潜る
「それにしても、このテスト長すぎるよな。」
しばらく進んでから、ぽつりとケルの漏らした言葉にリヴもレイアもエドワードも静かに頷いた。
何時間も歩きとおしで、かなりの深さまで来ている。 地図上では終盤のはず。次くらいが王冠マークの部屋だな、という会話をしたのは一時間くらい前だっただろうか。 それからずっと、くねくねとした一本道を奥へ奥へと進んでいるのだ。
「こんなに深いなんて聞いてねえよ。」
ケルが誰に言うでもなくぼやく。リヴも同意しながら、洞窟の壁から顔を出して次の部屋を覗き込んだ。そしてその光景に首をかしげる。
「レイア、次の部屋のアントを見て。ちょっとおかしいわ。」
リヴに促されたレイアが顔を少し出して次の部屋を除き、難しい顔で黙り込んだ。
「どうした?」
エドワードとケルが不思議そうにレイアを見る。レイアがリヴに目配せした。説明を、ということらしい。リヴは頷いて、エドワードとケルの顔を見る。
「ここまでの部屋のアントは、トゥリープアシナガアントが巨大化したものだと思うの。成体で私の膝くらいの大きさだったわよね。それを思い出しながら、次の部屋のアントを見て頂戴。」
エドワードとケルが顔を見合わせた後、同じようにして顔を出し次の部屋を除きこむ。
「………でかいよな?」
顔をひっこめたエドワードが言ったので、リヴとレイアがうんうん、と大きく頷いた。次の部屋のアントは、遠目に見ても人間の背丈ほどはある。同じ種類にしては大きすぎるのだ。
「だろ?」
レイアが答えた。
「一匹だけ大きいなら、そいつがクイーンアントだとして納得できるんだけど、20匹は見えるよな。」
「別種類か? としてもなぜこんな洞窟の奥で種類が変わる?」
エドワードとレイアは、会話をしながら結論を纏めているようだ。リヴは二人の言葉に耳をすませながら、もう一度、次の部屋を確認する。
「俺、思うんだけど。」
めずらしく戦術的話題のシーンで、ケルが会話に加わった。三人の視線が一斉にケルに集まる。
ケルは少し気恥ずかしそうにしながら、壁越しに次の部屋を指差して言った。
「あいつら、キラーアントの中でも戦闘要員だと思うんだよね。今まで出くわしたのはただの働き蟻で、あいつらは外敵から巣やクイーンを守るファイター。」
その分析に、リヴはなるほどと頷きながら顎に手を当てた。
「ありえなくはないわね。とすると、ここから先はファイターが守る必要のある巣の中枢、つまりクイーンが居るとみて良さそうだわ。」
レイアが、そうだな、と肯定しながら剣を抜く。
「相手がファイターなら、こっちも戦略を立てて行く必要があるな。ケル、俺らの中で一番素早いお前が、アントを一匹ずつ引き付けてくれ。」
ここから先は、アタッカー四人で闇雲に戦うのは通用しない、とレイアは判断したらしい。
「引き付けられたアントは俺が剣で受け止めてガード役をするから、リヴは俺の後ろから魔法でアントの動きを鈍らせつつ、戦況把握。エドは俺に向かってきているアントを背後から攻撃してトドメを指してくれ。次々いこう。いいか?」
一気に四人の役割分担をして指示するレイアに、リヴは頼もしいものを感じた。
ケルは、初見の敵でもすぐ弱点を見抜く才能に優れているから、先頭に向いている。リヴはじっくり分析するタイプだから、レイアの後ろであればいかんなく能力発揮出来るだろう。
つまり、この短時間で長所を把握し、ベストポジションとなるよう体制を考えたのだ。
「一匹ずつ片付けていこうってことだな。判った。」
ケルがパキンと首をならしながら答える。エドワードもすらりと剣を抜き、
「レイアのガードなんてアテになんねーから、俺が俊殺しないと。ケル、頭以外に弱点を見つけたらすぐ教えろよ。」
皆を鼓舞しながら例の美しいフォームで構えている。
「さすが、指揮官殿ね。」
後ろで杖をかまえながら、そっと茶化してやると、レイアは嬉しそうに振り向いて。
「惚れるなよ。」
ニヤリと口のはしで笑ってみせたものだから、リヴは状況も忘れて破顔した。
まるでケルだ。男の子って、みんなこうなのだろうか?