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平手

「ついにこの時が来たようね。」

「どっかのブスがマラソンで死にそうになりながら、俺を伸してやるとか何とか息巻いてたよな? へっ。やれるもんならやってみろよ。」

不敵に笑いながら向かい合う、ケルとリヴ。

それを見守る仲間達が、ごくりとつばを飲み込んだ。


合同練習の最終戦。勝ち進んだのは、ケル&ジュリアのペアと、リヴ&アンのペアだった。

「こえぇ…。曰くつきの二人の決勝戦かよ。」

「ケルさん、リヴちんを攻撃できるのか?」

「いやそれより俺が心配なのは、リヴちんの精神攻撃が秀逸すぎることだ。ケルさんがどこ弄られちゃうかと思うと……。」

「うわそれこっわ! リヴちんこっわ!」

仲間達がわいわいと話しているのを、リヴは聞き流しながら対戦相手の二人を見つめていた。

ケルの後ろで、ヒーラークラスのトップであり、ケルのペアに収まっているジュリアが、苛立ちを隠さずにリヴを睨みつけていた。



さんざん小ばかにしていたリヴが、アタッカークラスのトップになって自分の前に立ちはだかるとは思わなかったのだろう。しかもそのリヴのペアは一年後輩で、決して成績優秀ではないヒーラー。さらに、自分のペアになったケルがリヴに一目置いているらしいことが行動の端々から見て取れる上、リヴがアタッカークラスで打ち解けているばかりか、アイドル的存在らしきことにも腹が立つ。

「…って顔してるね。」

ウェスパーがジュリアの思考を想像し、リードとバートンに話している。そのくだりを聞いたリードが苦い顔をした後、心配そうにリヴを見つめる。ひとつ前の手合わせで、ケル&ジュリアのペアに負けたため、三人と一緒になって観戦しているディーが、不思議そうに口を開いた。

「皆さん、なぜそんなにリヴ様を心配なさるのですか?」

その言葉に、はぁ?とリードがディーを睨む。苛立ちを隠さないリードに、ディーは驚いたように目を丸くした。

「だって俺らの仲間に仇なす奴は、女だろうと美人だろうと腹が立つだろ。」

ディーはああ、と破顔する。

「わかった、皆さん昔のリヴ様の印象が強いんですね。大丈夫ですよ。」

「ん?」

笑顔のディーに、ウェスパーが首をかしげた。

「何だよディー、もしやお前も俺らのリヴちんに仇なすやつか?」

食って掛かるリードに、ディーは笑顔のまま答えた。

「ちがいますって! リヴ様、ものすごくお強くなられたんです。アタッカーとしての力じゃないですよ、お気持ちが、です。」

「は?」

皆が目を丸くする。ディーは笑顔だ。

「あはは、リヴ様の変化を感じ取れないくらい、ずっと近くにいらした皆さんが羨ましい。リヴ様が昔のまま、素養なしなのにヒーラーとして生きてくれさえすれば、リスト分家の主になる僕の妻になってたはずなのに。」

「はっ!?」

何か、かなりの爆弾発言ではなかったか? リードが片方の眉をピクピクとひきつらせている。ウェスパーは聞こえていやしないかと、そわそわ練習場のケルとディーを見比べた。

ディーは綺麗な笑顔をたたえたまま、続ける。

「ほら、貴族って大学卒業と同時に婚約する人多いじゃないですか。僕はリヴ様に、僕と婚約していただけませんかって申し上げたんです。そしたら何ておっしゃったと思います?」

皆が顔を見合わせた。ディーはにやりと笑って、リヴのマネをする。

「結構です、わたくしは帝国軍一のアタッカーになり、輝かしい未来を送るべく日々努力しておりますの。リストなんていう弱小貴族のさらに分家の夫人だなんて、おとといきやがれですわ!」

うっわ、と三人が絶句した。雰囲気が似ているディーの物真似もレベルが高い。本当にその通りに言ったであろうシーンが、皆の頭の中で再生された。

ディーは笑顔のままだ。

「リヴ様、ものすごく強くなられて、眩しすぎるくらいでしょう? リヴ様を偽リストなんて言ってバカにした小物が今更どうあがこうが、痒くも無いはずですよ。…まあ、結構本気だった僕としては残念なのですけれど。」



丁度その時、ばちんという音が響いた。皆が驚いてそちらを見ると、リヴがジュリアの頬を平手打ちにしたところだった。

「……にっ…偽リストのくせに…出来損ないのくせに…!」

手の形に赤くなっていく頬を押さえながら、ジュリアが甲高い声でリヴを罵倒する。練習場には腕組みをするケルと、対峙するリヴ、その後ろに横たわるアンが居た。

「げ、いつのまに始まってる。」

「何があった?」

状況がつかめず皆前のめりになる。すかさず前へ飛び出そうとするバートンを、ケイン教授が止め、説明をした。

「開始早々あのヒーラーが、リヴのペアの子を攻撃したんだ。オーブじゃなく、生身に当たってね。」

見ればアンの左足に、鋭利なものがかすったような傷がある。アンは痛そうに手を添えていて、傷口から鮮血がたらりと零れていた。


教授が試合中止をしようと手をあげる。

「教授、待ってくれ。」

それをケルが止めた。

頬をおさえ、わなわなと怒りに震える

ジュリア。呆然と倒れるアン。

しかし、リヴとケルの二人だけは微動だにせず、臨戦態勢のままだ。


ディーが大きく目を開いて、ケルを見つめる。しばらく凝視した後、ふうんと呟いて笑みを浮かべた。

そうして教授やウェスパーたちをふりかえり、言った。

「どうか続けてください。そして……我らリストの嫡子様のお姿、とくとご覧くださいませ。」


勝ち誇ったようなディーの笑顔に、一同は言い知れぬ緊張感に包まれた。

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