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呼び出し

「入りなさい。」

教授の部屋の扉をノックすると、中から重厚な声が返事をした。

リヴたち三人は短く目を合わせてから、部屋の中へ入った。

扉を開けてすぐ、三人は同時に硬直する。

(……り、理事長………?)

ケルたちの受講する近接戦担当の教授の部屋に入ったはずなのだが、正面の机に座ってこちらを見ているのはどう見ても、学生ホールのロビーに飾られている"理事長"の肖像画と瓜二つだった。

「ウェッホン!」

三人の横からわざとらしい咳払いが聞こえ、視線をうつせば、当の近接戦担当教授が立っている。どうやら理事長に席を譲ったようだと、意味のない納得をしてリヴはざわつく胸を押さえた。

柔和な顔の理事長が、さらに柔和さを増す微笑みをたたえてリヴたちを見渡す。

「わざわざ呼び出して申し訳ない。君たちを呼んだのは、試験の前にひとつ、重大な注意事項を言っておく必要があるからです。」

柔和な理事長とは対をなすように、教授がギラギラと鋭い目付きでリヴたちを睨み付けている。理事長の前で、粗相はおろか質問の一切は許さんという空気だ。

リヴは自然と背筋を伸ばした。


「君たちの班には、特別な肩書きの方がいらっしゃる。誰だか判るね?」

いたずらっぽい笑みを浮かべた理事長に、睨みをきかせた後、教授がレイアを指名した。

「レイア・ディオス。答えなさい。」

リヴの右側にいたレイアが、カツンと踵をあわせて短く返事をする。

「は。エドワード殿下のことと存じます。」

レイアの言葉に、リヴはドキリとした。今レイアは、エドワードのことを"殿下"と呼んだのだ。

(そう、ですわ。レイアはこの国の有力貴族。でも、王族のエドワードは、レイアから見ても雲の上の存在…。)

先ほど感じたレイアの寂しそうな表情の意味が少しだけ判った気がした。

レイアとエドワードは親友で、気安い関係で。でも、ひとたび公式の場に出れば、アイゼンバーグ王子と帝国のいち貴族になってしまうのだ。



理事長がまた柔和な笑みを浮かべた。

「満点の答えです。レイア・ディオス。ではそれを念頭に、君たちの卒業試験…任務の内容を聞くように。教授、説明を。」

理事長の言葉に教授が短く返事をして、壁にかかった地図を示す。

「お前達は討伐系任務に当たってもらう。魔力によって凶暴化したキラーアントの巣の制圧だ。巣の位置はここ。」

教授が、帝国領の北東部、隣国との境目付近を指差したので、リヴはピクンと反応する。

「教授、質問を宜しいでしょうか。」

さっと右手を軽く上げたリヴに、教授がギロリと鋭い視線を投げてよこした。質問をするなと言っただろうが、と顔に書いてある。一般的女子なら恐れて黙り込むような、冷たい視線だ。

(ひるむもんですか。この人は素が怖い顔なだけよ。こんなので怖気づいていたら、帝国軍人になんてなれませんわ。)

リヴは心の中で自分を奮い立たせると、にこりと口角を上げた。

「私達がいる帝都は、帝国領のほぼ中央。そこから北東部の国境沿いにある任務地までは、移動だけで一週間はかかりますわ。討伐系任務であればもっと近場で沢山あると想像いたしますが、なぜこのような遠方に? 卒業試験で遠征をしたという話は聞いたことがございません。」

リヴの質問に、教授は鋭い視線のまま頷く。

「軍の移動魔法陣の利用許可が下りているので、移動は一瞬だ。」

その答えに、リヴは納得できなかった。

たかが学生の卒業試験、である、軍の移動魔法陣を使ってまで、そのような遠方にする必要は無いはずだ。

なぜ遠方にしたのか、という問いへの答えが無かったので、リヴは承知の返事を返さない。続きを求めて教授を見つめたリヴに苛立ちを感じたのであろう。教授は眉間のしわを深くする。

(そんな顔をしたって、誤魔化されませんわ。)

リヴだって負けていない。答えて?とばかりに、コクンと首をかしげて教授を見上げてやった。

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