休憩と作戦
キラーアントの巣討伐任務は、巣の最奥にあるクイーンアントを倒すことである。
この女王がキラーアントの卵を産み続けるので、元を絶たねばならない。
「地図だとここがクイーンの部屋のはずなんだが。」
例のアントを倒してから、さらに三つほど、一行は奥まで進んでいた。
「一旦休憩してから進もう。」
レイアが険しい表情で休憩を宣言した。
リヴは乾いた場所を見つけると、ハンカチを敷いて腰を下ろし、ブーツを脱ぐ。ふくらはぎがパンパンだ。両手でさすったり揉んだりしてマッサージをする。
「エド。お前、休憩の間、リヴの護衛な。離れるなよ。」
ケルがそう指図すると、エドワードがやって来て、同じようにリヴの隣に腰を下ろした。
「美女の護衛か。俺様にぴったりだ。」
おちゃらけて言いながらも、心なしか、安心したような疲れたようなため息をついている。
(ケルったら、私の護衛何て言って、エドに休憩させてあげたいのね。)
照れ屋のケルの、ぶっきらぼうな優しさに、勝手に頬が緩んだ。
同じ攻撃系とはいえ、肉体を酷使して戦う男子三人と、魔術で戦うリヴでは体力の差は歴然としていた。
王族のエドワードに関しても、肉体を酷使する持久力はケルとレイアの二人ほど鍛えていないようだった。いや、むしろあの二人が特別なのかもしれない。
この休憩もリヴたち二人の体力回復のためだと判っているので、見栄を張らずに短い時間で回復させなければ。
そう思ったリヴは、ウエストポーチから一粒ずつ包装されたチョコレートを出して、ぱくんと口に入れる。水筒に入った暖かいお茶を飲む。隣のエドワードにもお裾分けすると、彼は嬉しそうにチョコを頬張った。
「レイア、ここを見ろ。」
ケルがレイアを呼び、壁の一角を指差している。リヴは体を休めながらも耳をすまし、視線はケルの指の先をおう。リヴの位置からでははっきりとは見えないが、奥へ続く狭い通路があるようだ。
「この地図には無い道だな。試験用に地図を作成した後、巣が広がったってことか。」
レイアが首を捻った。
「どうする? 想定されていた試験は、多分ここでクイーンを倒して終了だったはずだ。だが、実際はそうじゃなかった。試験を用意した側も把握していない何かがこの巣にはありそうだぞ。」
深刻なその話題に対し、ケルはニマリと頬を緩めながら、右手の拳を左手の手のひらにパン、とぶつけて言う。「行こうぜ! 俺たち四人なら何とかなるだろ。」
あまりの即答に、レイアが苦笑してこちらを振り向いた。
「リヴはどう思う?」
ケルらしい即答に笑みを浮かべながらも、ここは慎重な答えを求められているとリヴは察した。
ゆっくりと口を開く。
「そうですわね、これは任務ではなく試験ですわ。緊急回避用の連絡具を使って、試験官と連絡を取りたいところですけれど、使うと減点なんですわよね?」
隣のエドワードの顔を見ると、彼はうんと頷く。
「だな。本当に緊急時のためのものだ。」
その答えに頷き返してから、リヴはレイアに視線を戻す。
「じゃあ、奥の部屋を見るだけ見てみて、とても私達で手に負えそうになければ退避、安全な脱出が無理な事態になれば、退避しつつ連絡がベストではないかと思いますわ。」
レイアは大きく頷いた。
「俺も同意見。手におえるかおえないかは、見てから判断しよう。そこの観察眼も試験のうちだろうしな。…二人が少しも嫌だと言わなくて安心した。エドも、それでいいよな?」
全く意見を求められなかったエドワードであったが、何も問題ないといった表情でオウと返事をする。
「よきに計らえ、だ。」
レイアがにいっと笑ったので、リヴもケルも笑みを返す。
「いきましょうか。」
リヴが立ち上がっておしりの埃をパンパンと払うと、三人が大きく頷いた。