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水筒

リヴの二年生前期は、風のようにあっという間に過ぎていった。一番の理由はリヴも承知している。

帝国大では、一年生では必修科目と専攻科目が8:2程度の割合でカリキュラムが組まれるが、二年生からは専攻教科のみに絞られる。

リヴの専攻がアタッカーに変わったのは当然のことながら、そのリヴが師として選んだ教授はあの、ケイン教授だった。


そのケイン教授は今、リヴの目の前で熱烈に自分の学生たちの指導に当たっている。


「おい、ケル! お前はもうちょっと頭使え! バートン、右手右手!」


ケイン教授の激が飛ぶ中、相変わらず楽しそうに手合わせする男たちを見て、リヴはこっそり笑顔になった。

リヴの時間があっという間に過ぎるのは、きっと彼らの、ケルとアタッカー仲間たちのおかげなのだ。



「よーし、そこまで。集合しろー。」


ケルとバートンの手合わせが終わると、ケイン教授が片手を上げて全員を集めた。他の仲間と手合わせをしていたリヴも、軽い足取りで練習場を駆けて、仲間の輪に加わる。隣に来たケルが、にかりと笑顔を見せてきた。


「今日の講義で二年生前期のカリキュラムは終了だ。プリント配るぞー。」

ケイン教授の声に、リヴは視線をケルから教授に向ける。隣の学生がリヴにプリントの束をよこしたので、一枚取って束をケルに回した。

「全員回ったか? 今配ったのは面談スケジュールだ。全員、指定された時間に俺の部屋に来るように。」

誰かが、うわめんどくせぇ、と呟いたのをケイン教授は聞き逃さない。

「面談で成績表を渡すからな。サボった奴には単位やらないぞ! いいな、ウェスパー!」

「うわ、地獄耳!」

呟きの主だったと思われるウェスパーの声に、わはは、と仲間たちが笑う。



解散の声と共に、全員がばらばらと練習場の出口に向かって歩き出した。リヴは、いつも練習場に持ち込んでいる小さな手提げ袋を取りに、ベンチへと向かう。渡されたプリントを綺麗に折りたたんで外ポケットに入れようと手を伸ばすと、ひょい、とバックを取り上げられた。

「ちょ、ケル!」

「あっちー、喉渇いたー」

リヴからバッグを取り上げたケルは、シャツの胸元をつまんでパタパタとはためかせながら、我が物顔で勝手にバッグの中からドリンクを取り出し、喉を鳴らして中身を飲みはじめた。

「っぷっはー、うめー!」

「うめーじゃありませんわ! まったく、いつも私のドリンクを。」

最近こうして奪い取られることが多くなったから、今日は対策としてドリンクを2本用意している。

(貴方と違って、私には学習能力があるんですわよ。ふんだ。)

心の中で悪態をつきながら、じとりとケルをにらみつつ、リヴはもう片方の水筒を取り出してこくんと中身を飲んだ。

「お前、面談いつ?」

「明日の11時ですわ。」

水筒から口を離したケルの問いに、リヴは自分の割り当てられた面談日程を答える。

「んじゃあ、ウェスパーの後で俺の前か。皆でメシ食いに行こうって話が出てるから、お前も来いよ。」

「食事?」

ケルの思わぬ誘いに、リヴは目をぱちくりさせた。

「そう。マルシェにうまい店があるんだと。どーせお嬢様、マルシェの店とか行ったことねーんだろ?」

「うっ。」

図星だ。

「クレープがうまいらしいよ。その店。」

「クレープ…。」

リヴの脳裏に、柔らかくて薄い生地に包まれた満載のフルーツと、生クリームとチョコソースがたっぷり入った、おいしいクレープの図が浮かんだ。食べたい。興味はありまくりだ。

「はい参加決定ー!」

ケルの大きな声に、リヴは驚いて真っ赤になった。

「ちょっと、まだ返事してませんわ!」

「バーカ。クレープ食いたいって顔に書いてあるぞ。」

「なぁっ!」

慌てて両手で頬を押さえると、ケルがくくくと笑った。

「じゃあ、明日な。」

リヴの手に水筒を押し付けると、ごちそーさん、と言いながらケルが笑顔で去っていく。練習場の入り口には、ケルの親しい三人、ウェスパー、リード、バートンがこちらを見ながら待っていて、どうだった?という顔でケルを見ていた。

リヴの家に乗り込んできた演技派の三人である。彼らとは、仲間内でも特別親しくなっていた。

ケルからリヴが来ることを聞いたのだろう。三人がリヴに視線をよこすと、嬉しそうに手を振りながら

「リヴちん、また明日!」

と言って出て行く後ろ姿を、リヴはなんとも気恥ずかしい面持ちで見送ったのだった。

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