27 .公園デート
トルーデとフランツ、公園に来ております。
「はい、あーん」
そう言われてニヤけた男が、口を開ける。一口大に千切った揚げドーナツを相手に手で食べさせる女。
パクッ。もぐもぐ。
男は女の手を握り、その砂糖の付いた指をぺろりと一舐めする。
「んー…君の指が甘いのかな?」
「やだーー…っ、もうっ!」
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今日は休日。トルーデとフランツはいま、郊外にある公園に来ている。天気がいい。鳥のさえずりも聞こえる。
蜂蜜よりも甘〜い先ほどのやり取りは、もちろんトルーデとフランツではない。
彼らの前のテーブルに座っているアツアツな2人だ。お互いしか見えていないバカップ…いや失礼、「愛し合う2人」だ。
女性のほうが何やら甘いものを手で食べさせている…意味が分からない、とトルーデは思った。
フランツはフランツで、目のやり場に困るといった感じで、耳の上を指でかいている。
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公園の休憩所は、大勢の人で溢れ特に恋人たちと見られる2人連れの姿が目立つ。
なぜこんなにこの公園がカップルだらけになっているかというと、「女神の鐘」なるものが新たに設置され
「それを2人で一緒に鳴らすと幸せになれる」という話を『国が広めた』からだった。
ここの公園は元々広場と花壇と噴水の簡素な構造だったのだが、戦後に整備が進み
いずれは王都の民の楽しみのための各種施設も建設されるのだという。来年には、メリーゴーラウンドのようなものも建設されるのだとか。
その手始めが「女神の鐘」。
(鐘の台と紐と、小さい鐘本体と…初期費用を抑えて、なおかつ集客が見込めるなかなかよく練られた事業だよな)
と、フランツは内心この鐘設置に感心した。
毎日それぞれに忙しく働き、その手の噂には疎いふたり。女神の鐘の噂も、それがちょっとした恋人たちのデートスポットになっていることも全く知らなかったのである。
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「おかしいな…オリガから聞いたのは『すごく凝ったアスレチックコースが新設された』っていう情報だったんだけど」
「俺も。ペーターさんから『ものすごいアスレチックコースが出来て大人気らしいですよ』って教えてもらって…」
「こんな鐘が設置されてて、人でいっぱいだなんて一言も…」
「昨日、職場の人にさ、明日この公園にトルーデと行くって言ったらすっごくニコニコしてたんだけど理由が分かったよ…」
教えてもらった情報を鵜呑みにして、動きやすい服装で来たトルーデとフランツ。
二人の脳内に浮かぶのは…。
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騙された
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ーーー確かにアスレチックコースは新設されていた。ただし、遊具多めの主にこども向け。子どもたちが楽しそうに遊んでいる。大人は、付き添いの親か祖父母らしき人々しかいなかった。
「大人の我々は遠慮しようか…」
「だな…」
それ目当てで来た2人だったが、アスレチックコースを諦めた。
そこを離れ、なんとなく休憩所方向に歩き、喉を潤していこうということになったのだった。そして甘々カップルに今、あてられているわけだ。
うつむき。口元を片手の手のひらで抑えていたフランツがこらえきれずに
「…くくっ…ははっ…ははは…」
ごく小さく、トルーデ以外には聞こえない声量で笑い出した。
「どうした?」
「ーーいや…ペーターさんたちに担がれちゃったけどさ、これはこれで楽しいなって」
「え…楽しい?」
こくっ。頷くと、体を近づけ、トルーデの耳元に口を寄せ囁くフランツ。
「…ねえ…今気付いたんだけど……俺たちだけ、すごく運動しやすそうな格好してる…他はみんな洒落た服装……」
「!」
熱い吐息が耳にかかる。フランツの低音ボイスと、彼の香りがふわっと…。
好きな人から耳元で囁かれて心臓がバクバクするトルーデ。
しかしその内容が内容である。
(確かに、女性たちの洋服に気合いを感じるような…)
↑
[アンタも今気付いたんかい…]
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顔を見合わせて笑った後、フランツが斜め向かいのテーブルの客に目を止めた。
いちばん端にあるテーブル。人が多い中、彼らは人の中に紛れ、隠れ、埋もれているように見えたが…。
無精髭の男、白髪の男、太った男。皆中高年の三人客。時々周囲をキョロキョロと伺う。膝の上にはシワシワの紙袋。
うららかな公園の休憩所には、そこだけ異質に見えた。
トルーデとなにげないおしゃべりをしながら、なんとなく気になったそのテーブルを見たり視線を外したり。
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ガタタッッ
その3人の男たちは慌てた様子でこちらへ向かってくる。
男たちに背を向けて座っていたトルーデも異変に気付きなにごとかと周りを見渡し立ち上がる。まだ距離はあるが、無精髭の男が、トルーデの方向に手を伸ばしてくる。
(このやろう、その汚ねえ手を伸ばすな)
フランツが、トルーデと男たちの間に身体を割り入れようとしたその時。
四方八方から紺色の服装の集団がやってきて、3人の男は取り押さえられる。
立たせたトルーデの両肩を抱いて男たちから守るように立つフランツ。
「あっれー?」
紺色の上っ張りを来た、長めの灰色の髪を無造作に後ろでざっくり結んだ大柄な男が、捕まえた男に片膝を乗せ動かなくしていた。その男がこちらを見て笑う。
「よお!久しぶり〜!」
トルーデのかつての上官であり、フランツのいた隊の大尉だったクラウス・エプシュタインその人だった。
「大尉」
フランツとトルーデの声が重なる。
「もう大尉じゃねえって」
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