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中辛

かわいそうなドラゴンと、おそろしい人間達の物語

 むかしむかし、ある山奥に、とても賢いドラゴンが棲んでいました。山奥から人間界を観察したドラゴンは、人間達の争い合うさまを見て、いつか山奥にも人間達が攻め寄せてくるのではないかと考え、自分の身を守るために先手を打ちました。ドラゴンは魔法で山奥に教会をこしらえ、人間達を招き、おいしい料理と暖かい寝床で警戒心を解いてから、「このような教会を人間達の街にも建て、貧しい人々のための宿泊所にするように」と説きました。

 ドラゴンが腕っ節と魔法を駆使すれば、人間の街のひとつやふたつ、たやすく灰にできたでしょう。それでもドラゴンは、「人間にもいいところがあるはず」と信じていましたから、争いとは無縁の人々がおおぜい暮らしているはずの街を滅ぼして見せしめにするよりも、人間達に優しい心を思い出させ、教え導くほうを選びました。たとえ見せしめによって人間達を震え上がらせたとしても、恐怖は憎悪を生みます。忍耐をもって穏便に説得するのが、ドラゴンの身の安全のためにも、人間達の今後のためにも、いい方法のはずでした。


 さて、山奥から街へと帰った人間達は実際、ドラゴンに教えられたとおり教会を建てましたが……教会が本来の役目を果たしたのは、せいぜいドラゴンが生きているあいだだけでした。人間達は初めのうちこそドラゴンの教えに従っていましたが、あるとき山奥の教会に兵隊が押し入り、抵抗しないドラゴンを街の広場へ引きずり出して火あぶりにしてしまいました。それからしばらく経つと、かつてドラゴン自身が「造ってはいけない」と言っていたドラゴン像をどの教会でも祀るようになり、ドラゴンの教えを書き記した教典は、司祭が信者達から小銭を巻き上げるための道具になりさがっていました。司祭はドラゴンの教えに従わない者を迫害し、ドラゴンの教えについての解釈をめぐって司祭同士でも対立し、互いの財産と権力を奪い合いました。

 こんな状況に至ってもドラゴンの教えを本気で信じ続ける人々がいなくなってしまったわけではありません。しかし、「人間にもいいところがあるはず」「信じていれば、いつかきっと平和が訪れる」という願いは、脳天をかち割る棍棒も心臓に突き刺さる刃も防げず、人間達は「いつかきっと!」「そのうち必ず!」と希望を信じながら、殺し合いの果てに全滅しました。


 「教会や学校や刑務所のようなものを建てて人間達を更生すればいい」それが賢いドラゴンの発想の限界でした。ドラゴンは人間達をあなどっていました。争いをやめられない人間達は愚かかもしれませんが、争いに勝つためとなると非常にずる賢くなるのもまた人間なのです。……それでは一体、どうしたら争いはなくなるのでしょうか?

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