三人のお見舞い
「ウェスパー大変だ! リヴちんが変になっちゃってる!」
「は?」
試験結果の発表まで毎日自習、と言い渡されたうちのひとり、ウェスパーは、今日も練習場で汗水流していた。
仲間の中心人物的存在であるケルとリヴは、学校側による卒業試験の課題案件の調査ミスのため、かなりの難易度の卒業試験になってしまい、その怪我の治療やら事後処理やらで、自宅待機扱いになっていた。したがって毎日学校で会えるのは、ウェスパー、バートン、リードの三人だけだ。
ウェスパーが休憩のために、学内の売店で飲み物を買って帰ってきたところへ、親友のバートンが息咳きってやってきたのだ。
「だから、リヴちんが変なんだよ! いつもの元気がなくて、なんかぼんやりしているっていうか…」
必死に状況を伝えようとしているバートンの後ろに、眉間にしわを寄せた、これまた親友のひとり、リードがゆらりと現れた。
「ほほう…。バートン、お前、抜け駆けしたな…?」
「げっ!」
リードはパキポキと指を鳴らしながら、怒りの籠った笑顔を顔に貼り付けている。
ウェスパーはため息を付いた。
「…バートン。リヴちんのところには、ケルさんが見舞いに行ってから、俺ら3人で行こうって約束してただろ。この裏切り者。」
今回は味方しねーぞ、と言いながら、買ったばかりのドリンクをグビリとひとくち飲み込む。
「いや、だって、だってさ!」
バートンがしゅん、と小さくなりながら、まるで子供のように、両手の人差し指をツンツンとあわせた。
「昨日の夕方、偶然ケルさんに会ってさ。リヴちんの見舞いの帰りで、今日目を覚ましたって言ってたから、俺、いてもたっても居られなくて…。ほら、俺の通学路、リヴちんの家の近く通るし…。」
どうやら大学に来る前に、ちょっと寄り道感覚でお見舞いに行ったらしい。
裏切り行為に変わりないことが確認できたところで、リードとウェスパーは顔をあわせた。何だかんだ言いつつ、二人ともリヴの見舞いに行きたいのはやまやまだったし、バートンの気持ちが判らないでもない。怒りを静めたらしいリードが、バートンの頭を拳でぐりぐりと苛めて、言った。
「わかった。俺たちの今日の昼食、お前のオゴリな。それで許してやる。いいだろウェスパー。」
呼ばれたウェスパーはニマリと笑う。
「いいよ。そのかわり今日は食いまくるからな。覚悟しとけ。」
「ぐっ…………わ、判ったよ!」
決着がついたところで、三人は並んで歩き出し…
「いや、そうじゃなくって!」
バートンが再び叫んで、二人の足を止めた。
「リヴちんが変なんだって!」
「はぁ? どういう意味?」
「なんか、なんかこう…おとなしいっていうか…。」
「リヴちん、明るいけど落ち着いたお嬢様な子じゃん。療養中だしそれは当たり前だろ?」
「そうじゃなくて!」
少ないボキャブラリーの中から、何とかリヴの様子を表現しようと、バートンは自分で自分の頭をポカポカと殴った。そんなことしたらもっとバカになるのでは、という言葉をウェスパーは黙って飲み込む。
「元気がないっていうか。」
「いやだから、元気が無いから療養してんだろ?」
「そーじゃなくって! ううーーー!」
はぁ、とウェスパーはため息を付いた。バートンが一生懸命だということは判るが、このペースで説明されていては日が暮れても状況が掴めないだろう。
「とりあえず、いつものリヴちんと比べて何か様子がおかしいと感じたってことでいいよな?」
そう纏めると、バートンは嬉しそうにうんうんと頭を振ってみせる。
「そうなんだよ! なんか話半分だったし、そうですわね…くらいしかしゃべってくれないし!」
バートンの言葉に、リードが眉をぴくりと動かした。
「あの頭の回転の早いリヴちんがか? そりゃ心配かも…。」
「だろ!だろ!?」
ようやく自分の思いに添う言葉が出てきたことに、バートンは安心したように頬を緩ませる。そんな二人のやり取りに、ウェスパーはもう一口ドリンクを飲んでから、ゆっくりと提案した。
「どうせ自習なんだし、昼飯食ったら三人でリヴちんの見舞いに行くか? ついでにその後、ケルさんのところにも顔出そうぜ。絶対暇してるから喜びそう。」
「いい! それいい!」
バートンが身を乗り出して賛成した。リードもうんうんと頷いている。
皆、リヴやケルが心配で、会いたい気持ちは変わらないのだ。