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大学生活も終盤が近づき、リヴたちには卒業試験の気配が漂い始めていた。


卒業試験と言っても実際のところは、帝国軍への入団試験のようなものだ。

学生を4人毎に班分けして、軍が請け負う簡単な任務をこなさせる。その結果を見て軍に入れても差し支えないレベルに達しているか見るのである。


しかし簡単な任務、といっても正規の軍人がこなすレベルの仕事だ。盗賊の取り締まり、魔力をおびて暴走した生物の討伐などが割り当てられれば、実際に戦闘を行わなければいけない。失敗すれば命を失う危険すらある。

であるからこの時期になると必然的に、戦闘の模擬演習が多くなっていた。

優秀な成績を収めているペアの中、アタッカー&アタッカーという珍しい組み合わせで注目を集めていたのは、もちろんケルとリヴのペアだった。


華麗かつ強力なリヴの魔法と、トリッキーなケルの動きはどちらも特殊かつ強力で、少しでも足並みが乱れたり喧嘩になったらペア崩壊だろう、とある教授が言ったらしい。その教授が監督する模擬演習で、二人は大声で言い争いをしながら、ぎりぎり傷を負わない絶妙な力加減で、全く腹が立つくらい息がぴったりな連携を見せたので、「もうよくわからない」とその教授に言わしめた。



「今のところは右だろ!」

「いいえ、左ですわ。」

「…っとにお前は可愛くねーな!」

「うるっさいですわ! あなたに可愛いと思って頂かなくて結構!」

模擬演習の相手を捻り潰した後、二人はぎゃんぎゃんと声を荒げながらベンチに歩いてきて、座った瞬間ふん!とお互いに外を向いた。


「やれやれ、ケルさんとリヴちん、またやってるよ」

「まあいつものことでしょ。」

「夫婦喧嘩は犬も食わないってね」

「「誰と誰が夫婦だって!?」」

三人の茶々に、見事に声を重ねて反論した二人は、ぎろりと顔をあわせる。お互いの顔を指差して「ブス」「バカ」と再び声を重ならせると、リヴがうーっと唸った後、ぺちんぺちんとケルを叩き始めた。

「うるさいですわ! このバカケル!」

「うるせーのはそっちだろ!」

ケルがぺチンとリヴの頭を小突く。うわ、とウェスパーが声を漏らした。うっかり力を入れすぎてしまったケルは、少し表情を硬くする。やりすぎたと思ったようだ。

「…いたた…。もう、ちょっと! 女の子を叩くなんてどういうことよ!」

リヴがいつもさながらの憎まれ口を叩きながら、先ほどと同じようにケルをペチペチと叩いた。

「あれ? お前女だったんだっけ? そりゃ悪かったわ!」

憎たらしい声音でケルが言い、きいい!とリヴが地団駄を踏む。



「やれやれ、仲が良いですな。」

「見せ付けてくれちゃって。」

「ケルさんも、また前見たくガーって行ったら良いのに。」

聞こえないように仲間達が言いながら二人を見て、楽しそうに笑った。





更衣室のシャワールームで湯を浴びながら、リヴは鏡に映った自分の顔を見る。

「別に、そんなに言うほどブスじゃないわ。」

女子更衣室には自分しかいないと判っているから、遠慮なく独り言を言ってみた。

「ブスって言われて怒っているわけじゃないのよ。…でも、たまには褒めてくれたっていいじゃない。」


キュっと音を立てて蛇口をひねりシャワーを止めると、ふかふかのバスタオルで体をぬぐう。そのままバスタオルを巻いてシャワールームを出ると、隣に設置されたパウダールームの鏡の前にリヴは座った。

さっぱりした自分の顔が鏡に映っている。


いつぞやの夏合宿の時に確信した想いは、結局打ち明けていなかった。アタッカーとしての自分磨きに集中するあまり、気持ちに蓋をしてしまったのだ。

あの時のケルは、多分、リヴのことを少なからず想ってくれていたのだろう。今になれば、あの頃のケルが自分との距離を縮めようとしてくれていたことくらい、判る。

「もう時効よね。」

不思議なことに、胸の奥が少しだけ、ツキンと痛んだ。


リヴが変わろうと意地になっているうちに、ケルの方も変わっていた。

やるとかやらないとかいう下品な茶々を言わなくなったし、リヴと同じかそれ以上、真剣に訓練に取り組んでいた。夏合宿では軽くあしらわれていた教授との手合わせも、最近は教授も本気で相手をしないとまずいレベルになっている、と言っている。


「時効、は違うわね。時間が経ちすぎちゃった? うん、…それよ。」

鏡の中のリヴが、うん、と頷いた。

2年間ペアとして、親友として過ごしてきた自分たちは、もうそういう、恋愛沙汰とかを通り越していて、息がぴったりな仲間、相方という形がしっくり来るようになっているのだ。

ふいにドキリとすることもあるけれど、でも、何だか胸が切ないようなそういう相手ではない。相変わらず三バカにからかわれれば、ケルもリヴと同じく「うるさい!誰がこんな奴と!」と怒るから、あっちもリヴと同じ気持ちに違いない。


「大切な人ではあるのよね。でもドキドキとかではなくって…。ああもう、こういう関係を何て言うのかしら?」

考えてもリヴにはよく判らない。

ストレスはお肌の大敵! ということで、リヴは考えるのをやめた。




それは世間では夫婦って言うんだよ…。

そこが女子更衣室でなくウェスパーが居たら、きっとそう突っ込んだ違いない。


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