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再結成

愚かな家庭教師も居なくなり、リヴの元には新しいアタッカーメイジの家庭教師がやってきていた。立ち回りや戦術を教えてもらって、リヴは頭をかかえた。確認とばかりに、あの日ケルが見て怒り狂ったノートを新教師、ヘルミーナに見せる。

「先生、アタッカーアタッカーで組む場合の戦法を、自分なりに考えてみたのですけれど、多分、これ考え方に誤りがあると思うので見ていただけますか?」

ヘルミーナはリヴのノートを見て、優しく笑った。

「これはだめね。アタッカーアタッカーで組む場合は、相互に前に立つの。これでは貴女はずっと後方支援という形になってしまって、貴女の力が生きないし、ペアのアタッカーの負担が大きすぎるわ。貴女はヒーラーでもバッファーでもないのだから。」


その言葉に、あの日、ケルが言った「立場がわかってない」の本当の意味を悟って、リヴは苦笑した。もっと別の言葉で言ってくれれば良かったのに…。いやでも、勝手に誤解して勝手に怒って泣いて、子供っぽい自分に反省する。



結局リヴは、色々あって年明け早々病欠になっていた一年生の後期を、病欠のまま終えることとなった。もちろん病気ではなかったのだが、和解した父の言いつけで、二年生に上がるまでの期間、みっちりヘルミーナにアタッカーメイジとして鍛えてもらうように、とのことだった。

さんざんリヴを悩ませてくれた父の、和解後の行動力には呆れた。大学にまで颯爽と行き、学長だか何だか知らないが、病欠ということで休ませるが自宅で鍛えるから留年させないように、という暴挙的お願いをした上に、了解を取り付けてきたのだ。こんなに味方してくれるだなんて思っても居なかったリヴは、申し訳ないからこの思いは一生胸にしまっておくことにしてはいるが、気持ち悪さすら感じたほどだった。



二年生にあがって初めての講義で久々にアタッカーの実地練習の講義に顔を出すと、「おおっ!」と明るい声が上がった。ケルの仲間の男たちが、笑顔でこちらを見て手を振っている。

「リヴちん、おかえりー!」

「おっかー!」

あの三人がパタパタと駆け寄ってきて、神妙な顔でリヴに謝った。

「ごめんな、作戦とはいえ嫌な言葉たくさん言っちまって。」

リヴはううんと首を振る。

「もういいですわ。それより、三人とも迫真の演技だったわよ!あの姉さまを騙すほどですもの!」

あと一歩で人生危なかった、などと伝えると、三人はブハハと笑って、俺たち演技派男優になれんじゃね?と小突きあっている。根っからの明るい人たちのようで、不良っぽくて苦手意識を持っていた彼らのことを、ちょっとだけ好きになれそうだとリヴは思った。


「にしても、リヴちん、かわいくね?」

「はっ!?」


リヴが用意したアタッカー用の服装は、姉によって少しばかり手を加えられ、正式なリヴの練習着となっている。その姿を見て、彼らはうんうんと頷いては勝手に話を始めた。


「うんうん、そのニーハイそそるわー。」

「絶対領域!!」

「髪も、そういう風にアップのが絶対可愛いよな。」

「おろしていた前の髪型も俺は好きだったけど?」

「俺狙っていい? ねえ、いいよね?」

「え、や、ちょっ…」

「俺も!」

「俺も!」


わいわいと男たちは盛り上がった挙句、全員でリヴを取り囲むようにしてざっと並び、ずらりと右手を差し出してお辞儀をした。

「お願いします!」

「……」

困ってしどろもどろになったところで、男たちの後ろからぬっと大柄の男が現れ、全員の頭を順番にグーで殴りつけた。

「お・ま・え・ら・は!」

「いて」

「うお」

ゲンコツを食らった部分を痛そうに撫でながら全員が蹲ると、大柄の男、ケルがはぁーと大きなため息を付きながら立っている。そしてリヴを見ると。

「お前も軽くあしらえよ!こいつら女なら誰でもいいんだから!」

「なぁっ!!」

リヴは真っ赤になって怒りに震えた。

「あんたは、あんたって人は…なんて失礼なの!」

ぱんっと手に持っていたノートをケルに投げつける。


「……。」

投げつけて、リヴは怒る気力をなくしてがっくりと力を抜いた。チャラ男の褒め言葉に一喜一憂したらいけないのはケルの言うとおりだ。

「それ、見てくださる?」

ぷいっと顔を背けたまま、リヴが言うと、ケルはん?と言いながらノートを開く。開いて内容を見始めたと思ったら、むさぼるように中身に目を通し始めた。


「…私、あなたの言うとおり、自分の立場、アタッカーの立場を間違えていたわ。」

ノートをむさぼり読むケルを横目でチラリと見ながら、リヴは続ける。

「それが私の答えなんですけれど…。その…、よかったら、やっぱり私のペ…」

「お前、これすっげーよ! うわ、なに、ここまで!」

すっげーを連発するケルに、周りの仲間たちがどやどやと顔をよせてノートを覗く。

「こまかっ!」

「うわ、何パターンあんのコレ。」

「おおー、これはヤバイかも。」

口々に褒められて、リヴは少し頬を赤くしながらケルを睨む。

「ちょっと、私は…」

「リヴ・リン!」

またしてもケルに言葉を中断させられた。

「…何ですの。」

言葉を続けることを諦めたリヴは、肩の力を抜いた。そして次のケルの言葉に、どきりと胸を弾ませる。


「俺のペアになってくれ!」


(…先に言われてしまったわ。)

じろり、と睨みつけて、リヴはもったいぶって言った。

「まあ、そこまで言うなら…OKしてさしあげますわ。」


うおーっ!と盛り上がる男たちを見て、リヴはこっそり笑う。

やっぱり正解だった。こいつと居たらきっと、私はもっともっと楽しく生きられそう。もう一度男たちを見ると

「おいやめろよ!」

と言いながら笑顔で騒ぐケルを、仲間達がわっしょいわっしょいと明るい掛け声をあげて胴上げしているところだった。その光景を見て、リヴはあはははと、おなかの底から声をあげて笑ったのだった。


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