表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Short Short Circuit

あつあつ

作者: 境康隆

 熱々だね。

 少々陳腐だが、そう周囲から冷やかされ、女はとても満足していた。

 もちろん男との関係のことだ。周りがそううらやむ程、二人の熱愛振りは友人達の間に知れ渡っていた。

 男は熱心に将来のことを語る。二人で過ごす未来のことを話す。

 男が話す将来は、女も夢見る未来。二人はいずれ訪れるであろう二人の生活に思いを馳せる。

 何処に住む? 子供は何人欲しい? 男の子? 女の子? 名前は?

 いや、それより前に結婚式だ。

 いつ挙げるか? 誰を呼ぶか? 何処で挙げるか? どんな式にするか? どんな趣向を凝らそうか?

 譲れないセレモニーは? 二人は熱を込めて話し合う。

 ブーケは投げる。もちろん。ケーキ入刀。譲れない。ファーストバイト。必ず。指輪の交換。当然でしょ。皆の前での誓いのキス――

 男が女の為に、憧れのセレモニーの候補を次々と挙げる。

 女は特にあれがやりたいと言う。

 ライスシャワーだ。実り豊かな二人の将来を願って、皆がお米をシャワーのように振り浴びせてくれるあの儀式。

 皆に祝福される――そう、熱々だねと冷やかされるあのセレモニーだ。あれは外せないと女は熱っぽく語る。

 熱々だね。

 その言葉で、二人は友人達の前で話していたことを思い出す。

 やっと二人の世界から戻った女は、顔から湯気を上げてその熱々の頬を赤らめた。


 男は思わず逃げ出した。隣にいた花嫁すら押し退けてしまう。そんな醜態を曝して逃げ出した。

 男は結婚式の最中だった。

 その最後のセレモニー。

 ライスシャワーを浴びているところだった。皆が熱のこもった祝福の言葉と、目にも眩しい白いお米を投げかけているところだった。

 男は見たのだ。以前将来を約束した女が、結局熱が冷めて捨てた女が、今日は友人として参加している女が――ライシャワーの用意をしているところを見たのだ。

 女はにっこりと微笑んで立っていた。

 何処から取り出したのか、熱々の蒸気を上げる炊飯器を片手に持って――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ