランダンが10mの距離まで接近したのを確認し、トリガーを引いた。放たれた無数の弾丸が弾幕を張ってゆく…が、ほとんどが表面の皮膚を少しばかり削るにとどまっていた。30秒でセットした弾丸を撃ちつくし、ホルダーのマグナムに切り替えた。象をも一撃で倒すという弾丸…確かに、グランダンの皮膚に食い込んだ。だが、食い込んだだけで、致命傷になるような貫通には至らない。おまけに、さすがに撃った時の反動が大きく、一息つかねば連射はできない。3発を撃った時、後方から8本の矢がグランダンを襲う。ゾフィの攻撃だ。6本は弾かれたが、2本はマグナム同様、皮膚に突き刺さる。どうやら、足止めには成功したようだ。
一時、イヤイヤをするように銃弾を煙たがっていたグランダンだが、立ち上がると俺たちが隠れている岩の方にブレスを吐こうとしている。
「やばい!」
氷結のブレスが吐かれるのとほぼ同時にバリアを張ったまま、トパがパーティごと加速魔法で左前方へと飛ばした。ブレスはバリアをかすめ、岩ともども俺たちがいた一帯を凍りつかせた。そして、バリアは…無事だった。無事だったが、あまりの低温のせいか、ほんの少しヒビが入っている。2回くらいまでは耐えられそうだ。
左前方へと飛んだせいで、今はグランダンの斜め後方に位置取った形で、楯になる岩を見つけ、その陰から弾帯を交換し、さきほどの同じようにマシンガンを浴びせてゆく。
最初の攻撃ではとまどいをみせたグランダンだが、その攻撃が脅威でないとわかると、ハエでも払うかのように体を震わせ、再び立ち上がり、ブレスを吐く。
俺とゾフィさんの攻撃で、足止めこそできてはいるが、事態が好転する兆しが見えてこない。今のように、頻繁に弾丸の補充のためコピペを多用する機会がなかったため、コピペが無限にできるのか、それとも何らかの上限なり制約があるのかわからない。ゾフィさんの矢にしても、限りがあるだろう。それを考えるとむしろ悪い方向に進んでいる気もする。コピペの限界、応援の到着、この二つの不確定要素が次第に俺たちにあせりと焦燥、そして疲労を蓄積させていった。
隼人たちが戦闘に加わってから1時間…戦況に進展が見えないまま、ふと脳裏に泥沼という言葉とともに湾岸戦争の1シーンが浮かんだ。バズーカ…というより、持ち運び式の対空ミサイルでアラブ兵が航空機を撃ち落としたシーンだ。あれって、コピペできねぇかな…度重なる単調なコピペスキルの使用で、イメージする能力まで疲れているような気がしたが、試してみる価値はある。そういえば、コピペレベル、一つ上がったんだよな…ペースト………出た!
筒の側面には、ロシア語だろうか、兵器の名前らしきものが書かれてある。使い方は、銃とそう変わりはなさそうだ。これならあるいは…、いや、少なくともやつを後退させることくらいはできるだろう。うまくいけば逃げてくれるかも知れない…逃がしてよいのかどうか、とにかく事態の打開にはなるはず。
それまで、見慣れた弾丸ばかり出現していたのが、全く違う兵器の出現にパーティメンバーの誰もが驚く…というより、これが何かわからないのだから、不審そうな表情を浮かべていた。
「トパ、次の射撃が終わったら、すぐにゾフィさんのところまで飛んでくれ。全員一緒にな。」
「OK、その顔、何か勝算が出てきたみたいだな。」
「ああ、たぶんこれでいけるだろう。」
マシンガンを撃ち終えると同時に、俺たちはゾフィさんのいる岩陰へと飛んだ。
「ん、どうした?飛ぶ石が尽きたのか?」
「いや、飛ぶ石…弾丸ですね、それは大丈夫です。ただ、今のままでは埒があかないんで、一つ試させてもらいたいことがあるんです。」
「ほう、私もそろそろ矢の残量が気になりはじめてたところだ。君に策があるなら、試してみてくれ。なーに、だめもとだ。こっちも一息つければ助かるぞ。」
「ありがとうございます。今回は正面から、ミサイルを撃ち込んでみます。これまでの弾丸と違い、やつに当たったあと爆発するはずですから、それなりの効果は期待できると思いますよ。」
「ふむ。」
「で、もう一つ。この攻撃が効けば、やつは逃げていくかも知れません。逃がしても大丈夫ですか?」
「あー、それは問題ない。町に近づいてこなければ、一度逃げてもらった方がむしろいいくらいだ。ギルドで改めて討伐隊を編成すれば、私たちには十分勝算はある。」
「では、さっそくやってみます。あ、それからこの攻撃は撃った後ろにも衝撃がいきますから、くれぐれも私の真後ろには近寄らないで下さい。できれば、他の冒険者の皆さんと一緒に左か右かどちらかの後方にいてくれると助かります。」
「承知した。とりあえずやつが前進してきている。一気に500mほど後退しよう。」
「いや、ここから1km後退させてくれ。近くで爆発すると、仲間に被害が出る。できれば、俺たちよりさらに100mくらい下がって欲しい。あ、忘れてた。岩なり、溝なり、とにかく俺が撃った後は何か前方を遮るものの後ろに隠れて伏せていてください。」
「わかった、そうしよう。」
話がまとまると、ゾフィさんが冒険者全員に自分に付き従って下がるよう指示を出す。俺たちは一足先に、トパに後方へと飛ばしてもらい、スタンバイするによい場所で作戦を説明した。
「今回の作戦は一撃離脱ってやつだ。このバズーカ…大砲もどきだが、これを発射する。かなりの衝撃があるから、レオンとトパ、俺の体を支えてて。その間、エルモは周辺の警戒を頼む。で、撃った後、即座に右手にある岩の陰に入り、伏せること。爆発の衝撃波がくるだろう。やつから反撃がきそうならそのまま後退するよ。何せ、こいつは連発ができないから。」
作戦を説明している間にゾフィさんと冒険者たちが、俺たちの左右に少し離れて、さらに後退を続けているのが目に入った。
「エルモ、俺の後ろに誰もいないな?」
「大丈夫であります!」
「トパ、リオン、くれぐれも俺がぶれないように支えててくれ。」
「「了解!」」
ミサイルは熱追尾型のようだ。生物の体温はたかが知れている。ターゲットとなる熱源がなければ、まっすぐにミサイルは飛んで行く…はず。ゆっくりと前進してくるグランダンの姿をスコープに捕らえる。肉眼ではまだ豆粒くらいにしか見えない。距離にして700m。
「……距離600、あと100で撃つぞ。スタンバイ!……距離500!発射。」
凄まじい熱風が発射した筒の後方に抜ける。同時に、木漏れ日に銀色の光を反射させながら火を噴いたミサイルが一直線にグランダンに向かう。撃ち終えた俺たちは岩影へと飛び、地に伏せた。そして爆発音。その後、凄まじい衝撃音とともに熱風。ミサイルにとって500m程度の距離は至近距離だ。
伏せた体を起こし、岩陰から体を起こすと視線を前方へとやる。もうもうと立ち上る煙の先には…何か巨大なものが立っていた。うん、立っていたんだ、首から先をなくしたグランダンが。きっと、自分が死んだことすら理解できていないんだろうな…。
後ろを見ると恐る恐る立ち上がった冒険者たちが唖然としている。その中に口をポカンと開いて立っているゾフィさんの姿も。
「やー、さすが9K34「ストレラ3」は、素晴らしいであります!体と首を切り離すのは不可能と言われているイエローの頭が木端微塵でありますよぉ!」
9k34?エルモ、お前…どんだけ兵器マニアなんだ?死の商人か!
演習で攻撃機からミサイルを地上の的に発射したことはあったが、俺も間近で威力を確認したのは初めてだ。それ以前に、初めて近代兵器での戦闘を目の当たりにしたトパ、リオンが茫然としてるのは無理もない。
ゾフィさんに至っては、何かが弾けたのか意味のわからないつぶやきがダダ漏れしていた。「ながぁくてふっとーいのが、ずんずんいってあつくてつきやぶって、あはーん」………ある意味、ミサイルのイメージとは違う気もする。それよりも、初めて出会ったAランカーのイメージが崩れ去った。仕方ないか、Aランカーも一人の人間だもの。




