42 .王都から遠く離れて…?
過去に2人の上官だった&軍犯罪捜査局でちょびっとの期間だけ上司だった、エプシュタインさんの登場回です。
王国軍犯罪捜査局 主任エプシュタインの部屋。
「おかげさまで良くなりました。何度も見舞いにも来て頂いて…本当に色々ありがとうございました」
フランツは、差し入れの入った紙袋を差し出す。
「良かったな、顔色もいいし…ホントに良かった良かった…それにしてもお前さんは相変わらず硬えな!」
と言って、フランツの背中をバッシバシと叩く。
[エプシュタイン主任、まるで下町のおっちゃんのような言葉遣いであるが、これはチームで仕事を円滑に進める為の主任なりのちょっとしたテクニックの一つであった]
◆
ふと、壁に鋲で留めてある紙が目に入った。
「これ…新基地が出来るんですか?」
「ん?ああ、ザゴルノ・ズラバフ基地か」
「ここ、確か帝国軍が最初に上陸した街でしたっけ」
「抑止の役割としてある程度の大きさの基地を建てることになったんだと。
まあ王都からはかなり遠方なだけに、軍人連中はあそこに配属される人事異動が発令されたら悪夢だと戦々恐々としてる」
「遠いですね」
地図を見ながら相槌を打つフランツ。
「やっと王都に帰ってきたのに、またそんな遠いところにってな。
…とにかく人手不足らしい。そんな中で建設するってんだから、個人的にはちょっとどうかとも思うけど」
「うちの商会でも最近資材が大きく動いてます」
「需要が増えて、値上がりしてるよな…
そういや、建築資材の商会だっけ?いずれそっちの商会にも技術者や技術者見習いの募集が行くかもしれん」
「技術者見習い…」
「ええと確か…建設分野の土魔法の魔道士の下で働く人員が必要なんだと。
魔道士の指導で、魔力の少ない者でも出力アップしてそれを業務に活かすとかなんとか ────建築に関する技術者を育成をやっちまおうっていう一石二鳥の策でもあるらしい。国も、民間も、人の育成は急務だよな~ 先の戦争で亡くなった技術者も多くてどこでも人が足りてねえのよ」
「魔力の少ない者でも出力アップ…」
フランツは、エプシュタインの言葉を反芻する。
(こどもの頃、故郷の村の教会で魔力調べがあった時、母さんが熱出して倒れて俺は教会に行けなかったんだよな。父さんは「どっちの家系も、水をぬるま湯にするレベルの人間しかいないから鑑定する意味ない」とか言って)
この王国、平民に職業選択の自由が無いわけではない。
しかし大部分が、親の生業を引き継ぐか親族などの紹介で働く人達。固定化された社会からは抜け出せず、そこで働く人がほとんどだったのである。
起業する人もいるにはいるが、既存の枠組みがガッチリ決まっており、その業界の末席に加えてもらうまでが遠い道のりであった。
フランツの場合、トルーデとケストナー家の口利きで今の商会での仕事にありつけたが
働いてみたら同僚には貴族の第二子や第三子がゴロゴロ。平民もいるにはいるが少数。
要するに貴族の冷や飯食いが、報酬を得る為に働くような職場だったのだ。
口利きが無ければ、平民のフランツが働くことなど不可能だっただろう。
「例えば地質調査やなんかで、穴を掘ったりするだろ?あれを、統括魔道士1人でやるのは骨が折れるんだってよ」
熱すぎる紅茶を行儀悪くふーふーしながら、エプシュタインが言う。
(地質調査…ボーリングみたいなことか…)
考え込む様子のフランツ。
「あ、そういえば 消えた犯人と【帝国の青蛇】の親子の件は聞いた?」
「はい。聞きました。一向に行方は分からないままだとか…」
「ホントによ……どこ行っちまったんだろな」
もしフランツが居た、あの次元にいるのなら もう誰の手も届かない ──── ────。
【ザゴルノ・ズラバフ新基地建設計画】
ザゴルノ・ズラバフはゼル半島の東海岸に位置した王国領の街である。5年戦争の時、帝国軍による侵攻の最初の上陸地だ。
王都から見ると、国の端っこ。僻地であった。軍の小規模な駐留地はあるが、そこに配属されることは左遷も同様。
街は、住宅密集地と広々とした空き地が広がる地域とに大別される。その広々とした地域の内、農地整備を施した地域以外が王国軍新基地建設が計画されている地域だ。
敵国の上陸を許したザゴルノ・ズラバフは、帝国軍によって詳細に調査されていた。その資料を元に再調査した上で王国軍の新基地を建設することになった。勿論、防衛線の強化の為である。
予算要求資料には「有効な抑止が無ければ 帝国が地域における王国の権益を奪い取るだろう」、の記述。地域の安定を取り戻す為に新基地建設が必要とされた。
5年戦争は、停戦協定が締結され一応の終結と相なった。この停戦状態を維持する為には、今の時点では 双方の国が軍備を増強してバランスを保っていくしか道は無かった。
停戦協定を経て王国軍の対帝国軍事戦略も大幅に変更され、停戦監視委員会が設置された。
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「俺…ここで働きたいな…」
「え」
驚くエプシュタイン。
心の中で呟いたはずが、声に出てしまったようだ。
「 ────…これからの人生を考えて 俺もいつまでもケストナー家に世話になるわけにもいかないと思って。今の話聞いて、建築関係に関われないかなと…」
「あの家の離れに住んでたんだったな」
「はい。今の職場もケストナー家の紹介でして」
「なるほどな…しかし、いいのか?トルーデと付き合ってるんだろ。離れ離れになっちまうぞ」
心配そうにそう言うエプシュタイン。
「……ですよねえ…」
さあこれから、という時に自ら離れていこうとするフランツ。さてお嬢様の反応や如何に。
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