エリザの仕事
八百屋の女将に笑顔で挨拶し、エリザは自宅への道を急いだ。
早く帰らなきゃと思いつつ、途中の屋台で大好物のポテサラツナのクレープーナを買い食いし、内心はいつものようにドキドキバクバクしながらも、この世界のごく普通の人間として、大勢の人間に埋没しながら、家路に着いたのだ。
翌朝、職場に出勤したエリザは、編集長に昨晩仕上げた記事原稿を提出した。
「謎の植物アロエアロ、王都に新登場!」
そんな見出しとフォトーナ、他国では焼いて食べる野菜みたいなものらしいとか、どうやら研究所が探してきた品らしいとか、そのうちポイがつくかもとか、当たり障りにない紹介記事だ。
できれば、焼いてみたアロエアロのフォトーナも欲しかったが、記者は料理家でも研究者でもないので、そこを編集長に突かれることはなかった。記事は新情報がわかればまた知らせるという言葉で締めた。
他に休み前に仕上げた「研究所からとうとう出た!噂のレシピの行方!」という、ローストビーフーナ丼の記事も同時に提出した。
エリザの職場はトップリー出版社だ。目新しいものを発見して紹介する「週刊情報誌」「衣服流行情報誌」「美食飲食店情報誌」を出していて、エリザが所属部署は「目新しいものを発見して紹介する情報誌」の編集室だ。情報誌と言っても、記事量が少ないので、週刊情報チラシと呼ぶのが正しいのだが。
我が社の情報網は凄いですよ~というアピールのため、店舗や公共の施設などの壁に貼ってもらっている。載せる情報が見つからない時には、所長が研究所から聞いてきた「語録」や、遠い過去に記事にした「ーナ」付き品のと現在流通している品の比較記事などでお茶を濁すこともあるが、大抵は「衣服流行情報誌」「美食飲食情報誌」の編集室から、「ーナ」や「ッポイ」の進化や変化の情報をもらえるので、創業から150年、トップリー出版社の「週刊情報誌」は無事に発行し続けているし、社会や国からの信頼も厚い。
エリザが就職したのは2年前の15歳の時。就職しようと思ったのは10年前、7歳の時だ。