余計な情報
「はいリード、アウトー!」
「うわぁ、負けたー…。」
ウェスパーに宣告され、リードは水にひっくり返ったまま笑った。
今やっているのは、これまたバートン発案によるビーチボールだった。相手の名前を呼びながら全力でアタックし、呼ばれた相手がレシーブできなければ負け、という単純ルールだ。
「では罰ゲームのお得情報発表をお願いします!」
ウェスパーの声に、仲間たちがニマニマと笑みを浮かべてリードを見つめる。負けた人間は、"お得情報"をひとつ、皆に提供しなければならないルールになっている。ここでいうお得情報とは、すなわち………お色気情報である。
ちなみに先ほど敗者となったウェスパーは、屋敷の使用人のアンちゃんのバストサイズを提供した。
「仕方ない。とっておきの情報を一つだけ、提供しよう。」
「お?」
バートンが目を輝かせる。リードが背を丸め前屈みになると、全員が同じように体を寄せあった。
リードは全員を見渡し、たっぷり勿体ぶった後、ゆっくり口を開く。
「リヴちん本人から聞いた話だ。今、特定の彼氏や付き合っている男はいない。」
「おお!?」
ウェスパーがずいっと寄ってくる。
「リード! そんな情報を本人から引き出すとは!」
「ふふん。まだあるぞ。リヴちんの好みも教えてもらったも…ブーッ!!」
したり顔のリードの顔面に、ビーチボールがめり込んだ。
「おい、今のはアウトだろ!?」
アタックを打ち込んだケルが、肩を怒らせながらバートンに確認する。バートンが壊れた人形のように激しく首を上下にふった。
「は、はい! 完全にアウトっす!」
「よぉーし。さあリード、話せ。」
2本目のアウトを取られたリードが、鼻をさすりながら苦笑する。
「えと、リヴちんの好みの男性は…」
ベチーンと大きな音をたてて、ビーチボールがリードの横っ面に当たった。
「リード。勿体ぶるな。はやく言え。」
頬に丸くボールの跡をつけたリードが、両手をあげて降参のポーズをとる。
他の仲間たちも、そわそわしながらケルを後押しした。ケルの表情は般若のようだった。
「言います! 言うけど殴らないでくださいね!」
「リード!」
「わああっ!」
ボールを掲げアタックのポーズをとったケルに、リードは待って待ってと叫ぶ。
「ほんっとーに怒らないで下さいね!? リヴちんはケイン教授が好みだって言ってました!」
「えーー…」
皆があからさまに残念な空気をかもし出した。がっくりと肩を落として、ぶつぶつと何か呟く者も居る。無理もない。紅一点かつ美人のリヴは、皆の心のオアシスなのだ。
「教授、か。ふうん…。」
低い声でそう言ったケルの表情を見て、ウェスパー&リードは震え上がった。
(おい、リード! やばい、ケルさんが真っ青だ!)
(そんなこと言われたって、本当にリヴちんがそう言ったんだから仕方ねーだろ!?)
(いや、そりゃそうだけど…。)
「まって、ケルさん!」
こそこそと密談していた二人は、バートンの声で我に帰る。
見れば、青い顔をしたままゆっくりと浜辺に上がっていくケルと、それを追いかけるバートンの後姿。浜辺には、リードの用意したパラソルの下で、本を広げているリヴが居る。
「あら、ケルどうしたの? 真っ青よ?」
事情を全く知らないリヴが本から顔を上げ、にこりと微笑んだ。普段ならここでリヴに意地悪をしてじゃれあう場面なのだが、今日のケルは違った。
「知るかブス! この、ブス! ブスブス!」
「きゃぁ!? な、何よ突然!」
突然怒鳴り散らして、早足で屋敷に戻っていくケルに、リヴが呆然とした後、むっとした顔になり目を細める。リヴがすっくと立ち上がり、ダスダスと砂を踏みしめながら歩くケルの後姿を睨みつけて、大声を上げた。
「バカケル! サイッテー!」
二人の間で、あわあわと挙動不審になっているバートンが気の毒だ。
「おいリード、お前、責任取って何とかしろよ?」
「う…。」
ウェスパーにぽんと肩を叩かれて、リードが唸る。
「責任ったって……だって自分で言わせといて何だよもう!!」
リードは両手で髪をぐしゃぐしゃにかき回した。
「何やってるのかしら?」
午後の手合わせで、突如ケルがケイン教授に手合わせを願い出て、こてんぱんにのされた様子を遠巻きに見たリヴは、教授に飲み物を渡しながら首をかしげた。
教授はアハハと快活に笑う。
「うーん、みんな青春してるなぁ。」