表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

水沢ながる短編集

冥府でサラリーマンになったけど、別な意味でブラック企業かも知れない。

作者: 水沢ながる

 思いがけず不慮の死を迎えてしまい、俺はあの世に行くことになってしまった。

 三途の川を渡ると、ずらりと行列が出来ている。閻魔大王に行く先を決めてもらう為の行列だ。こんなにたくさんの人の天国地獄行きを決めないといけないって、閻魔大王無茶苦茶激務だな。

 それでも行列はさくさく進み、俺の番になった。閻魔大王は渡された書類に目を通し、こう言った。

「おまえは生前多少の罪は犯してはいるが、まあ微罪だな。地獄に行く程のことはない」

 俺が内心ホッとしていると、閻魔大王は続けて言った。

「微罪だと、転生までの期間が罪の分長くなるが、冥府での労役をすれば免責されるぞ。どうする?」

 つまり、些細な罪なら働いて償えということか。俺は一も二もなくそれに飛びついた。

 こうして俺は冥府のサラリーマンになった。


 仕事場に案内されると、一面ずらりと机が並び、多くの人達が仕事をしている。俺は机の一つをあてがわれ、備品を支給された。……って、算盤?

「算盤の使い方、知らない?」

 隣の席の女性が声をかけて来た。

「い、いや、知ってますけど……今時、算盤って」

「ここはこれが決まりなの。死ぬ運命の人の資料を見て、罪の収支を数えて決算して、閻魔大王の採決の材料にするの。計算は正確に、ただし必ず算盤を使うこと」

「えらくアナログなんですね」

「理由があるのよ。今にわかるわ」


 それから毎日、俺はせっせと算盤をはじいていた。アナログな分手間はかかるが、休憩もしっかり取れるし社食の飯は旨いし、生きてる時よりいい生活をしている。

 ある日仕事場に出勤すると、仕事場の一角がやけに騒がしい。

「やっとあいつが来るんだ!」

「この日を待ち望んでたわ!」

「仕事を頑張らないとね!」

 何人かの同僚が嬉しそうに話し合っている。

「あれ、何なんですか?」

 俺は、ちょうど出勤して来た先輩の一人に訊いた。

「あれは、連続殺人事件の被害者達だよ」

 それは俺でも知っている、テレビなどで大きく報道された事件だ。

「ここで仕事しているのは、ほとんどが理不尽に殺された被害者なんだ。そして、自分を殺した加害者が来る時だけ、その罪に『うっかり』加算をしてもいいことになってるんだ」

 それは昔からのこの冥府の不文律らしい。算盤なんてアナログな道具を使っているのも、わざときっちりした数字を出さない為なのだ。


 俺は今日も算盤をはじく。

 俺を殺したあいつがこちらに来た時、盛大に「うっかり」してやる為に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ