会話
四人は地図を持ったケルを先頭に、さらに巣の奥へと進んでいく。ケルの隣にエドワードが並び、ケルの手にある地図を覗いた。
「次は右? 左?」
「右だな。…そういやお前の剣、すげー切れ味良いな。どこの刀匠?」
「これか? これはアイゼンバーグ王家御用達の…」
何だかんだいいながらも、ケルとエドワードは気が合うらしい。そのまま二人並んで歩き出した。
たまにしょうもないことで言い合ってリヴとレイアが仲裁するものの、数秒後には何事もなかったかのように雑談をしながら並んで歩く。
リヴはレイアと並んで歩きながら、そんな二人の後ろ姿に微笑む。
「ねえレイア。」
先頭の二人が和気あいあいと武器談話を始めたので、リヴも隣のレイアに話をふってみた。
「レイアはアタッカーというよりも、指揮系統専攻ではなくって?」
思っていたことをそう問いかけてみると、隣のレイアは軽く目を見開いてリヴを見た。
「何でそう思ったの?」
その表情からしてあたりだったようだ。
「動きですわ。全体を見渡して動いているでしょう。攻めるアタッカーの私達と違って、部下を指揮して敵軍を制するタイプかと思ったの。」
「さすが首席、冴えてるね。正解だよ。」
いたずらっぽく言ったレイアに、リヴは顔をしかめる。
「茶化さないの。」
「はは。ごめんごめん。まあね、指揮系統を目指して勉強はしてたんだけど、リヴとケルみたいな特殊連携は初めてで、ちょっと戸惑ってる。」
「あらそうですの?」
アタッカーアタッカーというペアがめずらしいことは判っていたが、戸惑わせてしまっているとは思わなかったので、リヴは少し心配になった。
「もしかして、扱い辛かった? もしそうなら遠慮なく言って頂戴な。でないと修正のしようがないですもの。」
軍人となった後に上官から言われるよりは、今指摘してもらったほうが何万倍も良い。そう思ってレイアに詰め寄ると、彼はぷっと吹き出した。
「リヴ、まじめすぎ。そうじゃなくて、二人のその特殊な連携はいいと思うんだよ。味方が二人の連携を読めないなんて、良いことじゃないか。ありきたりな連携で、敵方に一歩二歩先を読まれては意味がないだろ?」
自分とケルの連携が絶賛されているとわかり、リヴはくすぐったそうに頬を緩めた。
「なあ、俺はどんな風に見える?」
レイアとの会話に、突如エドワードが乱入してきた。キラリと白い歯を光らせながら、キメポーズでケルの肩にひじを乗せる。やめろよ、と言って振り払ったケルとエドワードがじゃれはじめるが、我関せずなリヴは人差し指を顎に当て、うーんとエドワードの問いの答えを考えた。
先ほどのエドワードの構えはまるで英雄を描いた絵画のように美しかった。きらびやかな鎧を身に纏ったエドワードの姿がリヴの脳裏に思い浮かぶ。
「そうね、エドはこういう歩兵じゃなくて、一対一で戦う将タイプじゃないかしら?」
「お?」
エドワードが手をとめ身を乗り出した。
「戦いは下っ端に任せておいて、戦場が最高潮に盛り上がったところで騎兵として後ろから登場するの。"我こそはアイゼンバーグ第二王子、エドワード・ネル・アイゼンバーグなり。そこな将、私と勝負せよ!"ってね。」
剣を空高く振りかざすように、リヴがポーズを決める。
「ぷっ、ダメ王子の負けフラグ丸出しじゃん。」
ケルが噴出してエドワードを小突く。とたんにエドワードが食って掛かった。
「ダメ王子じゃねーよ! そこできっちり将を叩きのめせばステキ王子だろ。よーし、もし帝国と戦になるようなことがあったら、俺は指揮官のレイアを指名してやるぜ。レイア、覚悟しておけよ!」
剣を構えて胸を張ったエドワードに、レイアがクッと人の良い笑みを浮かべる。
「悪いけどエド、俺は指揮官タイプだからそういう場面で前には出ないんだよね。多分、丁度良い部下を指名すると思うよ。例えばケルとかさ。」
名を呼ばれたケルが、ニタアっと人の悪い笑みを浮かべた。
「さすがレイア、良いこと言うじゃねーの。帝国軍最強のアタッカーとなった俺様が返り討ちにしてやるよ、ステキな王・子・ちゃ・ま!」
鼻に抜けるような嫌味ったらしい声で、ケルがエドワードを小突く。ぐらりとよろめいたエドワードはすぐに体制を建て直し、ケルをにらみつけて頬を膨らめる。
「うざっ! ケルうっざ!」
「ぷくくく…弱い犬ほどよく吼えるってな。」
ケルには相手が王子だとかは全く関係ないらしい。たっぷりとねちっこく煽る、煽る。
「はいはい、ほら二人とも、仲間割れしない。」
お年頃の男による子供っぽい喧嘩の仲裁など、とっくの昔に慣れてしまったリヴが、本日何度目かわからないが、どうどうとケルの背中を押してエドワードと引き離した。
同じような行動をレイアもしていたので、二人は目をあわせて、お互いにやれやれと肩をすぼめたのだった。