手塩にかけて育てた。……少し、塩をかけ過ぎてしまったかもしれん。
手塩にかけて育てた。
……少し、塩をかけ過ぎてしまったかもしれん。
ワシの弟子は、実に優秀な魔法使いだ。
まだ13歳ながら魔力制御は正確、魔法理論の理解も早く、失敗はほとんどない。街の者からは感心され、同業者からは将来有望だと言われる。
ただし――どうにも甘さが足りない。
「おーい、弟子やぁ。一緒におやつタイムじゃ!」
そう声をかけると、弟子は本を閉じてこちらを見た。
「……糖分摂取は、魔力回復に一定の効果があります」
「お菓子好きじゃろぉ〜♪」
「お気遣いとして受け取ります」
「なんじゃあ、素っ気ないの」
相変わらず、理屈っぽい。
ワシは机の上に、小さな器を置いた。
中には色の違う粉末。青、金、薄紅。どれも微かに光っている。
「混ぜるとキラキラしてのぅ、綺麗だぞ〜」
「一般的な魔力反応ですね」
塩が強めな返事をしながらも、弟子の視線は粉末から離れない。ワシはニヤリとする。
「ほれ、やってみい」
「……興味と好みは別です」
そう前置きしてから、弟子は匙を取った。
粉を混ぜると、ぱちぱちと小さな音がして、光が弾ける。青が金に、金が紅へと変わり、ふわり、と空気が膨らんだ。
次の瞬間。
「……わたあめになりました」
淡い色の、ふわふわのわたあめである。
きらきら光っていた名残が、ほんのり残っている。
「どうじゃ?」
「……視覚効果と食感の変化は、興味深いです」
弟子はそう言ってから、少し迷い――
指でちぎって、口に入れた。
もぐ。
もぐもぐ。
「……美味しいとは、思います」
弟子の口の端に、わたあめがついている。
ワシは顔が緩みそうになるのをこらえ、茶を注いだ。
数日後、工房に子ども達が押しかけてきた。
「動物のしっぽがつくオモチャがほしい!」
「ふわふわのやつ!」
「よし、任せておけ!」
ワシは胸を叩き、弟子を見た。
「お前も作ってみるがよい」
「分かりました。条件は?」
「可愛いやつじゃ」
弟子は少し考え、それから真剣に頷いた。
まん丸のウサギのしっぽ。
ふわふわのキツネのしっぽ。
ゆらゆら揺れる猫のしっぽ。
子ども達は大喜びだ。
そして、最後に弟子が差し出したのは――
細長い、三角形のしっぽ。
「カメです」
「なんでじゃ」
「硬い鱗なのに柔らかい、不思議な触り心地です。それに、本物は甲羅に引っ込めていて、なかなか触れません。希少性があります」
理屈は完璧だった。
完成度も申し分ない。
だが。
「しっぽじゃない!」
「カメかわいくない!」
「やだー!」
「……柔らかいですが」
「いらないぃ〜〜……」
泣いてしまった。
弟子は本気で困惑していた。
魔力制御も再現度も完璧。
ただ、可愛さの方向だけが、見事にずれている。
子ども達が帰った後、工房は静かになった。
ワシは片付けをしながら、少しだけ溜息をつく。
「……突然すぎた。すまんかったな」
「問題ありません。次は要求を満たせます」
茶を差し出すと、弟子は黙って飲んだ。
そして、ぽつりと。
「……師匠」
「ん?」
「子ども達は、ウサギのしっぽを一番触っていました」
「そうじゃな」
「次は、あの感触を基準に設計します」
弟子は立ち上がり、扉へ向かう。
だが、そこで一度だけ立ち止まった。
「……泣かせてしまったのは、僕の判断ミスです」
それだけ言って、工房を出ていった。
机の上には、さっきのわたあめが少し残っていた。
しばくして弟子が戻ってくる。無言でわたあめを口に入れる。
もぐ。
「……劣化する前に食べた方が、効率が良いです」
ワシはもっと――
おやつを前に、目を輝かせる弟子にしたかったんじゃ。きらきらを、きらきら! と言って素直に喜べる子どもに。
だがまあ。
この調子でも、こうして甘いものを食べに戻ってくるのだから。
ちゃんと、甘さは残っとる。




