清美を救え!(NTRから始まる悲哀2)
(前半)NTRから始まる悲哀
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記憶が戻った清美は、記憶喪失時期に付き合った誠実な医学生”誠”との楽しい記憶を忘れてしまい、女遊びが激しい元彼氏が作為して付き合いなおして、初めてを奪われ身体を弄ばれてしまった。
元カレとホテルへ入り、3時間後に仲良く出てきた彼女を目撃した誠は、現彼のトシキから”清美のストーカー”扱いを受けてしまい、彼女からの冷たい視線に衝撃を受けて走り出したところを、偶然走ってきたトラックに跳ねられてしまい命を落とす。
後に小林や西之原たち友人らから誠の事を教えて貰った清美は、自分がストーカー扱いをし死に追いやったのが本当の最も愛する彼氏”誠”であり、このことを亡くなるまで後悔しつづけた。
その清美の悲しい人生を救うために、タイムトラベルの薬を発明し医学者になった誠が行動を起こすのだが……。
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現実世界の場合、何もない空間に転移した人物、その人物が現れた瞬間に、その体積分の空気が一瞬で膨れ上がり、爆発し、パルスショックをその世界中に与えて崩壊させる……。転移は物質で行うと非常に危険であり、最低でも質量の限りなく少ないと言われる魂の移動、その程度に収めねば世界滅亡の危機である。
誠は考えていた。もうタイムリープはしてはいけない、先日、一人の同学年の理系女学生の暴行被害を防ぎ、結果的に命を救ってしまった結果、未来へのバタフライ・エフェクトがあり、疎遠になっていた元恋人達と交流しているという多大なる影響を受けていたからだ。しかし、まだここで何もせずにいれば引き返せる。手遅れな程、世界を変えることにはなっていないはずだ、と。
・これ以上のタイムリープは時間が短くても影響が多大になり後戻りが出来なくなるかもしれない。
・研究者の性として、個人の私欲で世界を変えるのは如何なものか、職業倫理にも反する。
・医学者として正当な医学でないタイムリープで安易に救うべきなのか?
・悲劇があったとしても何とかしようとするのではなく、自然に任せるべきではないのか?
・清美を騙して寝取ったトシキをどうする?
・転移トラックの変な運転手や助手席娘は何者なのか? 下級天使と自己紹介していたが。
・運転手たちの上役に女神様という強大な存在がいるらしい。
最も重要なのは、医学生時代の恋人に大きく接して、現在の妻里江はじめ聡や由衣との幸せな家庭を壊したくない。何かするにしても短時間で行い、騙された清美の被害を食い止めるだけにしなくてはいけない。
いつの時点に戻ったら良いのだろうか。多角的にシミュレーションしてみた。
・トシキと清美がラブホテルに入る前
これは、それ以前にカラオケなどで清美の初めてを散らされている可能性があり、もっと前にタイムリープしたほうがよく思える。
・トシキと清美が再会する前
小林さん、西之原君、村越君、三人の話によると大学正門で待ち受けていたトシキが声を掛けたのが最初だという。この接触を防げば、清美が騙されて身体を弄ばれることはない筈だ。しかしトシキと懐かしい会話をすることで記憶喪失が改善し、失くした記憶が蘇るというストーリーを阻害してしまいそうだ。
・清美の御両親に恋人が僕だという事を内緒にするのではなく教えておく。
トシキが清美との会話を通して、彼女の記憶喪失からの復活を手助けする、というお願いをご両親にしたということから、清美のご両親の許可が出て、トシキと二人だけで終日一緒に過ごすこととなったのは事実、これで清美が騙され二人きりになるのが容易になったという契機となっている。
僕が恋人だとご両親に知らせておくこと、これはやってもいいだろう。ただ、親公認のカップルとなってしまったら、結婚まで行きそうだし、現妻の里江との出会いが無くなってしまいそうだ。今の家族は息子共々失いたくはないし、将来に関わるから避けたい気持ちもある。
・いっそのこと、何もしないという対処
こと恋愛や家族間・兄弟間のトラブルにおいては、何もしないという対処法が一番いいという考えがある。詳しくないものが介入してきて搔き廻すのは悪い方向へ行くしかなく、家族離縁、兄弟の絆を断ち切る結果になることが多いと聞く。
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【考察結果】
あれこれと考えた結果、西之原君、小林さん、清美の三人が交通事故に遭って、僕が救急で応急処置をして病院でお見舞いに行き、その後、清美と付き合うというところで告白をせずに終わるという選択肢がベストと思われた。
この時点なら、只の友人で終わるだろうし、恋愛への発展もない、小林さん、西之原君たちとは既に友情があるので将来の子供たちの幼馴染関係にも大きな影響はないだろう。
過去から戻るのは短い時間であることは必須、長くても十分程度だ。内容は「告白しない」ことで恋人関係にはならない。必須条件である。
よし、これだ! と早速、二度と使用すまいと封じていたタイムトラベルを始めることにした。薬の調合を済まし、決して飲んではいけない薬をうっかり誤飲した体にし、ベットに横たわって目を閉じる。
これから清美に告白するという直前を詳細に思い出す。
【タイムトラベル】
ここは遊園地の大観覧車の乗り場。僕の隣には清美が楽しそうにしている。清美は僕の左腕を取り身体をくっつけていた。夕方に近い感じである。そうだ、この観覧車の頂点で僕らは告白し合ったんだっけか。その後、付き合った記念に写真を撮る。とても幸せな時間だったことを覚えている。
「ねぇ、まことさん、大観覧車って二人っきりで乗るのドキドキするね」
「そうだね、楽しみです」
一方、列に並ぶ僕たちの前に、奇妙な変装をしてバレバレな男子高校生がいた。その男子高校生が凝視しているのは可愛らしい娘と男子のカップルだった。なんだろう……? とは思ったが、僕の目的は告白せずに清美と観覧車を降りることだけ、他の事は気になっても何もしないというのがモットーだ。前に居る男子は、何となく息子の聡に雰囲気が似てない事もないが、気にしないことにした。
清美は頬を赤く染めながら腕に力を入れ、両手で僕の腕を抱き締めるような可愛い仕草をする。彼女の顔を見ると、目がうるうるしていた。こ、これは可愛い。可愛すぎる。僕の精神は子供二人を持つ大人なのだが、やはり学生時代にホレてしまった相手を目の当たりにすると恋愛寄りの感情が徐々に膨れ上がる。抱きしめたい……という気持ちに翻弄されそうである。自分を戒めて動悸を落ち着かせよう……。ふぅ~、気を逸らすために前の男子高校生と、その前の高校生らしいカップルを眺める。
なんだか、やはり、西之原君と息子の聡に似ている気がする。また、西之原君に似ている男子の隣には絶世の美女がいて、その娘にも恐ろしいほどの敬うような気持ちが沸き上がる。決して逆らってはいけないというオーラみたいなものを感じるのだ。不思議だった。
少しだけ耳を澄ましてみよう。
『やぁ~ん、あ……ん、ヨシくんったらぁ……もう……耳はダメだって言ってるでしょ?』
ん? なにか聞いてはいけないような声がしている。これは僕の危機管理能力が目覚めて「これ以上は聞いてはいけない」と警告を発している。その後ろで眺めていた息子に似た男子が苦痛の雰囲気を纏わりつけていた。なるほど、あの女の子に片想いをしているんだな。可哀想に。
ぐいぐいと腕を引っ張られた。
「もう、まことさん、どこ見ているの?」
「あはは、ごめんよ、なんだか知り合いに似ている人たちがいてね」
もしも変装した聡が前列にいるのなら、時代が違うので清美と僕の学生時代ではない。きっと別人に違いない。特に気になるのは西之原君に似た男子学生の隣にいる少女だ。ふと神聖なオーラが出てきて、僕ですらソレを感じているので、不安感が増す。西之原君に似た生徒も、僕の友人の西之原君とは微妙に違う。あるとしたら西之原君の息子だろう。そうすると、やはり時代が一致しない。
やれやれ、タイムトラベル中だから僕の感性がズレているのだろう。くわばらくわばら。大人しく過ごそう。
大観覧車のゲージに乗り込む順番が来た。僕は清美に優しく微笑んで席に誘導する。外が観れて僕と正面になるようにする。隣同士にはしなかった。
「まことさん、隣に行ってもいい?」
「あ、両サイドが見にくくなるけど……」
「いいの。隣に座りたいの」
「分かりました。清美さん、揺れるから気をつけてね」
「まことさんがコチラに移動してくれてもいいのよ」
やはり可愛さにドキっとしてしまった。その時、僕らの先のゲージから声が聞こえた。
『や、やめろぉ~~~~! ハ、ハルちゃんの唇を奪うなぁぁぁぁぁぁぁ』
何事だと前のゲージを観ると、先ほどの聡に雰囲気の似た男子が泣き叫んでいた。個室のゲージから漏れる声は聞き取りにくかった。もしクリアーに聞こえていたら聡の声かどうか分かるのにな……などと思ってしまった。ありえないことなのにね。不思議な感覚を受けていた。タイムトラベル中ゆえの感覚の減弱と思える。
『ああ~~~~~~~!!! ハルちゃんっ! ハルちゃんに顎クイしている、ヤメロ、やめてくれーーーーーー』
あの聡似の男子の片想い相手はハルちゃんっていうんだな。
唇を奪われる危機直前なんだろうなと感慨深く思った。
これから彼は失恋の味を隅々まで味わい尽くすのだろう。可哀想に。
そこで隣の清美から声がかかる。
「ねぇ、まことさん、わ、わたしね……」
顔を真っ赤にした清美が僕の方を見ながら声を発した。その真剣な顔つきに僕は焦った。
僕もじっと目をそらさずに彼女を見つめた。彼女は照れたのか視線を逸らして別のことを話してきた。
「て、手を繋ぎたいわ」
清美は恋人繋ぎをしてきた。
指を絡めて親指や人差し指を使って肉球を触るかの如く堪能している。
僕の肩に頭を預けてきた。何となくヤバい、僕が告白しなくても彼女から告白されそうである。
「清美さん、ちょっと前のゲージのお客さんが煩いけど、気にしないでね」
「気になるわよ……、彼は失恋しそうな感じですよね」
「うん、耳を澄ますと悲しくなってくるぐらい片想いを拗らせているみたいだね」
「ふふふ……私と一緒……」
「えっ?」
前のゲージから漏れる声
『や、やめろーーー! ぼくのハルちゃんの唇を奪わないでくれ~~~!!!』
『あぁぁぁぁ~~~~~~~~~! あーーーーーーー!』
清美
「な、なんでもないわ……。まことさんは他の女の子と観覧車に乗ったことあります?」
「ないですよ、清美さんが初めての女友達ですから」
「ふふ……、嬉しい」
『アーーーーーーーーー!!!! ハルちゃんっ、ハルちゃんー!』
「清美さん、あ、ちょっと、顔が近いです」
「だ、だって……。まことさん、こっち見て」
「そんなに近いと、キスしたくなりますよ、ダメです。僕達はまだ恋人同士じゃないですから」
「キスしても好いんですよ……、あ、ごめんなさい、今のは冗談です」
「あはは……、分かってますよ清美さん」
どうやら先のゲージのカップルらが観覧車の頂点に至ったらしく、益々聡似の男子の声が聞こえてくる。清美はその影響を受けたのか顔が真っ赤であった。積極的な行動も当てられたのだろう。
『キスが長いよっ! そんなに長くしないでくれ、ぼくのハルちゃんの唇をもてあそばないで……』
『あーーーーっ! 長いよ、いつまでハルちゃんの後頭部をサワサワしながらキスしてるんだよ!』
『ま、まさか! 夫婦がするようなディープキスをしてるんじゃ? いやそれは許されないっ』
謎の発狂し続ける声に影響されたのか、顔を真っ赤にした清美が誠の恋人繋ぎを解除して抱き着くような姿勢を取る。
「もう、まことさんはずるいっ!」ガバッ
「清美さんっ、えっ、こ、こんなことダメです! 早いですっ!」
「いいの! しばらくこのままで居させてください」
「えっ、清美……さん」
「頭を撫でて下さい。下に着くまでお願いします」
「清美さん、僕と貴女は一緒にはなれませんよ」
つい、未来を口ずさんでしまった。
「そんなこと解ってます」
「えっ?」
意外な返事が聞こえてきた。
清美から、付き合うことはないという意味の言葉が出たのである。
付き合うことがないのなら悲しみに暮れる筈が、最初から恋人同士にはならないと納得しているかのような台詞であり、僕は驚いてしまった。
「まことさん、抱き締めたままで聞いてください。私はここ数日、連日で夢を見たのです。まるで正夢の様な、予知夢の様な。その内容は、私が貴方を裏切り、とても不幸な人生を歩むというものなの。だから、そうなりたくない。貴方も不幸にしたくないの」
「清美さん……」
「だから、私達の関係はここまで。だから下に着くまでは抱き締めて頭を撫でて下さい」
「清美……さん……」
「おかしいでしょ? 夢を事実だと信じて、あなたを諦める私。でも私はそれで好いの」
ぼくは何故か未来のことを話していた。これは本来、やっちゃいけない事だと認識していた。
「清美さん、今は記憶喪失の期間だけど、あと数か月後には回復していきます。その前にトシキという高校時代からの元彼が大学正門で待っていますから気をつけて。彼は貴女を騙して身体と心を傷つけます」
「夢で見ましたわ。大丈夫、彼からの誘いには決して乗りません。操は守ります」
「そうですか……。清美さん、あなたは強い女性だ」
「あの、この時間軸では誠さんと私は、恋人にはなれません。でも思い出にキスをしてくださいませんか?」
観覧車が最下部に到着するまで、あとちょっと。
誠は意を決して思い出のキスをした。清美は泣き始めていた。
さようなら、淡い思い出たち。
大観覧車を降りると、僕たちの先に息子似の男子が泣きながら歩いていた。
失恋したばかりで、相当、心に来てるのだろう。ガンバレ。
その前方には、男子とハルと呼ばれた女の子が仲良く腕を組んで密着しながら歩いていた。幸せそうだ。時代は違う筈だが、聡の隣の席の女子の名が稲垣華さんだった。聡が片想いしている娘だ。偶然の名前の一致だろうが、なんだか不思議な感じがした。
僕は万感の思いを持ってタイムトラベルを終えた。
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↓ 主人公:誠
「リエ、ユイ、サトシ、ただいま」
「お父さん、お帰りなさい。村越おばさんと娘さんが遊びに来てるよ」と由衣。
村越おばさん……、村越君の奥さんか。清美の名字は斎藤だったな。清美じゃないのか……。
その瞬間、僕の頭の中に新しい記憶がインストールされた。
清美
「桜井君、お帰りなさい。今日は娘の瑞葉も連れてきたわ」
「やぁ、清美さん、ミズハちゃん、ようこそ」
↓ 瑞葉
瑞葉
「誠おじさん、あのね、サトシ君がハルちゃんに失恋したんですって! ハルちゃんの相手って義孝君なのよ! 私のカレの! 信じられないわ、聞いてくださいよ。本当にあの彼氏ったら私が恋人だってこと忘れて好き放題しちゃってさ。ハルちゃんに聞いたらファースト・キスを奪われたって」
サトシ
「……」
瑞葉
「サトシ君、みんなに言ってよ。大観覧車で目撃したんでしょ! 義孝君とハルちゃんのキスシーンを!」
サトシ
「え。あ。いや、そんな、いや……」
ユイ
「お兄ちゃん、相手がヨシタカ兄さんなら仕方がないよぉ~。私だってお父さんの次に好きだし、彼女に立候補したいのに」
ミズハ
「由衣ちゃん」
ユイ
「ご、ごめんなさい。決してそのようなことには」
清美
「はぁ……、親子そろって好きになっても報われない血筋なのかしら。私だって本当なら誠さんと」
ミズハ
「お母さん、私と義孝君はもう四年目よ。報われてるわ」
清美
「まだまだよ。それから決して簡単にエッチをしちゃダメよ」
どうやらミズハの一年に一回のキス縛りは母親からの影響だったらしい。母親はどうして簡単にエッチしてはダメだと口うるさく主張してしまうのか、それは別の時間軸のせいかも知れないが、今の時間軸の清美自身には何故なのかは分からなかった。
ミズハ
「大丈夫だってば、結婚まではちゃんと変なことしないから!」
サトシ
「僕も早く恋人が欲しいよ……はぁ……ハルちゃん……」
里江
「ちょっと、きよみん、さっき捨て置きならない台詞があったわよ(怒)」
清美
「あ、リエりん、ゴメンナサイ……」
誠は思った。タイムトラベルを実施して過去を変えたはいいけど、それは少しだけの影響であり、現実にはそんなに大きな変化はなかったはずなのに、と。しかし、村越君の奥さんが清美さんになっているし、聡の片想い相手はハルちゃんのままだが、なんだか目撃した大観覧車の時とシチュエーションがそっくりだし、言いようのない不安感が漂ってくるのであった。
★ミズハは結婚するまではキスもダメというスタンスでしたが、
恋人である西之原義孝くんが交渉して一年に一回だけOKというルールにしました。
★息子サトシ視点
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