姉と彼と
姉は完全にうろたえていた。
想いを告げろと言われて力づくで引っ張り出され、連れて来られた先が帝国大。その事実に狼狽しているようだった。
「リリ、リヴ? ね、ねぇ…な、なんで、なんでここへ?」
赤くなったり青くなったりする姉を見て、リヴはくすりと笑った。
「あら。告白するんですから、お相手がいる場所に来ないとはじまらないでしょう?」
さあ、覚悟を決めて頂戴、といえば、姉は涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、すがるようにリヴを見た。
「お相手って、あなた…!」
リヴははぁーっと深くため息を付く。リヴだって人のことを言えた義理は無いが、姉の気持ちは判りやすすぎた。例の夏合宿の折に感づいて以降、何かにつけて名前を出せばビクビクとあからさまな反応するのだから。
「あーら。姉さまの想い人がケイン教授だってことくらい、お見通しですわよ。」
「!」
ひくっと喉を鳴らして言葉を失った姉に、リヴはふふんと目を細めた。
「さすが姉さまね。義兄さまが教授なら、大歓迎ですわ。」
そう言って晴れ晴れとリヴは微笑む。
教授は有名貴族の嫡子というわけでもないし、フィアンセはおろか恋人も居ないということはリサーチ済みだった。年齢も姉の少し上と、釣り合いのとれる優良物件だ。
「ゆ、優良物件って…。」
姉の涙に濡れた頬が、ほわんと紅くなる。年上の姉に向かって失礼かもしれないが、可愛らしいとリヴは思った。
「行きましょう、姉さま。今ごろは研究室に居らっしゃるはずよ。」
そう言って手を引いたが、姉は地に根をはったかのように動かない。
「姉さま?」
リヴの呼び掛けに、姉は可愛らしくフルフルと首をふる。
「こ、こんな顔で、行けないわ…。」
涙でぐしゃぐしゃになって、頬を少し赤らめた姉も良いとリヴは思ったが、そこは同じ女子として納得する。
「一度出直し…」
「いいえ、姉さま。」
リヴはぴしゃりと姉の言葉を遮った。
この期に及んで先伸ばしにしようとする乙女な姉に、うふふと笑ってみせる。
「私のロッカーにメイク道具一色がありますから、そちらへ。」
逃がしませんわよ、と言わんばかりのリヴに、姉は観念したかのようにがっくりと肩を落とした。