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私とヒロシと不思議な夢と

夢を見ていた。

月明かりに照らされた海辺。光を反射して煌めく海面から、誰かの声が聴こえてくる。

『…ゆいこ。ゆいこ…』

懐かしくて優しくてどこか悲しみを含んだ声。あぁ、これは誰の声だっけ。

思い出したくて引き寄せられるように波打ち際へと近付いていく。あと一歩。もう一歩できっと…





「ゆいこ…オイっ起きろゆいこ!遅刻すんだろっ!」

「うあぁっ!!??って、なんだヒロシか…おはよ。」

「おはよ、じゃねーよ今何時だと思ってんだ!?遅刻すんぞ、早く支度しないと置いてくからな!」

「え!?やば…って待ってよヒロシー!置いてかないでぇ!」


私の名前はゆいこ。ちょっぴり妄想が激しい、どこにでもいる女子高生。そして、今隣で私と一緒に通学路を猛ダッシュしているのが、幼馴染のヒロシだ。口は悪いし気は短いけど、面倒見が良くて私にとっては兄みたいな存在でもある。


…そんな彼と付き合い始めたのは、3ヶ月くらい前の事。そう、幼馴染と言ったが今のヒロシは私の恋人…彼氏なのだ。





事の発端はバレンタインデー当日。部活でお世話になった先輩へ、お礼に…と思って専門店のお高めのチョコとプレゼントを手渡している所をヒロシに見られ、その日の夜に近所の公園に呼び出された。


『ヒロシ、どーしたのこんな時間に会いたいなんて…

用事なら電話とかLINEとかじゃ…』

『ごめんな、ゆいこ。でもこれだけはどうしても直接言いたかったんだ。…お前を困らせるかもしれねぇけど、気持ちに区切りをつけるって意味でも、伝えたかった。』

『ヒロシ…?』

『ゆいこ、好きだ。ガキん時からずっとお前に惚れてる。…よく笑うとこも、ドジで不器用なとこも、人の事ばっかで自分の事は後回しにするような優しいとこも。全部。』

『…………っえ?、、は、好きっ、て…』

『悪い、急にこんな事言われてワケわかんないよな?まして、お前は俺の事そういう風に見てるわけじゃないのに。でも心配すんなよ、今日で終わりにすっから。』

『え、ちょっと待ってよ、終わりって…』

『せっかく素敵な彼氏が出来たってのに、いつまでも気のない奴から想われてたら迷惑だろ。なんせ家が隣じゃ、嫌でも俺と離れきれないんだ…。そんなん彼氏にもお前にも申し訳が立たな…』

『ーっ、だから!!!待ってって言ってんじゃん!!??』

『ゆいこ…?』


あまりの剣幕に戸惑っているヒロシに、私は大声で突きつけた。


『付き合って!!ないです!!全部ヒロシの誤解!』

『…え?』


鳩が豆鉄砲を食ったよう顔で呆ける彼に、私はため息をつきながら更に重ねて話す。


『あの先輩には大会の時にお世話になって、チョコが好きだって言うからお礼で渡したの!!だから全然!全く!ヒロシの考えてるような奴じゃない!!』

『え、だって…相手の男あんなに嬉しそうだったし…お前も顔真っ赤にしながら話してたから、俺。』

『大人気すぎて売り切れ続出のチョコ、朝から並んで買った超レア品だよ?そりゃ先輩も喜んでくれたよ。

それに私が顔赤かったのは、その…』


ヒロシに見えないように隠していた私の後ろ手から、ガサリと音が鳴る。


(〜ええいっ、、もうどーにでもなれっ!!)


『…コレ!!』

『え、これって…』

『〜チョコだよっ、見てわかるでしょ!?』

『でも毎年恒例の義理チョコなら今朝もう…』


こ、こいつ鈍いにも程がある!!?

こうなったらハッキリ言ってやる…!


『義理じゃない。…でもずっと渡す勇気が出なくて、今日のあの時も先輩に話聞いてもらってたんだよ。どうしたら、ヒロシに本命チョコ渡せるのか…大好きって言えるのか!』


ーそう言えば、例の彼にもうチョコ渡したのか?

ーそれがまだで。なかなか、その。覚悟が…

ー緊張するだろうけどさ、渡すならサッサと渡してスッキリするのも得策な気がするぞ?…それに、俺から見たら脈ありも脈ありだし。案外向こうから逆チョコ。…とかあったりしてな!

ーちょ、先輩!やめてくださいよ〜!そんなワケないですよ。ヒロシは私の事妹くらいにしか思ってないし…。

ーそうかぁ?ま、ダメだとしても当たって砕けろだ。頑張ってこい!


『嘘だろ、ゆいこが俺のこと…』

『こっちだって、ヒロシが私のことを…なんて思ってなかったよ。…ねぇヒロシ。』


私は両頬が熱く染まるのを自覚しながらヒロシの目を見て告げる。


『順番が逆になっちゃったけど…

好きです。ヒロシの口うるさいけどいつも相手の為を思ってる所も、努力家な所も、笑うと太陽みたいに明るい笑顔も、全部。…私のチョコ、受け取ってくれる…?』

『ゆいこ…あぁ。チョコ、大事に食べるよ。ありがとな。それと俺からも改めて言わせてくれ。』


ーゆいこ好きだ。俺と付き合ってくれるか?





「…ふふっ」

「おい、この急いでる時に何笑ってんだよ…」

「ごめんごめん!なんか急にバレンタインでの事思い出して…」

「おまっ、あん時の話はもういいだろ…!??」


あの時、早とちりで先走りまくった自分をヒロシはかなり恥ずかしく思っているらしく、話題に出す度に耳まで真っ赤にしているのだ。なんだか可愛いらしい。

そんな私の内心を知ってか知らずか、ヒロシはわざとらしく咳払いをすると、先程までとは変わって少し心配気な口調で別の話題を口にする。


「そーいやお前…今日、変な夢でも見てたのか?」

「へっ!?な、なんで?」

「寝てる時のお前、心なしか泣きそうな顔してたからさ…。それに起きた後も妙に沈んでる感じだったし。なんかあったか?」

「…ううん!大丈夫、なんでもないよ!全然このとーり元気いっぱいだし!」

「ならいいけど…何かあったらちゃんと相談しろよ?」

「わかってるって!ありがとね、ヒロシ!」


そう言って笑うとヒロシは少し安心したような表情になる。私の胸が少し、罪悪感でチクンと痛んだ。


(ごめんね、ヒロシ…)


本当は今日見た夢の事で頭の半分以上がいっぱいだった。いや今日だけじゃなく、ここ最近頻繁に見るあの夢。海の中から、誰かが自分を呼ぶ声が聴こえてきて、私はそれが誰の声なのか知っているのに思い出せなくて、思い出したくて、それが辛くて苦しくて…目が覚めた後もずっと頭からあの声が離れないのだ。


『ゆいこ…』


(ねぇ、あなたは…一体誰なの…?)



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