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決着と出立

恥。混乱。パニック。

もう何がなんだかわからず、リヴは全力でバフォーエン邸の玄関を飛び出した。

あまりに全力を出しすぎて、玄関扉がバアン!と盛大な音を立てていた。貴族のご令嬢としては結構はしたない行動だったな、などという考えが、あまりに現実逃避しすぎた頭の中で浮かんでいたりする。



「リヴ待てって!」


勢いに任せてとんでもない告白をし、さらに逃げ出したリヴを、ケルが追って来ないはずもなく。


「おい、止まれって!」

「ほ、放っておいて!」


待て、来るなのやり取りをしながら広い庭を、門に向かって走る。

運動用ではないヒールの高い靴で走っているから、つま先やらに痛みを感じる気がするが、もうどうにでもなれだ。

あまりのパニックで目頭が熱くなった。


「なんで泣くんだよ!」

「泣いてない!」

「じゃあその顔は何だよ!」


しかしあっという間に追いつかれて、大きな手で肩を捕まれ、ぐるりと後ろ、ケルの方を向かされた。

頬をつたうものを隠そうと、リヴは慌てて両手で顔を隠す。


「もう嫌、ほんともう嫌。放して…。」

「嫌って、お前なぁ……。」


ケルは大きくひとつため息をつくと、自分の顔を覆ったリヴの手を軽々と引き剥がし、つづいて自分の袖でリヴの顔を乱暴に拭う。


「いたっ! ちょっと、痛い、やめて。」

「やだね。」


ケルの腕に、たっぷりグリグリとかき回され、ようやく開放されたリヴは、長身のケルの顔をにらみつける。

てっきりニヤニヤとリヴをバカにしたような笑みを浮かべていると思ったが、ケルの表情は真剣そのものだった。

予想外の表情に、リヴは次の言葉が見つからず、そのままケルを見つめていると。



「じゃ、気がかわらねーうちに、行って来るわ。」

「行くって、どこに?」


ケルはくるりと背を向けると、そのままリヴの方を見ずに言った。



「南国国境警備部隊。」

「…えっ?」


戸惑うリヴを置いて、ケルはすたすたと歩を進めていってしまう。


「ちょっとケル、待って。なに、もう、えっと。」


リヴは慌てて頭の中を整理して、ケルを止めようとその右腕につかみかかった。


「父さまの戯言になんて付き合わなくていいのよ! だいたい、もとはと言えば教授に来た話なんだから、教授が行けば」

「いいから!」


大声で言葉をさえぎられて、リヴの続きの言葉は喉の奥へ引っ込んでしまった。

ケルはまだこちらを向かないまま、何やら言葉を捜しているようだった。イライラしているのか、小さく「あー」やら「くそっ」などと毒づいている。

そんなケルをじっくり観察していたリヴは、あることに気が付いてしまった。


「ケル? …耳が真っ赤よ?」

「!!」


リヴの指摘に、ものすごい俊敏さでケルの両手が耳を隠した。


「…どうしたの? もしかして体調が悪いとか…。」

「っとに、お前は!」


ぶんっ!と音がしそうな勢いで、ケルが振り向いた。

真っ赤な顔をしている。


「その脳みそミッチリ詰まった頭でちったぁ俺の心の内も察しろよ、このくそバカが!」

「くそバ…!」

「男が『この世で一番大事な存在』とか言われて、尻尾巻いて逃げれるかよ! 国境警備でも何でもやってやる! そんでキッチリ筋通して認めてもらえるんだったら万々歳だろ!」


くっそー、ともう一度毒づいて、ケルは前髪をガシガシとかき回した。

それから、真っ赤な顔のままギロリと射殺すような目でリヴを睨み付けると、右手の人差し指をリヴの喉元に突きつけ言った。


「いいか。俺が最前線で大活躍して名を上げて帰ってくるの、指咥えて待ってろよ。絶対待ってろよ、わかったな、バーカ!」



口早くまくし立てると、ケルは三度毒づいてからくるりときびすを交わし、屋敷の方へと戻っていった。

ドスドスと足音が聞こえそうなその歩き方を、リヴはぽかんと見つめている。

何を言われたのか、よーく頭の中で整理しながら、心臓がドキドキと早鐘を打っていた。







「あっ、ケルさん!」


突如、バフォーエン邸の正門の方向から、間の抜けた声が響いた。

何の事情も知らない三バカが、おおいと手を振りながらこちらに向かって駆け寄ってくる。


「良かった! 探してたんすよ。」

ウェスパーが心底ほっとしたように笑みを浮かべ、リードとバートンが続く。

「リヴちん、言葉が足り無すぎだよ。だからケルさんが誤解しちゃってさぁ。」

「そーそー、ケルさん。実はケイン教授なんすけどね、ケルさんを炊きつけようと…」


そこまで言ったバートンの横っ面に、ケルの拳がめり込んだ。


「うわ、ケルさん何、ぐはぁぁっ!」

「ちょっとま、うぐっ!?」




どうやら真相を伝えに来てくれた三人に、無言で次々拳をお見舞いしていく八つ当たりなケルを見ながら、リヴの顔は勝手に綻んでいくのであった。

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