そうだ!車を買おう2
『で、車を買った理由は?』
ケイが話を戻してくれた。
車を買った理由…。
「そもそも、こんなに長い間ペーパードライバーでいるとは思わなかった」
『うん』
「二十歳そこそこで免許を取って」
『親の金でね』
…ケイさんやその突っ込みは必要かね。
「…父さんも母さんもおじさんもおばさんも、兄貴も当たり前に車に乗ってた」
仕事に行くのも、買い物に行くのも車。
だから車に乗るのが当たり前の両親は、子どもにも免許が必要だと考えていたし、きっと今でも必要だと思っている。だから、学生だった私に免許を取るためのお金を出してくれた。
「社会人になったら、私も車に乗ることになるんだと思っていた」
当たり前に。
『うん』
「でも、ここは生まれ育った田舎じゃない」
日本で二番目に大きな大都会。時刻表を見なくても電車に乗れる街。
新卒で就職したのは、巨大な複合商業施設。笑顔と気力の販売員。
「通勤は公共の交通機関のみ認められてた」
『まあ、仕事によるけどね』
「うん」
他の仕事をしていたら、この街でも車に乗る機会はあったのだろう。でも私が就いた仕事は運転を必要としなかったし、プライベートで車を持てるほど、稼ぎがあるわけでもなかった。
『稼いだ分、使ってしまうからでしょ』
はい、あれもこれもやりたい性分です。いまでも貯蓄はほぼゼロ。
うう、ケイの視線が冷たい。
「で、でも今は少し改善したもん。毎月、自動で積み立ててるもんっ」
『はじめたばっかでまだ全然でしょ。…ちゃんと継続しなよ。車車の維持費だってかかるんだからね』
「…はい」
『で、続きは?』
ケイさんの話を戻してくれる力、助かります。
「仕事変えて、年を取って、少しだけ収入もよくなった」
住環境も変わった。街の中心部から郊外に引っ越しして車の維持もしやすくなった。
『中心地の駐車場代はヤバイからね』
「……親も年を取った」
『…うん』
郷里では兄貴も弟も車に乗ってる。
「私はいつも迎えを待ってる」
実家は、駅からも遠い。
「兄弟にできて、私に出来ないことがあることも嫌だった」
『君はプライドが高いから』
だからよくもめる。
「両親に何かあったとき、同じように迎えを待っているのは嫌だった」
そもそも、その時、迎えに来てもらえるかもわからない。
兄弟にも家庭がある。
タクシーに乗るお金くらいはあるけど、自由はきかない。
『うん』
「そんなことを、ずっと、思っていた」
離れて暮らしているからか、帰郷するたび感じる両親の老い。
30歳を過ぎて、感じることが多くなった。
失うことへの恐怖。
「だから」
車を買った。
あの日、中古車販売店に行った。
「そして車に出会った」