班
軍人としてのエリート養成所でもある帝国大の最後のイベント、かつ最大のクライマックスといえば、卒業試験である。
その内容は、軍が請け負う依頼のうち、難易度の低い任務をこなす、というものだ。
掲示板に張り出された班分け表を見て、リヴはほっとする。
リヴと同じ班にケルの名前があったのだ。
(ケルと一緒の班だったら怖いものなしですわ。)
喜んでいる自分に気づき、随分信頼関係が出来たものだと笑う。
ケルとは軍に入っても、できれば同じ隊でペアを組みたい。二人で上を目指したい。試験に優秀な成績で合格した学生は、配属に関して希望が通るという姉の言葉を思い出し、俄然、力が入った。
リヴはもう一度班分けを見て、今度は首をかしげた。普通、軍の任務でも何でも、メンバーはバランスよく配置されるものだ。だがリヴの班は……。
もう一度、班分けを見るが、見間違いではなかった。
リヴの班のメンバーとして並ぶ名前は、リヴ、ケル、エドワード、レイアの四人。
(ちょっと…。全員攻撃要員じゃないの。それも魔術系は私だけ? いくら何でもおかしいわ。)
人数があわなかったのかもしれないが、バランスが悪いのは一目瞭然だ。普通、一人くらいヒーラーが、せめて防御魔法の得意なバッファーがいてもいいものなのに。
「おおっ! リヴちんとケルさんの班、豪華絢爛!」
不意に、いつのまにか隣にいたバートンが話しかけてきた。
「ディオス、バフォーエン、リストと。有名貴族のオンパレードじゃん。」
隣から、リードがひょこっと顔を出す。
「確かにそのとおりだね。んでもそれよりもアイゼンバーグってところが気になるんだけど。」
「どう見ても留学中の王子様です。本当にありがとうございました。」
おかしな台詞を口にしながらお辞儀をしたバートンに、ウェスパーがペチンと突っ込む。
「バートン先生、面白くありません。空気を読んでください。」
それを合図にかゲラゲラと笑ういつもの調子の三人に、どこか緊張していたリヴの心が解れた。
「皆の班はどうでしたの?」
その問いかけに、バートンが満面の笑みになる。
「何と俺ら三人は同じ班!」
リードが渋い顔で続く。
「そして四人目に、意地悪女ヒーラー。」
「誰のこと?」
嫌そうなリードの顔にリヴは目を丸くしながらウェスパーを見る。ウェスパーは苦笑しながら答えた。
「リヴちんを倒すための研究に熱心な、ジュリアだよ。」
「ああ! 三人にはピッタリじゃなくって?」
ぱっと笑顔になったリヴに、リードが噛みつく。
「リヴちんどこまでお人好しなんだよ! あいつこそリヴちんを苦しめた根源じゃんか、最悪だよサイアク!」
あまりのリードの剣幕に押されて謝りそうになったリヴを、ウェスパーがまあまあと止める。
「まったくリードの奴、リヴちんをいじめる奴は俺が許さない!みたいなことばっかり言ってるんだわ。」
「だってお前!」
ウェスパーにも噛みつき始めたリードに、今度はリヴがまあまあと言う。
「ありがとう、リード。でももう私には昔のことで、むしろ今は彼女に感謝してるくらいなの。ふがいない私へのキツーイ闘魂注入だったような気さえしていますのよ! だからジュリアさんのこと、あまり悪く言わないで?」
「闘魂…。」
語尾を強めたリヴの隣で、ぶぶっとバートンが吹き出す。そんなバートンに一瞥をくれながら、リードがしぶしぶの体で頷いた。
「ウェスパー、皆をよろしくね。」
三人の中では一番の安定株であるウェスパーに小声で頼むと、彼はぐっと親指を立てて見せた。
「ま、何だかんだ言いながらリードにも良い刺激になると思うし、安心してよ。」
そんなウェスパーの頼もしい言葉に笑顔になる。うんうん、とバートンが頷いてから、あ、と短く呟いて動きを止める。
「バートン、どうかした?」
バートンが嬉しそうに笑ってリヴを見、掲示板前の人混みを指差す。
「リヴちん、ケルさんが呼んでるよ。ほらあそこ。」
示した方向を見ると、皆より頭ひとつ分背の高いケルが、おおいと手を降っていた。