愛する人よ
愛する人へ。
立花宗茂の正室誾千代は、父立花道雪ゆずりの武と知を兼ね備えた才色兼備の女性である。
夫である宗茂を支え、時には反目しながらも互いに激動の戦国の世を駆け抜けてきた。
大友、豊臣に仕え九州仕置、朝鮮出兵など名だたる戦で立花は活躍した。
しかし天下分け目の関ケ原の戦いで、西軍豊臣方に加担した立花家は、徳川家の怒りを買い改易となり、宗茂は浪人の身となった。
肥後大名加藤清正の温情にて、客将の身となった宗茂だったが、立花家の再興を夢見て、一念発起し京へとのぼった。
一方、妻、誾千代は病重く、親類のいる肥後の赤村で養生していた。
1602年の頃である。
誾千代の病は悪化するばかりだった。
最近はずっと床に伏せ、夫、宗茂にせっせと手紙をしたためている。
それは愛する人にあてた遺言である。
あなた様へ。
私は立花の未来を信じます。
我が命燃え尽きるその時まで祈りを捧げております。
だから、あなた様は自分を信じて進んでください。
あなた様には、亡き立花の臣、強き偉大な父たち・・・私も見守っています。
きっと願いは叶う。
だって、立花宗茂は戦国いえ天下一の武士なのですから。
真っすぐに思うがまま、あなた様には生きて欲しい。
私はもうすぐこの世を去るでしょう。
不思議と心は落ち着いています。
名残惜しいのは、あなたと添い遂げられなかったこと。
ずっと、ずっとお慕いしております。
あなた様と立花の夢をみられて、誾千代は幸せでした。
あり・・・
誾千代は静かに筆を置き、穏やかに笑った。
「ありがとう」
彼女はそう呟くと、たどたどしい足取りで縁側にでると夜風を吸った。
そしてゆっくりと手紙を破り捨てた。
夜風に舞い紙吹雪が闇空を流れる。
1602年10月、誾千代逝去、享年34歳。
青天の秋空。
白鷺が翼をはめかせ、赤村のある家を一まわりすると、いずこかへ高々と飛んだ。
思いよ届け。