三人との雑談
「知っていたらで良いのだけれど。」
貰ったばかりのクッキーと紅茶を口にしていたリヴが、少し真剣な目で三人を見つめた。ちなみにバートンは例のロールケーキ、リードとウェスパーは紅茶だけを口にしている。
「何?」
すぐ反応したリードに、うん、と返事をして、少し言葉を詰まらせた後、リヴが顔を上げる。
「私を助けてくれたのって、どなたでしたの? ケイン教授? ケルには何だか悪くて聞けなくって。」
「ああ、だよねー。ケルさん、結構へこんでたみたいだし。」
「うんうん。さすがリヴちん。判ってるなー。」
話の筋が違う方に向きかけたのを、ウェスパーが正す。
「俺も気になってケイン教授に聞いたんだけどさ。」
リヴは身を乗り出してウェスパーを見た。
「公式には教授陣ってことになってるらしいんだけど、実際のところは軍人部隊らしいんだよ。」
「軍人? 公式には、って?」
リヴの頭の上に、ハテナマークが大量に飛び出た。
「うーん何かね、任務であの辺りを丁度通りかかった軍人の部隊があって、強い魔力を感じたから寄り道して、クイーンをぶっ倒してくれたんだって。で、任務途中の寄り道だから内密にして欲しい、って。」
「へえ…? そうだったの…。」
そんな偶然があるのだろうか、とも思ったが、あの状況から生きて帰還できたことが何よりの証拠である。
リヴは偶然に感謝しながら、おぼろげな記憶の中に確かに存在する、女の子の声や治癒魔法の暖かさを思い出していた。
(これから私が飛び込もうとしている帝国軍という世界に、あの子がいるのね。)
治癒魔法の名門である家に育ったリヴには判る。
あの声からして、彼女はリヴとそう歳は変わらないだろう。そして、姉や父よりも強い治癒の力を持っていて、軍の中ですでに活躍しているのだ。リヴたちが逃げるしかなかったクイーンを、ものともしない部隊の一員として。
「軍人、か。」
ぽつりと呟いたリヴを、リードが心配そうに見る。
「リヴちん? 大丈夫?」
「あ、うん。ごめんなさい。」
顔をあげてニコリとリヴが笑った。
「なんか、実感しちゃった。帝国大出身の軍人ってエリートってイメージだったけれど、それだけじゃダメなのよ。クイーンアントに苦戦してるようじゃ、アタッカーとして使い物にならないわ。」
私もまだまだね!と息巻くリヴには、ウェスパーの、いやいやあの任務は軍人の中でもかなりの上級者向けらしくて、という言葉は届かない。
バートンとリードが、あちゃーと頭をかかえた。
「あーあ、真面目リヴちん発動、だな。」
「ウェスパーのバカ。俺、知らねー。」
「お、おまえら!」
リヴがこういう思考回路に陥った時に取る行動を、三人はよく知っている。ケルを突き放して、自分磨きに没頭してしまうのだ。不機嫌になったケルの相手はいつも自分達三人で、へとへとになるまで訓練に付き合わされたりと、とにかくたちが悪い。
「はぁーっ…。ケルさんの照れ屋が何とかなればなぁ。」
「うんうん、無理やりキスとかしちゃえば、ぐぐっと距離縮まると思うんだけど。」
ウェスパーとバートンのため息まじりの呟きに、ベッドの上のリヴが盛大に咳き込んだので、三人が目を丸くしてそれを見た。
「へ、変なこと言わないでちょうだい!二人とも嫌いよ!」
真っ赤な顔で怒ったリヴに、慌てて謝る二人の後ろで、リードがこっそり笑いながら意味深に呟いた。
「なーんだ。ケルさん、ちゃっかりやってんじゃん。」