【祝・書籍化!】BL世界に転生したお邪魔虫令嬢です…と思ったのに何故か壁ドンされてます!!
BLのお話がうっすら出てきますが、本番的なものはありません。
むしろノーマルです。
軽く専門用語が出てきますが、知らなくても大丈夫な範囲…のはず。頭を空っぽにしてお楽しみ下さい~。
私、どうやらBLの世界に転生したようです。
ということに気付いたのは、政略結婚で初夜に顔合わせをした時でした。
主人公(相手により受け攻め自由)の第2王子の白い結婚相手に選ばれた公爵令嬢こと、私ミリフィーナ・エージレンス。
第2王子ことライオネル殿下は、キラキラと光に反射して輝く銀髪の隙間から紫色の冷たい眼差しでこう端的に告げた。
「君を愛することはない」
……ということは。
ネル様の睦言を間近で拝見できるというわけですか!?
あーんなことやこーんなことが繰り広げられるのを特等席で見られる!?しかも実写で!!!?脳内で目まぐるしく繰り広げられる前世の記憶に翻弄されながらも妄想を巡らす私。
ーー前世の私は腐女子でしたーー
心の雄叫びを淑女の笑みで隠し、にっこりと笑って返した。
「貴方の傍にいられるだけで十分ですわ(出来ればこっそり睦み合いを見させてくださいー!!!!)」
「…そ、そうか。」
何故か私の反応に困惑する殿下。
もしかして、怒り出すとでも思われたのかしら?いえいえ、私にとってはごほうびですもの!!どうぞどうぞ、存分に睦み合ってくださいませ!
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色気溢れるイケメン王子。
幼少期にその色気ゆえ大人の女性に襲われること多数。
いつしか女性が苦手…を通り越して嫌悪感を感じるようになり、男色家となる。
私の記憶しているBLゲームで主人公だったネル様は、そのお相手によって受けと攻めが入れ替わる、どちらも楽しめるという腐女子に有難い?設定だった。ネル様推しの私にとっても最高の展開である。どっちも楽しめるなんて2倍お得!!
第2王子ということで、女性とどうこう出来なくとも権力争いが起きずむしろ平和的解決。そんなわけで、ゲームの中ではそんな血生臭いお話は一切なく、ひたすら甘い甘いシーンが繰り広げられていた。
とはいえ、物語の起承転結のために、誰かが怪我をしたり病気になったりライバル発生したりというハプニングはある。
その一つとして出てくるのが、私こと白い結婚相手の公爵令嬢。通称、お邪魔虫令嬢。
BL世界に出てくる唯一といっても良い女性キャラの障害キャラ。
他のライバル男性と違い、公然と妻の立ち位置にいて、明確に邪魔をしてくる。ミリフィーナ(…まぁ、私なのですが)は、何としてもこの白い結婚を本当の結婚に変えたくて、何度も何度も邪魔をしてくる。
ネル様がそんなに好きなのか…とゲーム初期に思っていたのだけど、ストーリーを進めるうちにミリフィーナと打ち解けていくように見えたのに、見目麗しい王子の外見とその権力に惹かれたと語られ、ネル様は更に女性不信になり、本格的に攻略対象の男性と関係を深めていくという落ちだ。
それを見ながら、あ~ぁ、バカだなぁ。と思っていた前世の私。
ま・さ・か!!そんな、おバカなお邪魔虫令嬢に転生するとは思いもしませんでしたわ!!
とはいえ、私にとって殿下はあくまで観察対象。愛でる用。
お邪魔なんてしません!…その代わり、その…殿下と、お相手の情事をこそっと盗み見るくらいは許されますわよね……?
白い結婚とはいえ、王族行事として大々的にお披露目をしてから早数ヵ月。
私は妃としての公務の合間に、自由時間と称してこっそりひっそり殿下の観察に勤しんだ。
私付きの侍女や近衛騎士は、『愛することはない』発言は知っているので、旦那に愛されないながらも健気に片想いする妻…という事実無根の美談を信じていて私の怪しい観察行為も生暖かい目で(時に涙ぐみなから)見守っていた。
私はというと、周りから不審がられないことを良いことにBL展開がいつ来るのかと生スチルを見届ける瞬間を今か今かと狙っている。
どうやらこの世界は直属の近衛騎士が恋人の世界のようだ。
何度か情事と思しき光景を目撃。眼福~!と楽しんでいる。
……でも何か変…なのよね??
明らかに接触が少ない。勿論主従関係だから、そういう葛藤とかもあるのかしら?とは思ったのだけれど、私が見たのは剣の稽古の後に肩を組むとか笑い合うとかその程度。それでも麗しいスチル!!とテンションは上がっているのだけれど、これではただの友情だわ…??
ゲームと違って、やはり公の場ではキスやその先には進まないということかしら…?と、いうことは夜はかなり激しいのかしら……っ!?!!!?
思わずはしたない妄想をしてしまい、頬を染めてしまった。
その瞬間。バチッとどこかから凄い圧を感じた。ハッと顔を上げると、数十メートルは先にいる殿下と目が合った気がして慌ててその場を離れた。
声を掛けなくて良いのかと聞いてくる侍女の言葉を無視して、急いで部屋に戻った。
い、いけないいけない。
殿下の逢瀬を邪魔してしまったわ。あれは、きっと牽制ね。次は気を付けなくちゃ…と思った私は、この時の殿下の眼差しの意味など考えもしなかった。
その日以降、何故か殿下がやたらと近衛騎士…ことダイアンといることが多くなった。……というより、私といる時にダイアンを重宝することが増えた。
……これは……やはり牽制……?
私にはこいつがいる、お前などお呼びでない!
と言いたいのかしら…?えぇえぇ、存じ上げておりますわ!!
でも、でもね?私の前に揃っていても睦言にはならないじゃない…??それでは意味がないのよ!!
私はこっそり観察してその光景を愛でたいだけなのに…っ!!
そんな内心はおくびにも出さず、微笑んで公務をこなし、静かに落胆したのだった。
結婚して半年。
未だに決定的な場面には遭遇できていない。
いっそ他の人と……!と思いつつもそんなラブな展開にはならず。
あ、ちなみに、私と殿下の関係は変わらず白い結婚ですのよ?夜も別々ですし、公務では民にそれなりに仲の良い姿を見せておりますが、それはあくまで公務。プライベートで仲良くなったりはしていません。
…でも、不思議なことに結婚した頃よりお茶会と称して交流する場が増えたような…??普段何をしているのか、何か欲しいものはないのかと聞かれた気がしますが、公費を無駄遣いしていないか探られているのかしら??
ご安心下さいませ、殿下。私はそのような悪事には手を出さない善良な令嬢でしてよ?必要最低限あればそれで良いのです!
出来れば、BなLな展開を見せて頂ければもう満足ですわ!
最後の言葉は心に隠しつつ殿下に無害な人間アピールをしたのに、何故か不服そうな表情をされました。……え、これでもまだ疑いが晴れないの…??さすがお邪魔虫令嬢だけありますわ。存在そのものが邪魔なのですわね……。胸にチクリするものを感じた気がしたけれど気付かないふりをした。
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「それで、どうなんだ?」
「どう……とは、何にたいして?」
今日は久々の来客だった。
幼馴染みのリヴィ。
リヴィことリヴィウスは侯爵子息で幼馴染み。
転生に気付く前から無意識に腐女子ぷりを発揮していた幼少期にその妄想癖に気付かれて以来の腐れ縁である。
実は前世のゲームの記憶を思い出してわかったのだけれど、彼も攻略対象だった。ちなみに、リヴィが攻めだった。
「だから、殿下との結婚生活だよ。」
「ん~、まぁ順調といえば順調………?」
BLな展開はいまいち見られていないけど、喧嘩することもなく、公務も順調にこなしている。侍女や近衛騎士、それに陛下や王妃には可愛がってもらっている。
まぁまぁ順調な生活なのではないかしら?
「………白い結婚なのにか。」
「あら、流石に侯爵子息様には知られてしまっているのね。」
特に広める気も逆に隠す気もないのでいつかバレると思ってはいたけれど、リヴィにはバレていたのね。
「ええ。私がそれで構わないと言ったのだもの。
ここにいれば観察し放題だし?」
「……はぁ。また昔からの妄想か……?
それはそれとして。
………それでミリーは幸せなのか。」
厳しい眼差しでそう問うリヴィ。
うん、顔付きは怖いけれど、私を心配してくれているのはわかっているわ。
だから私はとびきりの笑顔で返した。
「ふふ、心配してくれてありがとう…リヴィ。
私は大丈夫よ。今のままでも十分幸せよ?」
何故かリヴィがほんのり頬を赤らめて目をそらしてしまった。あら?外の日差しが眩しかったのかしら…?
心配で手を伸ばした私の腕を掴んで、リヴィは私を静かに見下ろした。
「……もし。
もしも、今の状況が辛いと……嫌だと思う日が来たら……俺は……」
「私の妻に何をしている」
ひやりと感じる程、冷たい声が聞こえた。
リヴィは慌てて手を離し謝罪しながら一歩引いてしまったけれど、私は硬直したまま動けなかった。
初夜の時の発言以来……?いえ、その時よりも冷たい鋭利な言葉と眼差しで私は殿下に睨まれ、そのまま無言で腕を捕まれ殿下の自室に連れていかれた。
ーーそこからの壁ドンである。
え、ど、どどどどうして!???
「……君はあの男にはあんな嬉しそうに笑うのだな」
「…え、なんのことでしょう?」
意味がわからない。私は何故殿下に壁ドンされているのかしら??
「私には外向きの顔しか見せないのに、あの男とは随分楽しそうに会話していたではないか。
…好きなのか?」
「そんなまさか…っ」
待って待って…っ!!何故か私が浮気していると思われているのだけれどどういうこと?浮気するのは殿下ですよね?ね?
「それでも、君は私の妻だ。…そうだろう…?」
ち……ちょっと待って…っ!!
殿下が段々近付いてくるのですけれど、どういうことなのー!!!!?
「あ、あの、その、いきなりどうなされたのですか…っ!?い、色気が駄々漏れ……っ!!むりぃ…っ」
思わず本音が駄々漏れる私。
「……?色気………?君は私に色気を感じてくれているのか…?顔が赤い……ねぇ、こっちを向いて……?」
なんだか楽しんでません!!!??
あっ、そんな強引に顔を向けようとしないで下さいませ!!
「ひ、ひぇ……っ!!と、突然のSモード!!む、むむむむ無理です~!!!殿下が麗し過ぎてご尊顔を直視なんて出来ませんー!!」
「そうか…この顔は君の好みか。」
えぇ!!!それはもう!!!!
前世からの筋金入りの好みですとも!!!!!
……とは勿論言えず。
「好みとかもうそういう次元ではなく……!あぁあああ今まで貴族令嬢としての仮面被って必死に取り繕ってきたのにぃ…っもう、全て終わりだわ………。」
もう、これで白い結婚すら無理ね。
離縁はいつかしら…。私に再嫁ぎ先はあるのかしら……。
「そうだね、もう終わりにしよう。これからはこの顔に慣れて貰わなければ困る。……ほら、慣れるためにもこっち向いて……?」
ぼーっとこれからの事後処理のことを考えていたら何故か目の前に殿下の麗しい顔があった。
「え………っな、なんでお顔がこんなに近くに…っ!!!」
「うん、慣れるにはこれが一番かなって。」
そう言って破壊力満点の笑顔で口付けしてきた。
それも、結構しっかりめの。
「……ん…っふ…っ……ぁ」
「……そんな可愛い声出さないで。我慢できない。」
お、お色気全開ネル様降臨ーーー!!!!
「……ふぇ…?な、ななななんでこんなことに!?」
「ふふ、何から何まで可愛い反応。今まで放置してきてしまった分、たくさん可愛がってあげるから……早く私に慣れて…?」
「ひゃああああ!!!」
(BL設定いずこー!!!あれ、殿下攻めだったっけ?いやこの場合女性の私が当然受け…?って違う!!こんなドS殿下見たことないよー!!!)
ーそのままベッドの中でこれでもかというくらい溺愛されました。
~後日談~
その後、殿下……もといライ様(本人要望)と深く深~く話し合う機会があり、私の腐女子的妄想癖からライ様の恋模様を色々想像していたこと、殿下は男性がお好きなのではなく、女性を苦手としていただけだということが判明。
私に白い結婚宣言をしたのも、女性が苦手で閨を共に出来ないと思っていたこと。私が今まで出会ってきた女性のようにライ様の容姿と金と権力に惹かれて結婚をしたのだと思っていたことが、あの発言に繋がったのだとか。
けれど蓋を開けてみれば、白い結婚に文句も言わず、粛々と無駄遣いもせず公務をこなしていく姿に、今までとは違うと感じ。
なのに、ライ様に対して恋情を見せることもなく、ダイアン様を見つめる目に苛立ちを感じたり。
決定打がリヴィとの逢瀬(勘違いですけれど!!)を見たことで、嫉妬から勢いのまま抱いたのだと仰られました。。。
………はい。色々……色々と勘違いがありますが、まぁ、終わりよければすべてよし、ということで。
私の作品あるあるですが、ライオネル視点はちょっとシリアスも入る予定。
そのうち書けたらなぁと思ってます。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです!