密談
浜辺のパラソルの下で休みながら、リヴはぼんやりと仲間たちを見つめていた。一番背の高いケルが、燃え盛る太陽の下で満面の笑みを浮かべている。
「…はぁ。」
深いため息をつく。最近自分がおかしい理由に気づいてしまってからというもの、リヴは弱りきっていた。
ハハハと仲間たちの笑い声が聞こえ、勝手に耳がピクリと反応する。大勢の声が混じっているのに、一人の声だけがやけに鮮明だ。
(……最悪だわ。もう、なんでこんな気持ちになっているのよぅ。)
体育座りをした両膝の上に顎をのせて、リヴはぐうっと眉間にシワを寄せる。
マラソンに付き合ってくれるからなのか、いつぞやの水着の件が原因なのか、三バカの猛攻から守ってくれるからなのか、もっと前の別の何かが原因なのかは判らない。とにかく判明している事実は一つだ。
よっしゃぁー!と大きな声をあげてガッツポーズをするケルが目に入った。いつも彼の回りが明るく輝いて見える。
そして、自己嫌悪に陥る。
(教授のような素敵な方がいながら、よりによって何で…ケルなのかしら……。)
何度目か判らないため息がでた。
今日一日のスケジュールが終わり、部屋でぼんやりケルのことを考えてため息をついていたリヴは、窓の外で何かがはためいていることに気づいた。
外はすでに夜。夕食も終わり、シャワーも浴び終わったので、後は寝るだけだ。こんな時間に何かと外に目を凝らしてモノを認識したリヴは、ベッドから転げ落ちそうになった。
「ば、な! なんでそんなものを!」
外でヒラヒラ舞っているのは、バートンのヒモ水着だった。先端にあれをくくった長い棒を、誰かが下の階の窓から持ち上げて振っているようだ。二つの小さな三角形が、夜空にならんでヒラヒラとはためいている。あまりのシュールさに、見ているだけでリヴの胸が痛んだ。
窓の下を覗き込むと、リヴの真下の206号室から、ひょいっとリードが顔を出した。
(あら? この下はバートンだったはずだけど?)
ぐるぐると頭の中が混乱し、無言になったリヴに、リードがほっとしたように笑みを浮かべる。
「良かった、気づいてくれなかったらどうしようかと。」
言いながら、危険な棒をいそいそとしまっている。リヴに気づかせようとして、なぜそんなアイテムを選んだのかが気になったが、聞いてはいけない気がし、スルーすることにした。
「リード、どうかしましたの?」
上半身を乗り出して、声を潜めて聞いてみると、アイテムをしまい終わったリードが顔を出した。
「ちょっと雑談しない? どちらかの部屋ってわけにもいかないから、二階のテラスでどうよ?」
テラスというのは、ビーチチェアの並んだ、共用スペースだ。ビーチに行かずそこで寝そべって日光浴をするのも気持ちがよく、よく利用している仲間もいる。
「えっと…。」
仲間とはいえ、夜に男性と二人というのはどうなんだと迷う。
(でも、気を使ってテラスでって言ってくれてますし、…良いかしら。うん、大丈夫よね。)
リヴはにこりと笑って、行くと告げると、腰まで隠れるベビーピンクの柔らかい上着を羽織った。