私の親友達が婚約破棄の当事者になってるけど、意味が分からないから台無しにしようと思う。やりたくないけど。
初めましての方は初めまして。
久しぶりに小説を書いてみました。
細かい設定は突っ込まないで欲しいです。
良ければどうぞ。
私の名前はリーン。皇立魔法学園を卒業した人よりも少し魔力が高い平民だ。
唐突だけど、悪役令嬢をご存じだろうか。
今、巷で流行りの物語における噛ませ犬のような役回りらしい。
私は不勉強というか、物語はあまり好きではないのでよく知らないけど、どうやら私の大切な親友は周りから見ればそういう風に思われているようだ。
いや、まあ、実際は悪役令嬢どころではないんだけど。
知らないっていうのは怖い。
なぜ私がそんなことをぼんやり考えているかというと、今まさに目の前でまるで恋愛小説の最高潮みたいな状況を見せられているからだ。
しかも、私の大切な親友二人を巻き込んで。
「私は真実の愛を見つけたのだ!
ゆえにナルラ・エルフィナ公爵令嬢!
貴様との婚約破棄、私は最愛の女性、セレス・ノースウッド男爵令嬢と婚約する!」
うぅん、いや、バカだバカだと思っていたけど、これはもう愚かだなぁ、この皇太子殿下。
隣を見てみなよ、セレスの顔、真っ青だよ。
そりゃそうだよね、こんな風になるなんて思ってなかったし、セレスもナルラの秘密を知っているものね。
むしろ、皇太子殿下が何も知らないことにびっくりだよ。
☆
さて、一応だけど状況を整理しようかな。
今日は魔力があるなら貴族、平民問わず門を開く皇立魔術学園の卒業式後にやる皇帝陛下主催のパーティーだ。
用意された玉座に座って頭を抱えているのが皇帝陛下、その隣で完全に感情を無くした無表情で皇太子殿下を眺めているのが皇后陛下。
ああ、普段のナイスミドルなお顔が苦虫を噛み潰したみたいに……。
皇后陛下だっていつもの優しげでお美しい笑顔が……。美女の真顔って怖いんだなあ。
恙無く進んでいたはずのパーティーの中盤、唐突に皇太子殿下が大声を上げた。
「父上!お耳に入れたいことがございます!」
もうこの時点で卒業生も在校生も、貴族平民関わらず彼から距離を取った。
それはそうだろう、学園関係者と卒業生の親だけのパーティーとは言え皇帝陛下主催、親子関係よりも階級が優先されるんだから。
これから社会に出るんだから当然だ。それをいうに事欠いて父上呼びってあの愚か者は。
けどまあ、本来はお目出度い席だし多少は問題ない。
実際、さっきまでは会場のいたるところで卒業生親子が涙ながらに抱き合っていたりとほんわりする光景が見られていたしね。
ただ、一国の皇子、しかも曲がりなりにも立太子しているお方がそんな非常識をしてしまうと示しがつかないわけで……。
そんな彼の近くに集まっているのは皇太子の側近に選ばれた方々くらい。
どいつもこいつもセレスに骨抜きにされた勘違い野郎共だ。
セレスはとても綺麗な子だ。幼い頃から可愛くて綺麗だった。
ふわっふわのゆるいウェーブがかった銀髪に、快晴を写したような青く大きな瞳、控えめだけど均整の取れたスタイル。
それにこちらが浄化されるかというほど誰にでも優しくて、困っている人がいれば手を貸さずにはいられないような子。
だから男女、生徒教員問わず人気があったし、聖女なんて二つ名が付いたくらいだ。
ちょっとお人好し過ぎるし、警戒心も薄いし、人を疑わないし、危なっかしいから心配なんだけど。
それにお互いに想い合っているエドワード様っていう婚約者もいる。間違ってもあの愚か者では無い。
私も何回も会っているけど、誠実で真面目な良い人だ。
私みたいなおかしな奴でも分け隔てなく接してくれた。
毎回砂糖を吐くほど惚気られるのはご愛嬌にしておこう。
婚約者と愛し合ってるのも有名な話なんだけどなぁ。あの愚か者共の耳には都合良く聞こえているらしい。
曰く親に無理矢理決められた政略結婚で婚約者は女癖も悪く会えば罵倒ばかりでいつもセレスは心を痛めているらしい。
しかもそれをセレスから聞いたと宣っていた。誰も信じちゃいなかったけどね。
あの婚約者様は陛下の覚えも良い優秀な方だ。若くして重要な役職に就いている。
あの愚か者共の顔を見る限り嫉妬も多大に含まれてそうだ。
セレスは学園の行事にも精力的に参加していた。私もナルラも一緒にくっついて回っていた。
そんな私達の目を盗んで殿下達はセレスに接触してきた。
それだけならまだ良いんだけど、そこからストーカーのごとくセレスに付きまとってきた。
日に日に憔悴し笑わなくなっていったセレスを慮って私とナルラ、クラスメイト達も一丸となってあの手この手で近付けないようにしてたんだけど、やっぱり権力には勝てないからね、腹立つことに。
ナルラなんて実力行使にでようか本気で考えてたから。泣きながら止めたけど。洒落にならないから。
ナルラはセレスに対を成すように艶やかに腰まで真っ直ぐ伸びた黒髪、切れ長の目に月のような金の瞳。
たおやかに胸に、細い括れ。女の私でも参ってしまいそうな妖艶な色気を纏っているのに、溢れだす気品と美しい所作が彼女に涼やかな清らかさを与えている。
セレスが晴れやかな春の日であるなら、ナルラは全てを包む月夜のような女性だ。
少し皮肉屋で物言いがきつめだから誤解されがちだけど、実は面倒見のいいお姉さんとしてクラスでは認識されてた。
殿下達が言うには婚約者もいないほど傲慢で権力にものをいわせて悪逆非道を尽くし、誰にでも身体を許す女とのことだ。
私の親友を貶すとはいい度胸してるなぁ、と血の気だった私を見て、だいたい合ってるじゃないなんて、ナルラは愉快そうに笑っていたっけ。
セレスには困りながら止められたけど。ちなみに困り顔のセレスは可愛かった。
☆
とまあ、半ば現実逃避気味に考えていたけど、要するにセレスの魅力に当てられたバカ共が暴走しているのが今回の件だ。
愚か者共が皇帝陛下に言うには、こうらしい。
「ナルラ公爵令嬢、その権力をかざして自分よりも地位の低い者達を貶めていたようだな!」
と皇太子殿下が叫び、
「それを止めようとしたセレスにも危害を加えようとしたのを我らは見ている。言い逃れは出来んぞ」
などと騎士科の側近候補が凄み、
「そのように澄ました顔もいつまで続くことやら……。こちらには証拠もあるんですよ」
と神経質そうな眼鏡の男がキザったらしく書類を見せ付けてきた。
「我が寵愛を受けるセレスに嫉妬し排除しようとするような女に私の隣に立つ資格など無い。
なにより私とセレスは相思相愛、愛したこともない貴様となど、もはや不要!
先程言った罪も合わせ国外追放とする!死罪にならぬだけ感謝するがいい!」
何を言ってるんだこのバカは。
いくら皇太子だろうと、いや、皇帝陛下だろうと、この国の法があるんだから一個人で罪も罰も決めることなんて出来ないに決まっている。
ここは裁判の場ではないし、ましては皇太子殿下は司法を司るものでもないだろう。
いや、眼鏡。何をどや顔してるんだ、お前は司法を学んでいたよね?
なんでこの状態でそんな顔してられるの?
あと騎士、剣の柄に手を伸ばすな。むしろなんで帯剣してるの?
このパーティー、原則武器の持ち込みは禁止だよ?
日程の関係上、お前はまだ騎士に任命されてないんだよ、まだ騎士もどきだよ、わかってる?
むしろお前らは皇太子殿下を諌めろよ、セレスは別の婚約者がいるんだぞ、不当に婚約を無くして引き裂くの?
え?セレスと婚約者は不当に婚約を結ばれたから無効?
もうやりたい放題だなぁ。
皇帝陛下と皇后陛下を見ろ、二人とも無だよ?
学園行事で行った博物館で見た東洋の能面みたいな顔になってるよ、気付け。
あとセレスのマジギレ顔、久々に見たよ。
そりゃあこんだけワケわかんないこと言われて、愛する婚約者も両親もバカにされて怒らないわけないか。
いや殿下、下向いてぷるぷるしてるのはナルラが怖いわけでもなんでもないから。お前のせいだから。こんなに怖がって可愛そうに、私が全てから守るとか火に油を注ぐな。
「それで、言いたいことはそれだけかしら?」
ずん、と、ナルラのその一言で空気が変わった。
それは雰囲気とかなんてそんなものではなくて、圧倒的魔力量によって物理的にもたらされた重み。
めっちゃキレてるーーーー!満面の笑みでナルラめっちゃキレてるよーーーー!
だよね、むしろ良く持ったよね!なんならこのタイミングでもよく手を出さなかったよね、偉い!
お陰で周りの低魔力の人達は座り込んだり片膝ついたりしちゃっている。
「……っ!そのようにしても貴様の処遇は変わらん!
それに貴様一人で私達に敵うと付け上がるなよ!」
そんな中、魔道具か何かで隠し持っていたのか、殿下と騎士もどきは剣を抜き、眼鏡は杖を構えた。
この魔力圧で行動できるのは腐っても学園上位。
たけど殿下、セレスの肩を抱いて逃げられないようにするな、逆効果だし、戦闘になりそうならまずは大事な人を逃がそうとしてよ。
くそう、苦難を乗り越えて結ばれる真実の愛とやらに酔いやがって、みっともない。
あーもー、あうとー。言い逃れも出来ないくらいあうとー。
どうしようこれ、まじどうしよう。
皇帝陛下、とりあえずお前、ナルラを止めろみたいな視線をやめて。
セレスを見てよ、珍しくもうやっちゃってくださいみたいな顔してるよ?
セレスを怒らせると本当に怖いんだよ?
てゆーか、この国の序列でいうならただの平民なのにどうしろっていうんだ。
後でフォローはする? やだー、むりー! 褒美もやる? 視線で会話してくるな、バカ陛下ー!(不敬)
「まあまあ、殿方がか弱い小娘に向かって武器など構えて。
殿方なら気が利く言葉でダンスくらい誘えませんの?」
陛下と私が視線で会話をしている間にも事態は進んでいく。
セレス、お願いだからこっそり魔力を溜めるのやめて、ナルラが動くと同時にぶっぱなすつもりでしょ?
いつもほんわかしてるから皆忘れがちだけど、セレスは意外と脳筋だよね!?
もーーー!なるよーになーれ!
「はいはいはいはいはい! すとーーーーーーっぷ! どっちも止まれーー!」
私はもはやなりふりも構っていられず、双方の間に飛び込んだ。
もちろんノープランだ。
「ナルラ、とりあえず魔力の放出を止めて、ね? お願いだから!
あとセレス、その魔方陣はヤバいから! あんまり人に向けちゃダメなやつだから!」
半泣きになりながら親友二人に叫ぶ。
ナルラは困ったコねぇ、なんて呟いて魔力を緩めたし、セレスは殿下が驚いた隙をついて距離を取った。よし、魔方陣も消しはしてないけど、待機状態にはしてる!
「な、セレス! ちっ、貴様、そこを退け。
私はその悪を討伐しなくてはらないのだ!」
いやむしろ私はお前らの命を救ってるからね!?
いったい何に剣を向けたと思ってるの! 無知って本当に怖い!
いや知らなかったじゃもう済まないんだけどね!
「とりあえずバカは黙って!」
「なんだと!?貴さ」
「黙っててばもう! もうここまでくると貴方達だけの問題じゃないの! この場の全員が生き残れるかどうかなの!」
こうなりゃもうやけくそだー!
かなり大袈裟に言っちゃったけど、本当にそうなる可能性もあるからね!?
「ねえ、リーン。その方達はアタクシの親友を人質に取って、しかも尊厳を踏みにじろうとしたわ。
アタクシ、我慢したのよ? 今日のことだけじゃないわ、彼らがセレスに付きまとい始めてからずっとよ。
もういい加減、怒ってもいいんじゃないかしら」
うん、本当その通りだと思うよ私も。だけど方法がダメなんだよ、ナルラが怒ったら人が死んじゃうからね?
私はとりあえずナルラに駆け寄ってしがみつく。
あら? 役得ねって呟いたの聞き逃してないからね!
「それには私も賛成いたします。
私だけならまだしも、この方々は私の大切な婚約者、エドワード様も、両親も辱しめたのです。
いくらなんでも酷いとは思いませんか?」
そうなんだけど!
しかし、セレス、婚約者さんの名前強調したなぁ、勘違いされないように、力強く言ったなぁ。心の底から嫌だったんだなぁ。
「セレス、まだそんなヤツの肩を持つのか、愛してもいない婚約者など」
「私は何度もお伝えいたしました。
私には愛する人がいると、その方を心から尊敬し、学園を出た後も、いえ、私の一生をかけて支えていきたいと」
「それは私のことだろう? もう隠さなくていいんだ、私達を遮るものは何もない。ヤツとの婚約も白紙に戻すよう伝令を送ってある!
あとはかの家からの返礼を待つのみだ!」
いや、そんなことまでしていたの、この人、気持ち悪ぅ!
「その伝令のことも承知しております。
私に何の話しも無く、皇族のみが使える印まで使って、自分よりも地位の低い者を脅すような内容で!
いつ私が貴方を愛していると言ったでしょうか。私が愛するのは今も昔もエドワード様のみです。
あの手紙はエドワード様を通して皇帝陛下にもお伝えし、無効にして頂いております!」
まあ、そうだよね、内容まではわからないけど、そんなの上役に相談するしかないよね。
その話を聞いた殿下はわかりやすく動揺している。
勘違いとはいえ、相思相愛だと思っていた相手からそんなこと言われたらそうなんだけど、いや気持ち悪いな、やっぱり。
「ああ、アタクシからも二つ程。
まず一つ、アタクシは公爵令嬢ではなく、公爵そのものですの。
あと、貴方、さもアタクシが貴方を愛しているのが前提でお喋りしていましたけれど、アタクシがいつ貴方を愛していることになっているのでしょう?」
「な、何を言っている?」
「アタクシは本来、誰とも婚約しなくともよいのですわ。
ただ、リーンと皇帝陛下が何かしら人として縛られるものが無くては不安だと言うので従っただけですわ」
ナルラはしがみつく私を優しく抱き締めてくれた。
うわー、めっちゃ良い匂いする! 身長差的に顔が柔らかいたおやかに埋もれる、ヤバい!
「どういうことだ! 説明しろ!」
何でこの人何にも知らないんだろう、皇族っていうか、当事者なんだから伝えられているはずなんだけどなぁ。
「もう面倒だからいいですわね、陛下。
それにアタクシのクラスのお友達なら、きっと大丈夫ですわよね?」
言葉こそ脅しのように言っているけど、その手は少しだけ震えている気がした。
それに聞こえている心臓の音も少しだけ早くなってる。
「大丈夫だよ、ナルラ。クラスの皆なら大丈夫。だって今までずっとナルラと一緒にいて、受け入れてくれたんだから」
私は少しだけ力を抜いて、ナルラの背中を撫でた。
陛下もしょうがないなって顔をして頷いてくれた。
ナルラはありがとうと小さく呟いて、
「アタクシは、リーンを愛していますの!!!!」
聞いたことないくらい大きな声で宣言した。
「「「「それは知ってる」」」」
「なんだお前らふざけてんのかな!?
ねぇ、ナルラ、ねぇねぇ、それ今言うことかな!?」
「あ、あとアタクシ、この国で封印されていた魔王ですのよ」
「おまけみたいに言うな! そっちのほうが重要だからね!?」
喚く私を他所に、クラスの奴らは、いや魔王様とか今さら? 神話系生物とかそういうのだと思ってたー。まあ、リーンがいれば問題ない問題ない。リーンの言うことには可愛いくらい従順だもんねー、とかほざいてやがる!
どんだけ私が今まで苦労したと思っているんだ!!
あと、セレス、目をキラキラさせてないで! 貴女、自分のだけじゃなくて人の恋バナも好きだものね! 知ってるよ、恋バナ好きが高じて裏で縁結びの聖女とも言われてたの!
「貴様、魔王だと? ならばなおさらここで討伐しなくては! もしやエドワードも貴様の差し金だな!?
エドワードを使ってセレスを洗脳しているのか! セレス、今助けるからな、待っていてくれ!」
うっわぁ! こいつはこいつでマジで厄介だなぁ!
セレス、顔が! 気持ちはわかるけど見たことない顔になってるよ!
いやぁ、あのセレスに嫌悪感丸出しの顔させるなんてなかなかやるな、あいつら。
「父上、母上、お下がりください! 私達が魔王を討伐してみせましょう! 皆に危害を加える前にここで!」
「ああ、囀ずるならもっとましなことを仰って」
殿下がこちらに来ようとする前に、ナルラは魔力を彼らに押し当てた。
術式も何もない、何なら魔法学園で習った全てを冒涜するような圧倒的で原始的な暴力。
さっきの魔力圧とは比べ物にならないほどの重力に彼らはその場に倒れ伏した。
どうやら意識も無くなったようだ。
「本当、アタクシも丸くなったと思いませんこと? 以前のアタクシなら貴方達の命は無くってよ。
大切なものなんて、リーンとセレスくらいだと思っていましたが、随分と多くなってしまいましたわ」
押し潰されて何も言えない彼らを冷たく一瞥し、愛おしそうにクラスメイトを眺めた後、ナルラは私の額に唇を当てた。
やーめーてー! 皆見てるからー!
「さて、皇帝陛下、こうなってしまえば婚約は破棄ですわね」
「致し方無いだろうな、余としては実に残念だが。よもや愚息がここまで愚かだとは思ってもいなかった」
やれやれと言った様子で陛下は頷いた。
まぁ、だよねぇ。あのバカ殿下の他にも優秀な後継ぎはいるのに、ナルラの為政者としての能力を発揮させるためにわざわざバカ殿下を指名したんだから。
多少の親心もあったのかもしれないけれど。
「この国にも愛着が沸きましたので、引き続き微力ながらお力添えいたしますわ」
「それは願っても無い。無い、が、何が望みだ?」
「ふふ、さすが陛下ですわね、話が早いですわ」
ともすれば不敬とも取れるほど会話を続けているけど、なんでかな、少しやな予感がするんだけど。
「リーンをアタクシにくださいませ!!」
「良いだろう」
「私の今後を貴方達が決めないで!?」
いや、私が一番不敬かもしれない。
☆
その後の話をすると、バカ殿下達は当然のように廃嫡。
それぞれ下っ端から教育し直していくらしい。
ただ、もう面倒なことを起こさせない為にも、子供を作れないようにされたみたいだ。
もし色々あって市井に血脈が流出したらそれこそ一大事だと言われたけど、そこまで生々しい話をしないで欲しかったなぁ。大事なことではあるけど。
セレスは無事エドワード様と結婚して、半年後に挙式する。もちろん、私とナルラも招待されているので今から楽しみだ。
「そう言えば彼ら、真実の愛なんて仰っていましたけれど、何を以て真実の愛だとしたのかしら。
愛の定義など人それぞれですのに。
子を思う母も、心配し合う兄弟姉妹も、見送る友人同士も、等しく愛と言ってもいいでしょう?
それは家族愛や友愛だとしても、真実なんて嘘臭いものは無いというのに」
優雅に紅茶を飲みながら、ナルラは語っている。
「愛はそこにあって、芽吹くもの、育てるもの、そして花咲き、実るもの。
通じ合えないとしても、一方通行だとしても、それは変わらないのだわ」
私がナルラを見上げると少し遠い目をして何処かを見ていた。
ナルラにしては歯切れが悪いと言うか、回りくどいなぁ。
頭の後ろの柔らかさの奥の鼓動はあの時以上に早くなってる。
「私を膝の上に乗せて優雅にしているところ悪いんだけど、ナルラらしくないよ? 言いたいことがあるんでしょ?」
私が呆れ気味に視線を向けると居心地悪そうに私の後頭部に顔を埋めた。
「まあ、そんなこと言いつつ、やってることはあいつらと一緒だったもんねぇ。私の気持ちも確かめずに陛下にくださいませ!なんて言ってさー」
それは陛下は陛下で私の気持ちに気付いてたからなんだろうし。
あの時のご褒美は忘れずおねだりしてきてばっちり貰っているし。
でも、頭の後ろで珍しくあうあう唸ってるナルラも可哀想だから、もう許してあげようかなぁ。
でもね? 私はこんなんでも乙女だったらしいんだ。
「陛下には誰とでも結婚できる権利を貰ってきたんだよ、それは老若男女問わず、誰とでも」
私がそう言えば、ナルラは勢いよく顔を上げた。
「だからどうしようかなぁって、私の好きな人が、もう一度勇気を出してくれたら、この権利も使えるのになぁ」
これは私のわがままなんだけど、あの時の言葉がもう一度聞きたいって思うから。
私だってずっと隠してきたから。それこそどこかの縁結びの聖女様に相談したりもして。
だからお願い、もう一度。
「リーン、アタクシは貴女のことを……!」
私はしょうがないなぁ、なんて言いながら、ナルラのほっぺにキスをした。
こんなに長くなるとは思わなかった。
今は反省しているし後悔もしている。
面白いと思っていただけたらな嬉しいです。