あつあつ
熱々だね。
少々陳腐だが、そう周囲から冷やかされ、女はとても満足していた。
もちろん男との関係のことだ。周りがそううらやむ程、二人の熱愛振りは友人達の間に知れ渡っていた。
男は熱心に将来のことを語る。二人で過ごす未来のことを話す。
男が話す将来は、女も夢見る未来。二人はいずれ訪れるであろう二人の生活に思いを馳せる。
何処に住む? 子供は何人欲しい? 男の子? 女の子? 名前は?
いや、それより前に結婚式だ。
いつ挙げるか? 誰を呼ぶか? 何処で挙げるか? どんな式にするか? どんな趣向を凝らそうか?
譲れないセレモニーは? 二人は熱を込めて話し合う。
ブーケは投げる。もちろん。ケーキ入刀。譲れない。ファーストバイト。必ず。指輪の交換。当然でしょ。皆の前での誓いのキス――
男が女の為に、憧れのセレモニーの候補を次々と挙げる。
女は特にあれがやりたいと言う。
ライスシャワーだ。実り豊かな二人の将来を願って、皆がお米をシャワーのように振り浴びせてくれるあの儀式。
皆に祝福される――そう、熱々だねと冷やかされるあのセレモニーだ。あれは外せないと女は熱っぽく語る。
熱々だね。
その言葉で、二人は友人達の前で話していたことを思い出す。
やっと二人の世界から戻った女は、顔から湯気を上げてその熱々の頬を赤らめた。
男は思わず逃げ出した。隣にいた花嫁すら押し退けてしまう。そんな醜態を曝して逃げ出した。
男は結婚式の最中だった。
その最後のセレモニー。
ライスシャワーを浴びているところだった。皆が熱のこもった祝福の言葉と、目にも眩しい白いお米を投げかけているところだった。
男は見たのだ。以前将来を約束した女が、結局熱が冷めて捨てた女が、今日は友人として参加している女が――ライシャワーの用意をしているところを見たのだ。
女はにっこりと微笑んで立っていた。
何処から取り出したのか、熱々の蒸気を上げる炊飯器を片手に持って――