1.出会い
7月某日―蝉の声が五月蝿く響く中、視界の端に、宙に浮く、人らしきものが僕に話しかけてきた。僕はあの時から夢を見ていたのかも知れない。―
「のう。ワシが見えておるか?」
「は…?」
咄嗟に出た言葉。僕は思考を巡らせる。
誰なのか。宙に浮いているし、現実離れした髪色に容姿…この世の者…ではなさそうだ。だとしたらなんなのか。何故僕の名前を知っているのか。
「初めて交わす言葉が「は…?」とは…悲しすぎるではなかろうか…シクシク…ワシ、久しぶりにヒトと話すの、楽しみにしておったのに。」
シクシクって…いつの時代なんだこの人…いや、人ではないか。
「そ、れは…ごめんなさい…?というか、貴方は誰ですか?」
「おぉ、ワシか。ワシはお主らでいうところの"神"というものに属しておるぞ。」
「かみ…神!?あの神ですか!?」
確かにここは神社だし、神の1人2人いてもなんらおかしくは無い…が、なんで僕に話しかけてきたんだ…?
「そんなに驚く事ではなかろう。ワシ、見るからに神々しいだろうに。」
「い、いや…いくら神々しくてもいきなり神だなんて信じられないですよ…」
「それもそうだな。よし、何か神っぽいことをしてやろう。」
「神っぽいこと…?」
何をするのだろうか…いきなり大雨を降らせる…とか?
「ほれ」
ポンッ、と音を立てて神様の頭に出てきたのは狐らしき耳。
「耳…?手品か何かですか?」
「なっ!違うわい!これを見て驚かんとは中々…これはワシの妖力で出したのじゃ。触っても良いぞ。」
「…じゃあ、失礼します…」
触ってみるとふわふわしていて、本物の動物の耳と変わりない触り心地だ。1つ言うなら血の通った温かさ等が感じられない所が神である証拠ではありそうだ。
「どうじゃ?」
「耳…にしては生命力が感じられませんでした。生き物では無さそうですね。にわかには信じられませんが。」
「なんと可愛げのない感想…ワシ、「凄い!これが本物の神様!?」みたいなのを期待しておったのじゃが…あやつのように…」
「すみませんね。可愛げがなくて。あと、最後よく聞き取れなくて、なんて言いました?」
「何も言うておらぬ。それに、そんなに不貞腐れるではない。まあ、お主は不貞腐れとる顔も可愛いがのう。」
「可愛いって…僕、男ですよ…」
この神様…急に現れたかと思ったら、揶揄ってくるし…何が目的なんだ…
「可愛いに性別なぞ関係なかろう。ワシも、とってもプリティ、じゃろ?」
「は、はぁ…?そ、そうですね?」
「思って無さそうじゃのう。まぁ良い、本題に入ろう。」
「本題…?」
「そう。お主、ここで最近お参りをしてくれてるでおろう?」
「はい。それが何か?」
何度願っても、叶わない願いだって、言われてしまうのだろうか。
「悪いが、その願い、ワシの今の妖力ではお主の力になってやれんのだ。だから、何かサポートしてやりたくてのう。それが言いたくて、お主の前に現れたのじゃ。」
「…」
なんだよそれ。遠回しに叶わないと言われている様なもんじゃないか。そんな事言われたって、嬉しくない。
所詮、神は神なんだな。やっぱり、オレの願いなんて叶わない。
「ダメじゃぞ。優佳。それだけは言ってはならぬ。」
そう言って口に手を添えてくる神様。
なんでもお見通しって訳か。人の願いが分かるなら当然…ですよね。
「お主の気持ちを全て理解しておるとは言えんが、ワシは寄り添ってあげることならできる。だから、毎日お主の、優佳の話が聞きたいのじゃ。小さな願いくらいなら叶えてやれるしのう。」
「なんで、そこまでしてくれるんですか?」
願いごとしてる人なんて僕以外にも沢山いるだろう。僕より、大切な願いをしている人だっているはずだ。
「なんで、ねぇ。ワシがお主を気に入っておるから。ではダメかのう?」
「気に入ってるって…神様がそんな贔屓してもいいんですか?」
「いいのじゃ。お主は特別なのじゃから。」
「特別…?」
「まぁ気にせんで良い。これからは毎日ここに顔出してくれ。ワシも現世の若者の話が楽しみで仕方ないのじゃ。」
「分かりました。ところで、1つ気になったことがあるので聞いても?」
「勿論良いぞ。」
「神様は、僕以外にも見えているのでしょうか?」
「大体の者は見えておらん。聞こえもせんぞ。まぁ、見える人は見えるらしいが。」
「らしいって…そんな曖昧な…はぁ、だとしても、見えていなかったら僕変人じゃないですか?虚空に向かって喋りかけてるだなんて。」
「大丈夫じゃ。ここは中々人なんぞこんし、来たら別の場所に移せば良かろう。」
そこまで話がしたいのか。可愛らしい神様だな。
「分かりました。明日、また来ますね。」
「おう!待っておるぞ!」
その日の帰り道はまだ蝉は五月蝿かったが、どこか、心地よい音色になっていたように感じた。




