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ハヤトが逝く  作者: 砂流
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異世界へのトリップ

2013.6.23 表記、登場人物名等修正

その雲は突然現れた。


ハイテク機器を搭載した戦闘機のパイロットにとって、視界0という状況は必ずしも危機的なものではない。さまざまな機器により、高度・座標位置・巡航速度・地上(海上)の地形をイメージした3次元ビューにより、半径2km程度を感覚として把握できるし、レーダーは近接する航空機があればアラームを発する。


雲に突入したとたんに、機器が沈黙した。レーダーにはさきほどまで国境線に沿って警戒飛行を共にしてきた僚機の点がなかった。


磁気嵐か?…だが、それならば計器は異常値を示しこそすれ、沈黙することはない。無視界の中、飛行しているのか否か…それさえ認識できない。


時間にして数秒だろうか、猛烈なGが体にかかったかと思うとまるで三半規管をかき回されるようなひどく不安定な感覚が隼人を襲う。それもほんのわずかな時間。辛うじてオートパイロットに切り替えた…と思う…隼人の意識はブラックアウトした。



眩しい…葉擦れの音…そして殺気…。無意識の内に腰の銃を手にし、安全装置を解除する。

気がつけば、森の中にいた。


♪ある日~森の中~熊さんに~であった~


よくよく見れば、熊ではないことはわかるのだが、隼人の知識の中ではそれが何かと言われれば熊…ただ、手足が8本あるだけの、ちょっと変わった熊が10mほど先を歩いていた。


体高約2m。立てば5mにはなろうかという熊にP220の9ミリ弾はいささか心もとない。幸いにも木の影に伏せている隼人に熊は気づいていない。いざとなればこのP220で戦わざるをえないが、最善は交戦しないこと…熊に会ったら死んだふり!…実際にはそんなものは意味はないのだが…。


幸いにも、熊は隼人に気付くことなく森の奥…緑の深い方向へと去っていった。


熊が立ち去って10分、ようやく隼人は立ち上がり、自分の装備を確認した。


RF-4EJ、偵察機レコンファントムの姿はもちろんない。あれば、きっと墜落してただの残骸となっていただろうし、それ以前に隼人は生きていなかったはず。そして最後の記憶では偵察機に乗っていた時の服装のままなのだが、フライトスーツとフルフェイスのヘルメットが見当たらない。航空自衛隊のつなぎの上下に軍靴、それにP220小銃、首には識別票、それが装備の全てだった。


「さっきみたいなのに出くわしたらやばいな…てか、ここはどこなんだ?」


さっきは、それが存在することが当たり前…特に不思議と思わなかったが、よくよく考えれば手足が8本もある熊なんて居るわけがない。しかし、幻覚ではない。そんな化け物がいるこの森を進むにはあまりにも軽装備だ。小銃が通用するのは、野生動物ではせいぜい中型の動物までだろう。


「せめて、マシンガンくらいは欲しいな。」


頭の中で、ラン〇ーが山の中で活躍するシーンを思い浮かべた。せめてあーいった装備が…


……………


目の前に機関銃と弾丸一式があった。いや、現れた。それから、あのラ〇ボーが持っていたようなナイフも。


「そうそう、こんな機関銃が…って、ええぇ!」


手にとったがまさしく機関銃以外の何物でもない。せっかくということで、弾丸を両肩にクロスさせ、機関銃を持ってみた。自衛隊で機関銃を撃った経験はない…だが、銃にそう差異があるわけでもなくマニュアルを読まなくても使いこなすのにそう問題はなさそうだ。右腰に小銃があるため、ナイフは背中に据えてみた。


ふと微かな物音が聞こえた。


「ハイヤー!」?


動物のうなり声ではないことは確かだ。おそらくは人の声だろう。遥か左手、山の下手方向からの声だ。再び聞こえる、さっきよりは近づいてきている、同時にガラガラと何かが転がるような音も。隼人は迷わず斜面を駆け下りた。距離にして200m、道らしい開けた場所に出た。左手からは土埃をあげて何かが近づいてくる。


最初に見えたのは2頭の馬、その後ろに馬車…馬車?…そして、その間に人。とりあえず声をかけてみよう。


隼人が手を振ると馬車は一度はスピードを緩めたが、50mほどの手前までくると馬車の上から隼人に向かって矢が飛んできた。思わず森に駆け込み、木を楯として隠れる。近くの地面に何本かの矢が突き刺さる…と同時に、火が木を焼き払う。マシンガンをフルオートにして楯にしていた木の左側へと転がるように飛び出した時は既に馬車は通り過ぎていた。


「まじ、やばいよな。矢はともかく、火って何だよー!ってか、ここ戦場だったりするんだろうか?あー、敵と間違われたのかもな。次は白い旗作ってそれでも降るか。」


と、つなぎのポケットに手を入れたが出てきたのはヒヨコが描かれた黄色いハンカチだけだった。黄色かよ…幸せになっちまうじゃん…わけのわからない独り言をつぶやきながらもとりあえず馬車が走り去った道へと戻り、さてどっちに行くか…。左手…さっき馬車がきた方は高い山が連なって見える。右手を見ると…やっぱり山だ。幸い、道の向こう側は崖で、崖の下には川が流れていた。下流は右手…迷わずそっちへと歩き始めた。


1時間ばかり道を歩いてみたが景色は変わらない。その道すがら、さきほどマシンガンやナイフが「欲しい」と思ってイメージしたら出現したのを思い出し、水筒をイメージし、欲しい!と念じた…が出てこない。イメージに浮かんだ水筒を頭の中でタップし、目の前の地面にペースト…っ、出てきた!!!


こりゃ便利だと、コンビニの弁当をイメージし欲しい!と先程のコピペの要領でやってみたが、これは全く出てくる気配がない。出てくるものとこないものがあるのだろうか?ちなみに先程の水筒、中は空っぽだったので、比較的右手の崖がゆるやかなところで斜面を下り、川の水を汲んで満たした。飲めるのか不安もあったが、けっこう美味かった。


悲鳴!


2時間ほど歩いた先に先程、隼人を襲った馬車が停まっていた。馬車の向こう側には少し前、森の中で出会った熊と、血まみれになって倒れている人間と馬…。崖側に隠れて様子を見ていると、おそらく最後の人間だろう、槍を手に熊と対峙している…が手傷を負っているようだ。


「うーん、助けるべき?ってか、俺、こいつらにさっき殺されかけたんだよなぁ。」


と崖にぶら下がるように戦闘を見ていた隼人と、立ち上がった熊の目があった。かなり距離はおいているが、確かに熊は隼人を認識した。


「やべ!こりゃやるっきゃないか?自衛だよな?」


つい自衛隊のくせで、発砲前に自衛のための攻撃であることを確認してしまう自分に苦笑いしながら崖から這い上がり、熊に向かって歩き始めた。槍を持った男はそれに気づかない。

両者の距離が20mを切ったところで、熊は隼人に向かって走り出した。同時に隼人もフルオートに切り替えた機関銃で熊を狙う。この距離なら外すことはない。放たれた弾丸が次々と熊の体に吸い込まれ血しぶきをあげる。熊の顔は原型をとどめぬほどに崩れながらも、惰性で体は隼人に迫ってくる。あと2、3m…というところで、ついに熊であった残骸は動きを止めた。


「か・い・か・ん…」(古すぎてごめんなさい)


槍を持った男は…腰を抜かしているようだ。おびえた表情で隼人を見つめる。見たところ、30代のおっさんぽい。ちなみに隼人は26歳である。

こういうときは何と声をかけたかな?


「まぁ、なんだ、いわゆる…あんた誰?」


「へ?」


「あ、言葉通じないかな?見たところ異人さんっぽいし…うーん、英語…ハウ・ドゥ・ユー・ドゥ?」


「何言ってるかわからんが?…」


「お、日本語大丈夫じゃん。てか、ここどこ?俺、気がついたらここにいたんだが。」


「あ、その話は山を下りてからにしよう。ともかく、馬車全部まとめて…お前、御者やれるか?」


「いや、馬は乗ったことないぞ?」


「そうか…」


そういうと、男は馬車の扉を開いた。中から一組の男女が出てきた。一人は40代くらいの男、もう一人はまだ10代前半と思しき少女。槍の男が二人と何やら話をすると、手際よく先頭で襲われた馬車の荷を残る3台に移し、6頭の馬と3台の馬車に編成変えをした。


「悪いが俺が先頭の馬車を動かすから、お前は一番後ろの馬車に乗ってくれ。あと1時間も走れば大丈夫だと思うが、山を下りるまではまだ警戒は解けない。できれば遊撃で護衛に参加してもらえると嬉しい。」


「護衛?あー、ま、弾も十分あるし、何か出たら援護くらいはできるだろうよ。てか、倒れてるやつら、そのままにしといていいのか?」


「あー、そいつらはもうダメだ…」


「すまん、仲間だったんだな。」


「仕方ないさ、一応、ハチグリの魂石だけは抜き出したのと、彼らの…遺品になっちまったな…装備の一部だけは持って行くが、あとはほったらかして進むぞ。」


「ハチグリ?あの熊さんか?」


「熊?……まぁ、いろいろ聞きたいこともあるが、とりあえず出発だ。」


再び馬車は走り出した。さすがに馬車の上に立って乗れるほどのバランス感覚はない。40代のおっさんが座る御者席に狭いながらも座らせてもらった。


1時間も走ると平野に出た。警戒しているのか、おびえているのかおっさんは一言もしゃべらない。隣に人がいて会話がない気まずい時間って長く感じられるんだよな。


さらに30分…日が落ちかけた頃、ようやく人が住む集落に到着した。


「今日はここで野営にしましょう。ザックさん、申し訳ない、テントを張るのを手伝ってもらっても?」


「そうだな、残った護衛はお前さんだけらしいし、助けてもらった恩人の手を煩わせるわけにもいくまい。俺たちで野営はこなそう。エメラ、お前は夕食の準備、やってくれ。」


「あい、父さま。エメラ、夕食作りにとりかかります。」


ん~、何か手持無沙汰だ。


「あのー、俺も何か手伝いましょか?」


「いやいや、あなたの手を煩わせるわけには…」


そう言いながら、あっと言う間にテントが組み立てられ、槍の男が薪を拾いに行く。おっさんは、バケツを持って集落の中の井戸に水を汲みに行くらしい。エメラと呼ばれた少女は、馬車からまな板と包丁、それに野菜と干し肉を取り出し、細切れにしては鍋の中に放り込んでいく。


ゴッタ煮?それとも後から何か調味料を入れてシチューとか?隼人は料理はできない…まったくというわけではないが、まぁせいぜいカップ麺に湯を入れたり、レトルトのカレーを暖めたり、パックライスをレンジしたり…それは料理とは言わないらしいが…ともかく、その程度だ。もちろん美味いものは大好きではある。ただ、それは誰かが作った美味いもの、という意味でだが。


水と薪が揃うと、さっそく火を起こし…何と火は少女の手の平から出てきた!…鍋に水を入れ、それを火にくべた。


「ハチグリの肉を削り取ってくればよかったな。」


「いや、護衛が俺だけになったあの状況では、血の匂いにさそわれて魔物が出てくる前にあそこをすぐに離れる必要があったから仕方ないでしょう。」


「そうだな…それより、明日からだが…」


火を囲み、二人の男がこれからの予定を話し始めていた。


煮えた干し肉入り野菜のゴッタ煮、塩味オンリーがそれぞれの器に盛られ、食事が始まるとようやく隼人の話が始まる。


「で、ここはどこっすか?」


「あー、その前に、俺はリオン。槍使いの戦士で、ギルドランクはCだ。で、こちらが依頼主のザック・マルトさんにマルトさんの娘のエメラちゃん。」


「俺は岡田隼人っていいます。一応、航空自衛隊でパイロットやってます。階級は…」


「おいおい、何だそのじえいたいってのは?」


「いや、そちらこそ槍使いって何すか?」


「………」


そう、これがいわゆるラノベで言うところの異世界!ファンタスティック~!


ラノベを読む習慣があるわけではないが、知識はある。いや、ほんと興味があるわけじゃないんだよ?猫耳とかキツネのしっぽをモフモフとか…そんなのに憧れてないよ?でも、エルフの美人さんには会いたいかな?


ようやく、自分のおかれた位置を認識した。てことは…さっき、エメラちゃんがやった発火は…魔法ってやつか?


「どうやら、俺、こことは別の世界から来たみたいっす。」


「別の世界?」


「ええ、んーと何ていうか機械に乗って空を飛んでたら急にこっちの世界に飛び込んじゃったみたいで、気がつけばさっきの森に…あ、そういや、俺が手を振ってたのに攻撃してきましたね!?」


「……そりゃ、あんなとこに立ってたら、誰だって山賊か魔物かと思うさ…けどまぁ、すまんかったな。」


「いいでしょう、私も心は寛容ですし、てか魔物?やっぱいるんだ!で、魔法も使えるんだね?」


「基本的な魔法はたいていのやつが使えるが、戦術魔法となるとそれなりの才覚と修業が必要だぜ。」


「森で火球を撃たれた時はあせったけど、エミちゃんの発火魔法、感激した!」


「エミじゃないです、エメラですぅ。まあ、発火魔法くらいはお手のものですけどね、褒めていいわよ?」


うんうん、これってラノベ典型のいわゆるロリっこでツンデレってやつでそ?いやぁ、いいシーンに立ち合わせてもらった。


「で、ハヤト殿、これからどうなさる?我々はシグナの町まで帰るんだが、よかったら護衛としてついてきてもらえると有難い。もちろん報酬も出しましょう。今日助けてもらったお礼とは別にね。」


「ほうほう、それは願ったりかなったりです。できれば、この世界の常識…たぶん俺の知識もほぼ間違ってないとは思うんだけど、教えてもらいたい。」


「いいでしょう、私が最低限の知識くらいは教えましょう。その様子じゃ、ギルドにも入ってないんでしょ?戦闘ができるようだから、シグナに着いたら冒険者ギルドにでも行ってみましょう。」


「うんうん、冒険者ギルド…もうこれは定番!で、魔力を測定すると測定不能で、もうね、無双しちゃうんだ。でもって、ゆくゆくはエルフさんに可愛い獣人の女の子をはべらせてハーレムを…」


「あ、あの、ハヤトさん、声、だだもれですけど?」


3人が隼人を見る目…恩人への尊敬の目から…何か汚物を見るような目に……


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