70点
攻撃的魔術の連携の講義が終わった。
ケルと並んで教授のところへ行くと、教授から今日の評価を点数化されたプリントを手渡される。ケルが受け取って見ているのだが、背の高いケルが自分の顔の前にプリントを持っていってしまったので、リヴには内容が全く見えない。
「ちょ、ちょっと見せて、見せなさいよ!」
専攻を変えて始めての実技だっただけに、リヴは結果が気になって仕方が無い。
評価の書かれたプリントを取ろうと、両手を挙げて振り回す。
「あーまて、まてって。」
ニヤニヤと笑いながら、ケルが大きな手でリヴの頭を押さえつける。
「ちょっと! 乙女の頭を抑えるなんて、失礼ですわ!」
「きゃんきゃんうるせーブスだな。」
「ブスって言わないで!」
「ブスにブスって言って何が悪い。」
プリントを見ながらケルに簡単にあしらわれて、リヴは悔しさを隠し切れない。
「よかったな、ブス。まあまあみたいだぞ?」
ようやくプリントがリヴの目の前に下りてきた。リヴはぶん取るようにケルの手からプリントを奪い取り、貪るように文字に目を走らせる。
「えっ? …あら?」
興奮しすぎて、中々内容が頭に入ってこない。何度も何度も見直して、5回目の見直しでようやく内容が頭に入ってきた。
「…70、点?」
70点…。じんわりとその点数が、リヴの中に染み込んでくる。ぽわ、と頬が赤くなる。
点数にしたら大喜びするほどの点数ではない。現にケルの方は、ほぼ100点に近い点数だ。
しかし、治癒魔法が0点だから劣等感を感じていたリヴにとって、かなり驚くべきことだったのだ。その70点の殆どをペアとなった男、ケル・ロアのフォローが担っていたことは承知している。それでも、それでもリヴは嬉しくて、頬を赤くしたまま、プリントを抱きしめてにっこりと微笑んだ。
間抜けにも、この意地悪な男の前で、にっこりと無防備な顔を見せてしまった。
「うわ、ブスの間抜け顔。」
そういわれてはたと自分の状況に気づき、慌てて両手でゆるんだ頬を押さえる。
「うう…うるさいわね! いいじゃないの、私がどんな顔をしようと!」
赤くなったり笑ったり怒ったり、今日のリヴは忙しい。つい恥ずかしさのあまり、憎まれ口を叩いた。
「まあ、お前、なかなかじゃん。」
ケルにそう返されて、リヴは面食らった。まさか褒められるなんて思っていなかった。
ええ?とか声にならぬ声をあげていると、わらわらとケルの仲間も集まってきた。
ケルのようにバシバシとリヴの頭を叩く。
「偽リストやるな」
「お前まじでアタッカー専攻しろよ。」
「ケルさんのペアに丁度良いんじゃねえ?」
「ケルさんのペア、キッツイぜ。」
「いや、意外にいけてたことね?」
熱気むんむんの男たちに取り囲まれて、やいのやいのと会話され、リヴは動揺した。
「えっ、あ、ありがとう、ございます。」
苦手な部類の人たちに好意的に受け入れられていることに驚き、礼を述べながら小さく会釈すると。
「おいお前ら!」
ケルが大きな声で一同を制した。男たちが口を閉じてケルに注目する。
「偽リストとか言うんじゃねーよ。こいつはリヴ・リンだ。」
リヴの顔が赤くなる。おお、と男たちがざわめいた後、リヴ・リンさん、リヴさんと自分のことを呼び始めたので、さらにうろたえる。
「リヴ、お前まじでアタッカー目指せよ。んで、俺と組まねえ?」
リスト家のヒーラーは、必ず誰かとペアになる。ヒーラーでないリヴに、ペアが出来るなんて考えたこともなかった。リヴは少しドキドキしながら、そっけなく答える。
「…べ、べつにいいですわよ。」