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ケイン教授の部屋で、教授と二人、向かい合ってリヴは座っている。

渡された成績表を、リヴは何度も何度も見返していた。


「ほ、ほんとうに、これ、正しいのですか? 父に何か言われて、その…。」

「全く疑り深いねぇ、リヴは。大丈夫、本当の君の成績だよ。」

「は、はぁ。」


ケイン教授の笑顔の回答に、もう一度だけ、リヴは成績表を見た。

初めて、リヴの成績表に"優"という文字が現れた。しかも、ひとつふたつではない。結構ある。

ぽーっと、頬が赤くなった。


ケイン教授が、はははと軽く笑ったので、リヴは意識を現実に戻して、教授の顔を見た。彼はにっこりと紳士的な微笑を浮かべて、ゆっくり口を開く。

「真面目な話、君はアタッカーの才能があるよ。ヒーラーとしての考え方が基礎にあるからだと思うけれど、戦況を広い視野で見ることが出来ている。だから、あのケルのペアだって勤まるんだ。」

「えっ」

褒められていると自覚して、リヴは耳の先まで赤くする。

「ケルは強い。君の同級生の中で、最もアタッカーとしての才能があるのは彼だろうね。でも、戦場では"強い個"は意味を成さない。」

「はい。」

リヴは姿勢を正して、教授の話に耳を傾けた。

「その点、君は"個"としてはまだまだだけれど、能力の平均が取れている。特に戦術を組み立てる力は僕のクラスの中ではトップクラスだよ。で、足りないのは体力かな。リヴのこれまでの経歴を見れば仕方ないことなんだけれどね。」

「はい…。」

戦の最前線を飛び回るアタッカーとして、体力不足なのは自覚していた。皆と同じ訓練をしてもリヴだけすぐに息が上がってしまう。休憩時間も遊びのように手合わせをしている仲間たちが信じられない。

「教授のおっしゃるとおり、わたくしはお嬢様育ちかつ後方支援のヒーラーとして教育を受けてまいりましたので、体力は他の仲間に比べてかなり劣っていますわ。しかし、それを言い訳にしたくはありません。夏休み中、みっちりジョギングして体力づくりをいたしますわ!」

ふん、と力こぶをつくって見せると、ケイン教授はアッハッハと笑った。

「みんな、リヴのそういう明るいところが好きなんだろうねぇ。さすがにリスト家のお嬢さんには、と思ってたんだけど、もし気が向いたら夏合宿に来るかい?」

ケイン教授は、がさごそと机の引き出しから、一枚のプリントを取り出して、リヴに見せた。

「夏合宿?」

「そう。この大学の持ち物に、海の近くの宿泊施設があってね。まあ元は貴族の別荘だから、君が不自由するようなことは無いんだけど、男衆と泊まりで合宿ってのはまずいかも、なんて思ったりしたわけよ。」

リヴはプリントに目を通しながら耳を傾ける。男衆との合宿、というのは、いかにも父が嫌がりそうだ。

「書いてあるとおり、やることは体力づくりと個々の技強化が中心。君の場合は地獄の走りこみで結構、体力つくと思うよ。」

父の、誤解時代の頑固っぷりも嫌いだったが、誤解が溶けてからの父のデレデレっぷりにもリヴは何とも言えぬ居心地の悪さを感じていた。

(そうよ。別に、お父様が何を思おうと関係ないわ。わたくしがアタッカーになるには、最低でも皆と同じメニューをこなさないと。)

「まあ、ご家族の同意も必要だと思うし、持ち帰って検討して貰っても…」

「いえ、大丈夫です。」

食い気味に答えたリヴを、ケイン教授は目を丸くしてみた。リヴはにっこりと笑ってみせる。

「…お気遣いありがとうございます。姉の承諾を得ますので、問題ありません。参加しますのでよろしくお願い致しますわ。」

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