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終章:秘めたる力と未来への道標

灰色の烙印を押され、虐げられてきた少年、レン・アシュフィールド。

彼の内には、計り知れないほどの魔力と、あらゆる属性を操るという奇跡的な才能が眠っていた。

前世の科学知識と、恩師アルベール教授との出会い、そして自らの力で作り出した秘薬によって、彼はついにその真の力を覚醒させた。


しかし、その力はあまりにも強大で、特異すぎた。

彼は、その力を世間に、そして何より家族に隠し通すことを決意する。

表向きは魔力無き劣等生、しかしその裏では、学院長と教授の庇護の下、人知れずその才能を磨き続ける日々。

それは、危険と隣り合わせの、孤独な道だった。


薬草から驚異的な効果を持つ、全属性を内包したポーションを生み出し、ガラクタ同然の素材から、常識では考えられないほどの性能を持つ魔道具を創造する。

彼の『魔法科学』は、全属性の魔力という究極のエネルギー源を得て、無限の可能性を開花させようとしていた。


なぜ、自分はこれほどの力を持ちながら、魔力瘤によってそれを封じられていたのか?

前世の記憶は何を意味するのか?

アシュフィールド家は、自分の真の姿を知った時、どう反応するのか?

特に、あの時僕を助けてくれた母は、一体何を隠しているのか?

多くの謎と、潜在的な危険を抱えながらも、レンの心はかつてないほど澄み渡っていた。


もう、自分を卑下する必要はない。

他人の評価に怯える必要もない。

僕には、僕だけの力がある。

知識と、工夫と、そしてこの秘めたる力で、どんな困難も乗り越えてみせる。

出来損ないと呼ばれた過去は、僕を強くしただけだ。


ある夜、研究室で一人、新しく作った魔道具の調整をしていた時、アルベール教授がやってきた。

「どうだね、新しい魔道具の調子は?」

「はい、教授のおかげで、かなり上手くいっています。この『空間歪曲レンズ』と、光属性と風属性の魔力を組み合わせることで、光を屈折させるだけでなく、微細な空気の流れを制御し、立体的な映像をより安定させることができるようになりました」

僕は、改良した立体映像投影装置で、手のひらサイズの小さな星雲を空中に浮かび上がらせた。


それは、以前の創成祭で見せたものよりも、遥かに鮮明で、リアルな映像だった。

教授は、その映像を静かに見つめていた。

「素晴らしい…レン君。君の『魔法科学』は、この世界の魔法の歴史に、新たな一ページを開く可能性がある」

教授は僕に振り返り、優しく、しかし真剣な眼差しを向けた。


「君の力は、今後、多くの人々の注目を集めることになるだろう。良い意味でも、悪い意味でもだ。君を求める者、君を恐れる者、君を利用しようとする者…様々な思惑が渦巻くだろう」

「…はい、分かっています」

「だが、君は一人ではない。学院長も、そして儂も、君の味方だ。そして、君自身が持つ知識と力は、何よりも強い盾となるだろう」

教授は僕の肩に手を置いた。


「これから、君の道は、さらに険しくなるかもしれん。だが、恐れることはない。君は、出来損ないなどではない。君は、この世界の誰も持ち得なかった可能性を秘めた、真の天才だ」

その言葉は、僕の心に深く響いた。

長年待ち望んでいた、僕自身の存在を肯定してくれる言葉だった。


「ありがとうございます、教授」

僕は、心からの感謝を込めて言った。

夜空に浮かぶ星雲の映像は、静かに輝いていた。

それは、僕がかつて憧れた宇宙であり、そして、僕がこれから切り開いていく未知の未来でもあった。


レン・アシュフィールドの本当の物語は、まだ始まったばかりだ。

彼の『魔法科学』が、そして全属性の力が、この世界の理をどのように変えていくのか、それはまだ、彼自身にも分からない未来の話である。

ただ一つ確かなことは、彼の歩む道が、決して平凡なものではないということだけだった。


彼は、静かに、しかし確かな決意と、秘めたる力を胸に、未来へと続く未知の道を、一歩踏み出した。

彼の行く先に、光が待っているのか、あるいは闇が待ち受けているのか。

それは、この物語がこれから紡いでいく歴史によって明らかになるだろう。


(完)

『魔力無き錬金術師、世界を識る』を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

本作は、魔力を持たないとされてきた少年レンが、前世の科学知識という「異質な視点」と、思いがけない人々の支えを力に変え、自身の内に眠る巨大な可能性――全属性の魔力と対峙し、新たな一歩を踏み出す物語です。


彼を縛り付けていた「魔力瘤」は、見かけの評価や先入観に囚われず、物事の本質を見抜くこと、そして誰しもが内に秘めているかもしれないポテンシャルを信じることの大切さを、ささやかながら描きたかったテーマの一つでもあります。

この物語が、読者の皆様にとって、困難な状況にあっても知恵と工夫、そして人との繋がりを信じる心の一助となれたのなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。

レンの真の冒険は、実のところまだ始まったばかりです。

彼がその類稀なる力をどのように磨き、周囲の世界、そして彼自身の運命とどう関わっていくのか。もしよろしければ、彼の未来にご期待いただけますと幸いです。

[麦藁まる緒&ウルス]

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