ヒーラークラス
合同演習が始まった。
「じゃあオーブを配る。名前を呼ばれた奴から俺のところへ来い。まずケル。」
「うす。」
教授がひとりずつ名前を呼んで、オーブと呼ばれる手合わせ用の魔法具を配っていく。伸縮性のあるバンドに、ピンポン玉大の宝玉が着いている魔法具だ。
受け取ったケルは、オーブを首、両手首、両足首に装着した。それを真似て、ヒーラークラスの者もオーブを装着していく。
リヴの配られたオーブは鮮やかな黄色だった。
「今日はヒーラーとアタッカーでペアを組み、手合わせをしてもらう。アタッカークラスの連中はわかっていると思うが、オーブは攻撃を受けると色が灰色に近づき、最後は黒くなる。二人とも黒になったペアが負けだ。治癒魔法を使うと色を回復出来るから、ヒーラークラスの者は的確に状況判断を心がけるように。」
はい、とヒーラー一同が小気味良い返事をした。
「教授!」
ジュリアが微笑を称えた顔で、手を上げた。
「何だ。」
「ペアはどうやって決めるのですか?」
ああ、と教授が答える。
「アタッカーにも系統が色々いるから、俺の方で丁度良いようにグループ分けしておいた。オーブの色が同じ者同士でペアを組むように。今から5分で決めろ。はじめ!」
教授がぱんっと手を叩いたと同時に、オレンジ色のオーブの女子がきゃあっとケルに殺到した。
「うわ、なんだ?」
女子に殺到されて押され気味のケルに、リヴは冷たい視線を送る。アタッカー同士のペア決めでは、いつもリヴはケルと組んでいたから、なんだか取られたような心持になった。
(いけない、いけない。)
ぶるりと頭を振って気をそらす。
「リヴ様、何色ですか?」
ディーが近づいてきた。その顔には、相変わらず信愛の微笑みが浮かんでいる。リヴも笑顔で答えた。
「黄色よ。ディーは?」
「残念。僕は赤です。アタッカーのリヴ様と組みたかったんですが。」
「何、赤!? ディーーーー!」
ウェスパーがどどどどどどっと土煙を立てて駆け込んできた。
「俺と組め! いや、組んでください!」
意外なウェスパーの行動に、リヴはきょとんとする。
「あらウェスパー、女の子と組まなくていいの?」
ウェスパーは悲痛な声をあげた。
「バートンのお下がりなんて絶対嫌だー!」
見ればウェスパーと同じ赤いオーブを身につけたバートンに、女子が殺到している。
「あらまあ…。ケルとの手合わせを見て注目の的みたいね。」
「くっそー、バートンめ、バートンのやつめ!」
ぎりぎりと歯軋りしているウェスパーの手に、ぱんっとディーが笑顔で手を合わせた。
「ウェスパー先輩、バートン先輩を見返してやりましょう。」
「ああ!!」
中々気が合う二人のようである。
(さて、私はどうしようかしら?)
リヴは黄色のオーブを付けたヒーラークラスの子を探した。
(あらいけないわ、出遅れたかしら?)
黄色のヒーラーは皆、ペアが決まり教授の元へと報告に行っている。キョロキョロと見回すと、背中を丸めて不安そうに固まっているヒーラーの女子たちを見つけた。三人ほどで固まっており、全員まだペアが見つかって居ないようだ。そのうちの一人の手に、黄色のオーブがついているのがちらと見えた。。
(二年生かしら?)
どうやらクラスの中でも消極的なグループのようだ。
(女子って、だいたいこうなのよね。)
何だか昔の自分を見ているようで、リヴは放っておけない気持ちになった。
「ねえあなた、良かったら私と組みません? 他の二人も、まだペアが見つかって居ないのかしら?」
リヴに話しかけられた後輩女子たちは、びくりと肩を震わせ、恐る恐るといった風にリヴを見上げた。黄色のオーブのヒーラーが、どもりながら答える。
「ひえ!? えと、わたし、ヒーラーなのですが…」
「ああ!」
リヴの姿を見てヒーラーだと勘違いしたようだ。
(これを言うの、随分久々ですわね。)
リヴはにこりと笑う。
「ふふ、私アタッカーですの。リヴ・リン・リストです。偽リスト、の。ご存知?」
そう言って手を出すと、後輩女子は驚いたように目をあげて、リヴを見つめてきた。
「あなた、が?」
どうやら偽リストはまだヒーラークラスでも通じるらしいと知り、リヴは苦笑する。
「そう。私とペアになってくださらない?」
リヴの差し出した手に、恐る恐る黄色のヒーラーが手を出した。重ねられた手を優しく握りしめると、彼女はほっとしたように肩の力を抜いた。
「後の二人も、まだペアがいないのね?」
「は、はい」
おっかなびっくりといった体で、残りの二人も頷く。リヴは周りを見回して、彼女たちとオーブの色が同じで、面倒見の良さそうなアタッカー仲間二人を手招きした。
やってきた男二人を見て、二年生二人は恐ろしそうにブルブルと震えていたが、リヴの
「この子たち、二年生で緊張しているみたいだから、優しく面倒みてあげてね。」
の言葉におう、と笑ったアタッカー二人を見て、少しほっとしたようだった。
「あの、あの、リスト様、私の成績はあまりよくなくて、その…。」
ペア決めが終わると、リヴのペアとなったアンが申し訳無さそうにぼそぼそと告白を始めたので、リヴはにっこりと笑う。
「大丈夫。二人で作戦を立てましょう。それから私のことはリヴって呼んで? よろしくね、アン。」
「はい、えと、…リヴせんぱい。」
恥かしそうに呼んだアンに、リヴは微笑んだ。
(ヒーラーの後輩に先輩なんて呼ばれる日が来るなんて、想像してなかったわ。)