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ハッピーエンドともうひとつの

リスト家の一室に、険しい顔をした父、真剣な顔をした姉、いつものように飄々とした笑顔を浮かべた教授の三人が顔を合わせていた。

遅れて到着したリヴの目に一番に入ったのは、父の険しい顔で、思わずドキリと胸が嫌な音をたてたが、それを掻き消したのは、教授の人懐っこいさわやかな笑顔だった。

「私は帝国陸軍所属、現在、帝国大教授をしております。一姫殿を頂きたい。」

教授の迷いの無い言葉に、父の険しい顔が一瞬にして崩れ去り、ぽかんと口をあけた間抜け面になった。

「……………姉を、か? 次女のリヴでなく?」

「はい、こちらの姉姫様をです。」

全く笑顔を崩さない教授に、父は動揺したのか顎に手を当てて視線をそらし、黙り込む。

リヴはなるべく静かに、姉たちから少し離れた部屋の壁際に背を預けて、その場を見つめる。少し離れた場所で、家令である執事も同じようにして佇んでいた。

「君が、これと結婚をしてくれると……? しかしこれは我がリスト家の跡取り。婿養子に入って頂けるのでなければ…。」

良いのか、という視線を送った父に、教授は笑みを深くする。

「ええ、承知しております。アタッカーの私が、ヒーラーの権威であるリスト家に婿に入ることには賛否あるかもしれません。私も軍人として数年間、戦地に赴くこともありますがしかし、帝国大教授という職業柄、命を落すような危険は普通のアタッカーよりも少なく、末永く、次期当主となる彼女を支えられるかと。」

教授は笑顔のまま、姉に目を向けた。

「貴女も承知頂けますか?」

姉は真っ赤になって俯くと、小さく小さく、蚊の鳴くような声で、ばか、と呟いた。



姉のあまりに覇気の無い様子に、どうやら二人が恋仲だと思ったのだろう父は、ほっとしたような笑顔を浮かべた。

リヴも、俯いたままどうやら感極まって泣き出してしまったらしい不器用な姉の背を恩師が優しく撫でる様子を見て、幸せな気持ちになる。



と。教授がはたとリヴに視線をおくり、イタズラっぽく歯を見せて笑った。

「ごめんリヴ。ついでに少しお節介しちゃった。」

「え?」

唐突に話を降られ、察しの良いリヴでも話が見えない。

「ウェスパーにちょっとね、吹き込んでみたんだよ。彼らも今後は力だけでなく、駆け引きを身に着けないといけない立場だし。」

父とリヴが二人で目をぱちくりとした様子に、教授は笑みを深くする。

「お父上、二の姫様に客人が来ますので、少しだけ話を合わせて頂けますか?」

「は?」

状況がつかめないままの一同を置き去りにして、教授が姉の涙を拭いて立ち上がらせ、ほらほらとリヴや姉の立ち位置を移動させる。教授、姉、リヴの三人が三角形を描くように並び、その向こう側の執務机に父と家令。


その時、外がわーわーと騒がしくなり、誰かが階段を駆け上る激しい足音が近づいてくる。何事かと皆顔を見合わせた。教授がにっこりと微笑む。

「確認ですが、先ほど、お父上にお許しいただいて、私はリヴの義兄になることが出来ました。リヴと家族です。間違いありませんね?」

事情のわからないまま、うんうんとリスト家親子が頷いたとき、バァンという音と共に、父の執務室の扉が乱暴に開かれた。

そこには、赤毛を真っ赤に逆立てた大男、ケルが、はあはあと息を荒げて立っていた。

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