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いつもと違う

扉を開けて入ってきたのは、今度こそケルだった。

(ケル!)

ほっとして身にまとった空気を和らげたリヴの肩を、エドワードがぐっと抱き寄せる。

「きゃ!」

リヴはよろけて、エドワードの胸の中にしっかりと抱き込まれてしまった。

今が戦闘中なら絶対に気を抜いてはいけない場面だっただろう。今のはリヴが悪い。

「や、ちょっと離してください!」

何とかしようと大きな声をあげるも、ケルとおなじ近接戦の講義を取っているだけある。がっちりと抱き止められて、逃げることもかなわなかった。

「エド、やめとけって。」

「まーまー、いいからいいから。」

エドワードと銀髪君が、少し楽しそうに笑顔を浮かべて話している。巻き込まれているのにリヴは完全に蚊帳の外だ。エドワードの胸に顔を押し付けられてケルに背中を向ける形となってしまっているので、表情も何も伺えない。


「おい、エド…。」

ケルの足音が近づいてきた。静かに怒りを含んだ声でエドワードの名を呼んでいる。

バートンやリードが相手のときは、有無を言わさず殴り飛ばしていたケルだが、何故かエドワード相手にそれはしないようだった。

「ケルー、俺リヴのこと気に入っちゃった。連れて帰って良い?」

ぞくりとリヴの背に悪寒が走る。連れて帰るとは一体何事か。今日あったばかりの女性に向かって破廉恥すぎる。

「ダメだ。いいかげんに…」

ケルがさらに近づいてきたところで、リヴを抱き締める腕の力が緩んだ。すり抜けようと身動ぎしたが、素早くエドの手が腰に回されて抱き直された。

「ちょっと!」

今度はケルの方に向いた形になったので、彼の表情も全てがリヴに見えた。

(え、ケル?)

リヴは驚いて動きを止める。

ケルの顔はやけに白い…を通り越して青かった。

「エド、頼むからやめろ。」

彼は明らかに、狼狽していた。

(いつもの強気のケルじゃない…。)

そんなケルの様子を、リヴは驚きと混乱を浮かべて、エドワードは楽しそうに見つめる。

「何だよー。お前が悪いんだぞ。いっつもストイックなことばっかり言って女っ気のねー奴と思ってたら、ちゃっかりこんな可愛いヒーラー抱えてるんじゃんか。何がアタッカーのペアだよ、全くーー」

ヒーラー? ああ、いつもの勘違いか。にしてもケルがストイックとはどういうことだろう。

エドワードがくどくどと言葉を並べているが、リヴはストイックなケル、という言葉が妙に引っ掛かり、言葉の後半は頭の中をすり抜けてく。

「ちがっ……エド、それ以上言ったらお前相手でも殴るぞ!」

慌ててケルが腕を伸ばしてきたが、それをエドワードは軽々かわす。その拍子に抱え込まれていた腕から解放されたリヴの手を、銀髪君がすっと引いて自分のとなりに連れていった。


身軽になったエドワードが、指をパキパキと鳴らしながらケルを挑発する。

「あれ、どうした? 講義の時の切れ味ねーじゃん。何だっけ、今日全勝して一番になったら」

「言うなと言ってるだろうが! このボケ王子!」

ケルの右拳がぶんっと風を切る。しかしエドワードも素早い動きでそれをかわした。

「んだよ、お前一人にオイシイ思いなんてさせねーぞ。二番になった俺にリヴちょーだい。良いだろ?」

エドワードはリヴに向かってチュ、と投げキッスを送ってきた。リヴは慌ててレポートの束で顔を隠し、それをかわす。




「あんなにケルが逆上するなんて、珍しいな。」

ぽつりと隣の銀髪君が呟いたのを、リヴは聞き逃さない。首をかしげて彼を見上げた。

「…そうですの? アタッカーの講義の時はいつもあんな感じですわよ?」

ケルを筆頭に、三バカやらその他もろもろが常にはしゃいでいるのが、リヴたちのクラスの常だ。

むしろ、普段の仲間相手の時は容赦なく手が出ているので、今日のケルのおとなしさは不自然にも感じる。

「アタッカー?」

銀髪君が目を丸くし、まじまじとリヴを見つめて、

「あっ、君アタッカーか!」

何かに気づいたように、ぱっと笑顔になった。

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