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たかつきおにく(たんぺんのすがた)

マカロニウエスタン・エクソシスト

舞台は悪魔、魔術、呪術、鉛玉が飛び交う19世紀南北戦争時のアメリカ。

アメリカ南部を結ぶサザンパシフィック鉄道テキサス・アンド・パシフィック・レールロード駅の通信室。部屋にいた2人の男が突然痙攣、四肢が180度折れ曲がりうめき声をあげて絶命した。

絶命した男の死体が溶け交わり、中から現れたのは2フィートを越える大男だ。無人となった通信室で男はおよそ人間にふさわしくない牙をのぞかせ、表情を隠すようにかぶった黒衣から深紅の双眼怪しく揺らめかせた。

ちょうどその頃、サザンパシフィック鉄道の対悪魔用蒸気機関車、通称シルバーブレットはテキサスを目指していた。対悪魔用蒸気機関車は銀色の十字架をあしらい、聖水を完備しエクソシストを常駐させる旅客列車である。激化する南北戦争で南軍所属悪魔が潜伏する地域を安全に運行するため開発された。荒野を突き進む銀色に装飾された走行車両が突き進む姿はシルバーブレット(怪物を撃ち殺すための銀の弾丸)と比喩されるほど信頼は厚かった。

だが終始穏やかに終わるかと思われた列車の旅は突如鳴り響く銃声とヘブライ語によって終わりを告げた。

鳴り響く銃声と呪詛の応酬。半刻が過ぎ列車の連結部からエクソシストが姿を現す。歓声に沸く乗客だが一瞬のうちに歓声は悲鳴へと変わった、エクソシストの頭は反対にねじれていたのだ。小刻みに痙攣しながら犠牲者になり果てたエクソシストが言葉を紡いだ。

「列車は師団“壁の王”が占拠した!我々は人質の命とメフィストフェレス南軍司令官の交換を望んでいるのだ!要求が通るまで10分ごとに一人殺していくいいな!」

直後そのエクソシストの痙攣が止まり膨らみ爆ぜた。

恐怖が支配し悪魔が跋扈する列車。希望は潰えたかと思われたその時、一人の悪魔が音もなく倒れた。十字架で声道を切り首を折ったのだ。

「アーメン。神に祈りな、クソッタレが」

デヴィッド神父はワシントンに住むエクソシストでガンマンであった。

祭服にカウボーイハットをかぶった彼はイエス様とコルトSSAを信仰し、悪魔に鉛玉をぶっ放す日常を送っていた。

テキサスにいる旧友に遭うためシルバーブレットに乗り合わせたデヴィッドは不幸であった。だが同時に乗り合わせた悪魔にとっても不幸であった。

一人ひとり静かに屠られていく悪魔、師団“壁の王”のリーダーカルロスは異変に気付いた。

カルロスは悪魔としては珍しいネイティブアメリカンであった。

カルロスはメキシコのトウモロコシ農場で働いていたネイティブアメリカンの奴隷あり生まれついての悪魔ではなかった。南軍勢力が劣勢になる中で軍部から悪魔として前線で戦う代わりに自由を手に入れた解放奴隷だった。

カルロスにとって悪魔の力とは自由でありエクソシストとは自由を抑圧する支配階級であった。

カルロスは歯ぎしりする。

「シット!WASPE(注:ホワイトアングロサクソンプロテスタントエクソシストの意)が、クソにたかる蠅のように隠れてやがる!警戒を怠るな!」

BLUM!!BLUM!!

突如鳴り響く銃声。カルロスの傍らの悪魔の頭部が爆ぜる。

反射的にカルロスは呪詛を紡ぐ、呪いは濃い影を形成しデヴィッドに襲い掛かった。だが彼に届くことなく霧散する。

「俺は悪魔の力が効かない特異体質なんだ。デヴィッド・マーカス聞いたことないか?」

デヴィッドはカルロスにゆっくりと歩み近づく。

その名を聞きカルロスは自分のクソッタレな運命を悟り叫ぶ。

「ゲティスバーグの狂信者がなぜここにいる!」

デヴィッドは冷酷に告げる。

「世の中には二種類の悪魔がいる。いい悪魔と悪い悪魔だ。そして死んだ悪魔だけがいい悪魔だ、わかるか?」

デヴィッドは素早くリロードを行う。

「何が悪魔だ!貧困は誰のせいで無くならない!てめーらのようなWASPE(注:ホワイトアングロサクソンプロテスタントエクソシストの意)が世界を支配してるせいで俺たちは悪魔として生きるしかないんだ!てめーらのほうがよっぽど悪魔だ」

「俺は悪魔が嫌いだ。だが殺人を正当化するメキシコ人ほどじゃねえ。ファック野郎、悔い改めろ」

BLUM!!

ヤギ頭が爆ぜ先ほど悪魔だったものが崩れ落ちた。


「ったく、救えねえ野郎だ」

静かになった車内でデヴィッドは独り言ちた。あたりは硝煙のにおいが漂っていた。


「よお、カウボーイ。てめーまた派手にやったそうじゃないか」

テキサス・アンド・パシフィック・レールロード駅に降り立ったデヴィッド、彼に声をかけたのは旧友のガンマン神父ジョージだ。今は北部軍司令官としてテキサスで指揮を執っている。エクソシストとして現場から離れて2年になるがまだまだ腕は落ちていない。

「列車で説法を行っていただけだ。少し暴力的ではあったが、奴らは改心して今頃イエス様の愛を受けているだろう」

「ははっ、奇遇だな。俺も神の身元へ迷える子羊を2,3匹ほど導いてやったところだ」

2、3言葉を交わしただけで二人は何も変わらない旧友に安心する。

ところでと、ジョージが話を切り出す。

「お互い積もる話も多いだろう、どうだこの先にテキサス料理と酒のうまい店を知っているんだ」

まだ硝煙のにおいの残るホームを後に二人は店へ発った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「マカロニウエスタン・エクソシスト」読みました。 なかなか面白かったですが、展開が早いですね。 とにかく、わかりやすいです。考えることなく読み進められます。 それでいて、世界観に味がある…
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