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思わぬ事態

その後、ミナは本格的にビーズアクセサリー作りを開始する。

もちろん、今まで通り魔法や剣の訓練もしているし、ナハトの世話もおろそかにはしていない。


(レリウスお兄さまも、ナハトも、ちょっと放っておくと、直ぐにいじけるんやもんな)


ナハトは猫で、かまってあげないと拗ねるのは仕方がないと思うのだが、アウレリウスまで悲壮な声で『ミナは、私と訓練するより、ビーズアクセサリーを作る方が楽しいんだね』などと言い出すとは思わなかった。


そのくせ、ミナが作ったビーズアクセサリーをプレゼントすれば、大喜びするのだ。


「ビーズで小さめのリボンを作ってみました。それならば男の方でも、えりや胸につけられるでしょう?」


はしごのようにビーズを編むラダーステッチから、ビーズとビーズの間の糸をすくって編むブリックステッチで作るリボンは、キラキラと光る徽章のようで、男性の服にもよく似合う。

リボンの中央には、強さと保護力を与えるといわれる黒い宝石オブシディアンを配置した。


「きっと、お兄さまを守ってくれます」


「ミナ! 私のために、そこまで考えてくれるなんて!」


感激したアウレリウスは、ミナを抱きしめようと手を伸ばす。


「あ、ナハトもおそろいなのですよ」


しかし、その言葉を聞くなりピタリと動きを止めた。




「……おそろい? ナハトと?」


「ええ。ナハトもオスですもの。首輪にリボンを付けたのです。……あ、でも中央の石は、ピンクのクンツァイトにしてみました。まっ黒なナハトに黒いオブシディアンは、目立たないですものね」


クンツァイトは慈愛と許しの石と言われている。この石の力で、ナハトの心が少しでも慰められたらと、ミナは願う。


アウレリウスは、小さく肩を落とした。

横目でナハトを見て、ハァ~と大きなため息をつく。


「……おそろい。ナハトと」


もう一度、同じ言葉を呟いた。

どうやら、自分とペットの猫が同じものをもらったことに、少しがっかりしたらしい。




「……いや。ミナが心をこめて作ってくれたリボンだ。嬉しいよ」


しかし、気を取り直したのだろう、首を横に振りミナを抱きしめてきた。

頬にキスをしてくるから、ミナもお返しのキスをする。


「お兄さまに喜んでいただけて、わたしも嬉しいです」


キスを受けミナの言葉を聞いたアウレリウスは、たちまち機嫌を直した。


(アニキの世話っちゅうのも、たいへんや)


ミナは、心の中でこっそりため息をつく。


この後は、両親にもビーズアクセサリーを作って贈る予定だった。

ヒルダ以外の使用人にもあげたいし、もちろん自分用にも作りたいと思っている。


(考えているデザインは、たくさんあるし、みんな喜んでくれるしな。……もちろん、魔法と剣の訓練もさぼれんし、ナハトの世話もせんとあかん――――うん。おちおち引きこもってもおられんわ)


今まで以上に忙しい日々をミナは送ることになった。

しかし、それも好きなもののためならば苦ではない。


(苦どころか、めっちゃ楽しいわ!)


ミナは、充実した毎日を過ごしていた。





しかし、そんな日々が三カ月も過ぎた頃――――ひとつの噂がミナの周囲で流れだす。


『ヴィルヘルミナ・エストマン伯爵令嬢の作ったビーズアクセサリーを身に着けると、幸せになれる』という噂だ。



「えぇっ!? いったいどうして?」



ミナは、首を傾げた。

確かに、ビーズアクセサリーにパワーストーンを使っているが、石の効果はそんなに顕著(けんちょ)に表れるものではない。


(それほど効果抜群なら、誰も苦労せぇへんもんな。……たまたまビーズアクセサリーをもらった人に、いいことが重なって起こっただけやろう?)


そう思ったミナは、噂を気にしないことにする。

人の噂も七十五日。いずれ消えると思っていたのだが――――何故か噂は日ごとに大きくなっていった。

ついには噂を聞きつけた商人が、ミナにビーズアクセサリーの商品化を勧めてくる事態が起こる。それもかなりの頻度でだ。


(いやいや! あたしの作品は、そんな売りもんになるようなレベルやないし!)


想定外の事態に、ミナも家族も困惑した。



「一度詳しく調べてみるか」


エストマン伯爵の一言で、本格的な調査が行われることが決まる。

ミナとアウレリウスの父である伯爵は、子供たちそっくりの青い目を持つ美丈夫だ。ストレートの銀髪と青い目から氷の伯爵と呼ばれている。冴え渡った美しさと同時に領地経営などの辣腕家としても有名だ。


(まあ、ミナに対してはただの子煩悩の親バカやけどな)


魔道具も使用した大掛かりな調査に、いくら可愛い我が子のためでもそこまでしなくてもいいのにと、ミナは思ったのだが――――。



結果、なんとビーズアクセサリーのパワーストーンに、魔力があることがわかったのだった。


「え? どうして?」


ミナが使ったパワーストーンは『パワー』と冠せられていても、実際はごく普通の宝石だ。魔力など欠片もなかったはず。



「どうやら、無意識のうちにミナは宝石に魔力を込めていたようだね」



一緒に調査結果を聞いていたアウレリウスが、呆れたように肩をすくめた。

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