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手塩にかけて育てた。……少し、塩をかけ過ぎてしまったかもしれん。

作者: まめ まめみ
掲載日:2026/01/07

 手塩にかけて育てた。

 ……少し、塩をかけ過ぎてしまったかもしれん。


 ワシの弟子は、実に優秀な魔法使いだ。

 まだ13歳ながら魔力制御は正確、魔法理論の理解も早く、失敗はほとんどない。街の者からは感心され、同業者からは将来有望だと言われる。


 ただし――どうにも甘さが足りない。


「おーい、弟子やぁ。一緒におやつタイムじゃ!」

 そう声をかけると、弟子は本を閉じてこちらを見た。


「……糖分摂取は、魔力回復に一定の効果があります」

「お菓子好きじゃろぉ〜♪」

「お気遣いとして受け取ります」

「なんじゃあ、素っ気ないの」


 相変わらず、理屈っぽい。


 ワシは机の上に、白い陶器を三つ置いた。

 中には色の違う粉末。青、金、薄紅。どれも微かに光っている。


「混ぜるとキラキラしてのぅ、綺麗だぞ〜」

「一般的な魔力反応ですね」


 塩が強めな返事をしながらも、弟子の視線は粉末から離れない。ワシはニヤリとする。


「ほれ、やってみい」

「……反応に興味があるんです。好みとは別です」


 そう前置きしてから、弟子は匙を取った。

 粉を混ぜる。パチッパチッと小さな音がして、器の中で白い光が弾ける。

 白が青に、青が金に、金が紅へと変わり、ふわり、と空気が膨らんだ。


 次の瞬間。


「……わたあめになりました」


 淡い色の、ふわふわのわたあめである。

 きらきら光っていた名残が、ほんのり残っている。


「どうじゃ?」

「……視覚効果と食感の変化は、大変興味深いです」


 弟子はそう言ってから、少し迷い――

 指でちぎって、口に入れた。


 もぐ。


 もぐもぐ。


「……美味しいとは、思います」


 弟子の口の端に、わたあめがついている。

 ワシは顔が緩みそうになるのをこらえ、湯呑みに茶を注いだ。


 その日の午後、工房に子ども達が押しかけてきた。


「動物のしっぽがつくオモチャがほしい!」

「ふわふわのやつ!」


「よし、任せておけ!」

 ワシは胸を叩き、弟子を見た。

「お前も作ってみるがよい」


「分かりました。条件は?」

「可愛いやつじゃ」

「主観的ですね……」


 弟子は少し考え、それから真剣に頷いた。


 魔法のオモチャの制作に取り掛かり始めた弟子を見守りつつ、思案する。さてさて、何を作ろうか。

 

 まん丸のウサギのしっぽ。

 ふわふわのキツネのしっぽ。

 ゆらゆら揺れる猫のしっぽ。


 子ども達は大喜びだ。

 お尻にくっつけて、触ってみたり、踊ったり。


 そして、最後に。弟子が差し出したのは――

 細長い、三角形のしっぽ。


「カメです」

「なんでじゃ」

「硬い鱗なのに柔らかい、不思議な触り心地です。それに、本物は甲羅に引っ込めていて、なかなか触れません。希少性があります」


 理屈は完璧だった。

 完成度も申し分ない。


 だが。


「しっぽじゃない!」

「カメかわいくない!」

「やだー!」


「……柔らかいですが」


「いらないぃ〜〜……」

 泣いてしまった。

 

 弟子は本気で困惑していた。

 魔力制御も再現度も完璧。

 ただ、可愛さの方向だけが、見事にずれている。

 

 子ども達が帰った後の工房は、しんと静かになった。

 玄関のランプに手をかざして、火を灯す。ほんのりとした明るさに、工房が少しだけ暖まったような気がした。弟子を見ると、黙々と机の上を片付けている。


 自分の好きな物を差し出して、相手を泣かせてしまった少年に、なんと声をかけようか。下手な励ましは、逆効果だ。温かい物を飲んだら、気持ちも落ち着くだろうか。

 

「さっきは突然すぎた。すまんかったな」

「問題ありません。次は要求を満たせます」


 茶を差し出すと、弟子は黙って飲んだ。

 そうして二人、何も言わずに座っていた。飲み終わった湯呑みを眺めながら、ぽつりと。


「……師匠」

「ん?」

「子ども達は、ウサギのしっぽを一番触っていました」

「そうじゃな」

「次は、あの感触を基準に設計します」


 弟子は立ち上がり、扉へ向かう。

 だが、そこで一度だけ立ち止まった。


「……泣かせてしまったのは、僕の判断ミスです」


 それだけ言って、工房を出ていった。

 机の隅の方に、おやつに食べたわたあめが少し残っていた。

 

 二杯目の茶を淹れるために湯を沸かしていると、弟子が戻ってきた。ワシの向かいの椅子に座ると、無言でわたあめに手を伸ばし、口に入れる。


 もぐ。


「……劣化する前に食べた方が、効率が良いです」


 まだ13歳ながら魔力制御は正確、魔法理論の理解も早く、失敗はほとんどない。今日のような出来事があっても、冷静に振り返ろうとする。

 

 ワシはもっと――

 おやつを前に、目を輝かせる弟子にしたかったんじゃ。きらきらを、きらきら! と言って素直に喜べる子どもに。悲しい時は悲しい、と涙を見せる子どもに。優秀な魔法使いに、大人になるのは、ゆっくりで良いんじゃ。


「? どうかしましたか、師匠」

「たまには、ココアでも作ろうかの」

「わたあめにココアは、甘すぎますよ」


 顔をしかめる弟子は、今日も素っ気ない。


 まあ、まあ。

 この調子でも、こうして甘いものを食べに戻ってくるのだから。


 ちゃんと、甘さは残っとる。

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