そうだ!車を買おう3
『それで、君は車を使ってどうするの?』
ん?
「どうって?」
『君は車を買った』
「うん」
『車に乗れるようになった』
「うん」
納車までにペーパードライバー講習を受けたからね!
お尻に火がつくと本気を出せる性格なのです。
いや~、最近のペーパードライバー講習は、教習車で自宅まで来てくれるんだよ。教習所に行かなくてもいいなんて、サービスも進化してるよね、うんうん。
『で、そんな君は車で何するのさ』
おう、ふりだしに戻った。
「うーん… でもなぁ、まだ車庫入れ危なっかしいし。
『納車してすぐこすったもんね』
うっ。
「そ、それに運転もまだおぼつかないとこあるし」
『こないだクラクション鳴らされたね』
ううっ。
「…こないだ車屋さんにヘルプ電話かけちゃったし」
『ああ、給油キャップの開け方がわからなかったやつね。はずかし~』
うううっ。
講習を受けたって本番でパーフェクトにできるわけじゃないかっ。
うちの車が傷口に塩を塗り込んできます。あら塩です(泣)
『それでも、乗らないと』
そう、ケイの言う通り。
運転しないと、上手くなれない。
運転できるようになるために車を買ったんだ。
ここからは自力でどうにかするしかない。
車で行くところ、行くところ。
「うーん、遠方のスーパーへ行く」
『資金に限界があるでしょ。しかも君、一人だし』
…確かに日用品を遠くまで買いに行くのはめんどくさい。その辺の店で十分間に合うし、時間の無駄。
「ううーん、観光地に行く」
『たまにならいいかもね』
…下調べして、朝早く出て、きっと帰りは渋滞にはまる。…うん、たまにしか無理。
「うーん、ううーん、と、友だちと…」
『君、友だち数えるほどしかいないでしょ』
………はい(涙)。
うちの車はなぜ主にこんなに厳しいのか。
つらい。
車で行くところ、行きたいところ、これまで、行きたかったけど行けなかった場所…。
「あっ」
『何?』
思い出した。
もう10年位前。都会に疲れて這うように行った場所。
あそこに行けばいい。
「ケイ、行きたいとこあったよ」
あの時は電車に乗って、知らない駅で降りて、田んぼの畔道をぼんやり歩いた。
『それはどこ?』
それはね。
「山だよ」
でも、川でもいいし、海でもいいし、草原でもいいんだ。
「自然がいっぱいあるとこ」
仕事に慣れて、仕事がつらくて、自然が恋しくて、半分泣きながら歩いた。
「あの時よりは慣れたけどね」
働くことにも、都会にも。
それでもウシガエルの子守歌が恋しいことがある。
だから。
「キャンプへ行こう」
自然がいっぱいで、見たことのない景色が見れる場所に行こう。
夜は真っ暗な場所。
どや顔の私にケイはにやりと笑いかえしていった。
『いいね、僕が連れて行ってあげる』
君が行きたい場所が僕の行先なのだからと。