表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/75

意外な人物

そして、おとずれた卒業式当日。

さすがのミナも緊張している。

今日の王都は天気が悪い。雲が低く垂れこめて、今にも泣き出しそうな空だ。


(たしか、来賓の国王陛下の挨拶の最中に、この雲が割れて魔獣の大群が現れるんよね)


――――のはずなのだが、どうして壇上にハルトムートの兄である王太子殿下が上がっているのだろう?


(へんやなぁ? ……まぁ、いろいろゲームと違ってきているんやから、多少の変化はありなんか?)


なんでも国王は、急な用務が入ったため、卒業式に出られなくなってしまったのだそうだ。

前々から計画されていた日程を急変させるような用務がなんなのかは気になるところだが、ハルトムートも知らないと言っているのだから、追求する術がない。


(レヴィアには、他のことを頼んでいるし)


今、ミナの近くにはレヴィアもナハトもいない。

彼らには、特別なお願いをしてあるからだ。

その報告もそろそろ届く頃だと思うのだが。


ミナが、そう思ったちょうどその時、ヒュン! と空気を裂く音がして、目の前にレヴィアが現れた!

当然、周囲の人々は驚きの声を上げる。


本日卒業生代表として、挨拶を行う予定のミナは、ハルトムートと一緒に卒業生の最前列に座っている。

つまり、ほとんど全ての人の視線の向いている場所に、妖精騎士は現れたのだ。


「遅くなったな、主。頼まれたものは全て集めてきたぞ」


そう言ってレヴィアは、サッと手を振る。

途端、空中に十個ほどの魔道ランプが出現した。

次に、レヴィアがパチンと指を鳴らせば、ガチャガチャと大きな音を立てて魔道ランプは落ちていく。



その全てが、黒い魔道ランプだった。



「キャァ!」

「なんだ、あれは?」


人々は驚きの声をあげる。


ミナは、ジッと一点を見ていた。



「ミナ! ――――これは、いったい?」


ミナの隣に座っていたハルトムートも、さすがに驚きを隠せない。

すっくと立ち上がると、強い口調でミナにたずねてきた。


当然ミナも立ち上がる。


「見ておわかりだと思いますが……ハルトムートさまの近衛騎士団の魔道ランプです。レヴィアとナハトに頼んで、王都の中を捜してもらったんです。まさか、こんなに“配置”してあったとは思いませんでしたけど」


――――今まで、魔獣の大量発生があった現場には、この魔道ランプの欠片とおぼしきモノがあった。

今日、王都で魔獣の大量発生があるとわかっていたミナは、ひょっとしたらと思って、レヴィアとナハトに魔道ランプを捜してもらっていたのだ。


思いついたきっかけは、夜間訓練で灯りに群がる虫を見たこと。

見慣れたその光景が、なぜか魔物の大量発生と重なって見えた。


虫が夜の光に群がる理由には諸説あるが、ひょっとしたら魔獣も、何かを目標に群がっているのではないかと思いついたのだ。


(夜の光と魔道ランプを結びつけたのは、我ながら安易やなと、思ったんやけど)


よもやビンゴ! を当てるとは半分信じていなかった。


そして、もう一つ思い出したのは、ゲームのラストシーン。


ゲーム『闇夜の星』のラストでは、そもそも魔王が、なんなのかの種明かしがされる。

それはよくあるファンタジーの定番ともいうもので――――要は、人間をはじめとするあらゆる生き物の負の感情が、(こご)(わだかま)って(よど)んだ結果、大きな負の感情を持つモノに取り憑き、浸食したのだというものだった。


ゲームの中では、ヴィルヘルミナ以外の者から蔑まれ迫害を受けていたハルトムート。

彼の負の感情が積み重なって、この国に魔獣を呼び寄せ、最後には自ら取り込まれて魔王となった。


しかし、自慢ではない――――いや、はっきり言って自慢するが、今のハルトムートに、そんな負の感情の蓄えなど、ほとんどない!

もちろん、まるでない人間などいるはずもないから、人並みにはあるはずだが……ゲームのハルトムートに比べれば、それは微々たるものだろう。


(関西人の血を引くこのあたしが、かまい倒して育てたんや! 毎日夜間訓練することで、宵越しの銭――――いや、宵越しの不満は持たないようにしてきたし!)


…………宵越しの銭は持たないのは、江戸っ子である。

母は大阪出身でも、生まれも育ちも東京なミナだからこそ出てきた言葉だろう。


つまり何が言いたいかと言えば、魔物の大量発生を引き起こしたのは、ハルトムートではないということだった。


それなら“誰”が、ということなのだが――――



(そんなもん、あたしにわかるわけないやろ?)


ミナは、人の心の機微に聡くない。

はっきり言って、鈍ちんである!

自分で自分の心もわからないのに、なんで他人の心がわかるなんて思えるのだろう?


(あたしは謙虚な人間やからな。わからんものをわからんて認めることに否やはない)


ただ、それとは別に、誰かはわからなくとも、その誰かを燻り出すことは可能だと思っていた。


(そこで使うんが、魔道ランプや!)


灯りに虫が飛び込むことから、魔道ランプに何らかの細工をして、その“誰”かが魔獣を集めているのではないかと、ミナは、まず仮定する。


ゲームの知識から、卒業式の今日、王都で魔獣の大量発生があることはわかっている。


そして、魔獣は最終的に学園を狙ってくるのだ。


偶然だと思っていたのだが――――たとえば、それが誰かの悪意だとしたらどうだろう?

卒業式を滅茶苦茶にしてやりたい誰かの、計画的犯行だったとしたら?


狙いは、ハルトムートかもしれないし、他の誰か――――たとえば、ミナかもしれない。

個人ではなく、卒業式という多数の集まる場所を狙った犯行の可能性もある。


そもそも全てが仮定の上の推理だから、そこら辺は曖昧でもかまわない。



重要なのは、犯人が、かなりの確率で、今日この学園にいるだろうということだった。



『犯人は現場に戻る』


これは、サスペンスドラマの中だけではなく、現実の犯行でもよくあることらしい。

犯人の心理などわかりたくもないが、放火犯が火事現場を見に来ていたという話は、よく聞くことだ。


(王都にばらまいて魔獣を出現させようとしていた魔道ランプを見つけて学園に持ってきたら、その“誰”かは、どんな反応をするやろか?)


ゲームでは、王都のあちこちの現れた魔獣は、それでもなんとか反撃した騎士たちの攻撃を受けて、勢力を削がれた上で、学園に集まってきていた。

しかし、最初から学園に現れたのなら、その戦力は何倍にもなるわけで――――


(もちろん、あたしは遅れをとるつもりはないけどな! 準備は万端。整っとるんや!)


しかし、それを知らない“誰”かは、集まった魔道ランプを見て、かなり慌てることだろう。




ミナは、そう思って周囲の反応を注意深く見ていた。


突如、妖精騎士レヴィアが現れて、しかもその後、魔道ランプなんていうわけのわからないものが空中から出てきてガチャガチャと落ちる。

そのこと自体がイレギュラーであり、驚くことは当然だ。


しかし、その中でも、この魔道ランプの意味をはっきりわかり、強い恐怖を表す者が、いはしないか?


自分の背後はレヴィアに見てもらい、ミナは右を見て、左を見て、前を向く。






「…………え?」


思わず声が出た。


ミナの真っ正面に、顔色を失い、ブルブルと震えている人がいる。


口が大きく開かれて――――



「うわぁぁぁぁっ!」



恐怖の叫び声が迸った!


その声に、他の人々も呆気にとられる。


全員が視線を向けた先で、叫んだ人物――――たった今まで壇上で父王に代わり挨拶していた王太子が、一目散に逃げ出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ