暗闇
見つけた通路は、最も背の低いリヴでも、頭を下げて進まなければいけないほど天井が低かった。蟻が一匹ずつ進むだけの横穴、という感じだ。
ケル、リヴ、レイア、エドワードの順に通路に入り進んでいく。奥へ行くほどさらに通路が細くなり、リヴの目の前のケルは両手をついて、四足で進み始めた。
「リヴ、俺のケツ見て興奮すんなよ。」
前を進むケルが止まって振り向き、悪戯っぽくそう言ったので、リヴはふんと鼻で笑う。
「あら、可愛い女の子のぷにっとしたお尻ならまだしも、貴方の筋肉まみれのお尻を見て興奮するほど、バカじゃありませんわ。」
リヴの反撃に、ケルがぷくりと下唇を突き出しながら前を向いた。
「ひっでぇー。」
耳に届いた呟きには、微かに楽しそうな色が混じっていたので、リヴは下を向いてしてやったりと笑みを噛み殺す。
そういうリヴも、腰を折って身を屈めながらの体制が苦しくなってきたので、同じような体制をとる。
「…というか、目の前でリヴのぷにっとしたお尻が揺れてる俺はいいのか?」
「ひぁ!?」
後ろから、同じく四足で進むレイアに声をかけられ、あわててリヴはお尻を押さえる。今日とてスパッツをはいているから別に中身が丸見えではないことは解っているのだが…。
そんなこんなで動きを止めてしまったリヴに、先頭のケルがやれやれといった体で会話に参入した。
「レイア、お世辞も程ほどにな。それはただのデカイ重しだ。」
「な、なぁんですって! ケル!!」
わざわざ重苦しい溜め息付きで、何て失礼な奴だ!
「はは、そりゃいいや。」
「レ、レイアー!」
二人にからかわれながら進むと、狭い部分は案外早く抜けられた。もしかしたら、疲れたリヴを思ってくれたのかもしれない、と横穴を出てから気づくが、悔しいのでお礼は言わないことにした。
横穴を抜けると、今度は少し広い空間があった。その先にさらに広い空間があるようだった。ひょうたんのような形になった大部屋と小部屋があり、小部屋の方に三人は出た形だ。
一番最初にたどり着いたケルが、じっと立ったまま奥を見つめている。
その隣に肩を並べて並び、ケルを見やると、眉間に皺を寄せていた。
「何か、感じるの?」
ケルの直感は当たる。リヴの言葉に答えないまま、ケルの腕がゆっくりと伸びて、リヴを後ろへと追いやった。
「ケル?」
言葉も無い行動を疑問に感じて名を呼ぶ。ケルはリヴには答えず、リヴの後ろの仲間二人に声をかけた。
「レイア、エド、ここはやばい。戻るぞ。」
「は?」
エドワードが不審気に眉をひそめ、ケルの隣に並ぶ。
「何もみえねーぞ。」
「いいから、下がれ。戻れ。」
エドワードを振り向いたケルの顔は、蒼白だった。リヴの目には、奥の部屋はただの暗がりで、なにも見えない。
「何だよお前、怖気づいてるのか? 戻れったって、奥に何がいるのかもわからねーうちに…」
エドワードが不満そうにそう言って、すらりと腰の剣を抜く。
「おい、エド!」
ケルが怒号を上げると同時に、エドワードが剣を振った。力を込めて振られたその切っ先から、赤い炎が巻き起こり、奥の部屋へと向かって飛び立つ。その炎が明かりとなって、リヴたちの目に、奥の部屋が映った。
「………っ!」
その光景に、リヴは両手で口を覆って言葉を失った。
リヴたちの目の前にあったのは、暗がりではない。見上げるほどに大きい、黒々とした、クイーンアントが炎に反応し、ゆっくりとこちらを振り向く様子が、残り火の中映し出されたのだった。