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無自覚独占欲発言には、勝てません!

――――それから、半月後。


張り切ってハルトムートのネックレスを作り上げたミナは、あの時の自分の決断を心底後悔していた。


(あんなナルシストの言葉を鵜呑みにするなんて、あたしったらなんて迂闊なことをしたんや!)


『後悔先に立たず』『死んでからの医者話』である。


(レヴィアもレヴィアよ! あなたより強い妖精騎士は、いないんじゃなかったの?)


(その通りだ。私は、嘘は言っていない。私より強く美しい“妖精騎士”など存在しないからな)


レヴィアは、悪びれることはなく堂々と主張する。



(“妖精騎士”はね! ……それ以外の存在が現れる可能性があることを、どうして教えてくれなかったのよ!)



妖精女王が治める妖精国。そこには、騎士以外にも様々な妖精の戦士がいる。

歩兵、弓兵、軍団兵に術士、それになんと暗殺兵までいるというから驚きだ。


(なんや、妖精っちゅうたら、フワフワと優しくて争いごとなんていたしません! ってイメージがあったんやけど)


本当にそんなイメージそのままならば、そもそも騎士の存在もないはずだ。

ミナは、事ここに至るまでの流れを、後悔しながら思い出していた。



◇◇◇



ミナが、ハルトムートのために作ったネックレスに使った宝石は、黒翡翠。

一見黒に見えるものの、光を当てると鮮やかな緑色の光が現れる美しい石で、黒翡翠には明るい未来を切り開く力があると言われている。


本当は黒い宝石は嫌かと思い避けようとしたのだが、ハルトムートが「これがいい」と言ったので、使うことになったのだ。

なんでも、黒翡翠はソージェイア王家の守護石なのだそうで、国に繁栄をもたらすと伝えられているという。


「……俺が幼いとき、母上がくださったんだ」


大切そうに黒翡翠を持ち、うつむき呟くハルトムートの姿に、ジンときたミナだ。

張り切ってネックレスを作り上げたのだが、どうやらそれがいけなかったらしい。


夜遅くに出来上がり、少しでも早く渡したくて訪れたハルトムートの私室。


そこで寝る寸前だったハルトムートの手にネックレスを握らせたとたん、室内にカッ! と光が満ちあふれた!


そして現れたのは、ハルトムートと同じ黒い髪、黒い目を持つ堂々とした美丈夫だ。



「……フム。ここは人間界か?」



聞こえてきたのは、どこかで聞いたことのあるセリフ。


レヴィアと同じくらい高い見上げるような長身の男が、黒い鎧に包まれて立っていた。

腰に()く剣は、そんなものが振るえるのかと疑ってしまうような大剣で、それがまたよく似合う。


(……って、たしかレヴィアが現れたときにも、同じ事を思ったような)


圧倒的なオーラを放つ男の、人とは思えぬほどに整った顔が、興味深そうにハルトムートの部屋を眺めていた。


そこへ――――


「……貴様か」


いつの間にかミナの横にレヴィアが顕現し、嫌そうに呟く。



「な! なんだ!? お前たちは!!」


ハルトムートが混乱して叫んだ。

突然部屋の中に、見知らぬ男が二人現れたのだ、当然の反応だろう。

それでも咄嗟にミナの前に出て庇うような動きを見せてくれ、そこには感動したミナなのだが――――。


ハルトムートの背後で、ミナは頭を抱えていた。



「我が名は、ガストン。妖精女王陛下の忠実なる“妖精闘士”だ」



黒い男――――ガストンはそう名乗る。


「……よ、妖精闘士?」


呆然として聞き返したミナの反応は当然だろう。


「こいつらは、我ら騎士とは違う力任せの泥臭い戦士一族だ。がむしゃらに勝利だけを目指し、洗練さの欠片もない戦い方をする」


そんな彼女に、レヴィアが素っ気なく説明してくれた。

先ほどから、どう見ても友好的ではない態度だ。


「戦いは勝利してこそだ。いくら綺麗な戦い方をしても負けてはなんにもならないからな」


レヴィアの態度など気にもしていないように、ガストンは淡々と返してきた。


「その割に、競技会で貴様が私に勝てたことは一度もないようだが?」


「ルールばかりのあんなお遊びに勝って、なんの意味がある。実戦で私に勝る働きを貴公が上げたことがあるのか?」


レヴィアとガストンは、双方とも無表情に睨み合う。

……どうやら彼らは、たいへん仲が悪いようだ。


その後は、だいたいレヴィアとミナが契約したときと同じような流れになった。


――――黒翡翠のネックレスの所有者を確かめ、譲ってほしいとガストンが頼み。

――――当然「嫌だ」とハルトムートが拒み。

――――ならばと、死後に譲り受けることを条件に、ガストンがハルトムートに忠誠を誓う。



ミナは、それを諦めの境地で眺めていた。


(レヴィアの言葉を鵜呑みにした、あたしがバカやった)


そして、冒頭のセリフに戻るのである。



◇◇◇



心の底から反省しながらレヴィアとガストンを見ているミナの横に、いつの間にかハルトムートが並び立つ。


「……お前は、ずっと“あいつ”と一緒にいたのか?」


“あいつ”とは間違いなくレヴィアのことだろう。


「そうですね。レヴィアと会ったのは九歳の時ですから、一年くらいは一緒にいます」


まだ一年と言うべきか、もう一年というべきか。

いろいろと濃い一年だったなと、ミナは振り返る。




「……ズルい」


ハルトムートは、ポツンと呟いた。


「えっと? ハルトムートさま?」


ズルいと言われても困ってしまう。

レヴィアは、ミナが呼び出そうとして呼び出した相手ではない。

レヴィアの方から勝手に押しかけられて契約を結ばされた相手なのだ。


(そりゃ、黙っていたんは悪かったかもしれんけど、でも、積極的に話すことでもないやろうし――――)


ミナは、どう言ってハルトムートに納得してもらおうかと考える。

しかし――――



「ズルい。……俺とミナは、まだ会って一ヶ月も経っていないのに、こいつは、一年も前から、ずっとお前の側にいたなんて」



レヴィアを睨みながら、ハルトムートは小さな声で恨めしそうに呟いた。


聞こえたミナは、ポカンとしてしまう。




(え? ズルいって、あたしやなくレヴィアの方?)


妖精騎士という破格な存在を得ていたミナではなく、ミナとずっと一緒にいたレヴィアの方を、ハルトムートは「ズルい」と言っているのだろうか?


それでは、まるでハルトムートが、ずっとミナといたかった――――と言っているようだ。




……ミナの頬は、じわじわと熱くなった。


(……いやいや! 相手は十歳の子供やし! これは、そんな“甘い”セリフやなくて、友情っつうか、よきライバルへのこだわりっちゅうか――――うん! そんなもんのはずで……!)


ミナは、頬の熱さを鎮めようとする。

そんなミナを横目で睨みながら、ハルトムートが聞いてきた。


「――――お前のアクセサリーに宿った妖精は、あいつだけか? 他にいたりしないだろうな?」


「……彼だけです」


(ナハトはアクセサリーに宿っているわけやないからノーカンのはずやもんな)


そう思ったミナは、コクンと頷く。


ハルトムートは、満足そうに笑った。



「そうか。……ならば、もう妖精は増やすなよ。――――お前の傍に、これ以上余計な存在を近づけさせたくないからな」



それは、ミナへの“独占欲”とも受けとれる発言で――――。





(……いや、きっと、あたしをこれ以上強くさせたくないとか、そんな意味なんやろうけど!)


ミナの頬の熱は、一向に治まらない。



(……う~……まだ十歳やっちゅうのに、ハルトムート……やっぱり恐ろしい子や!)



ドキドキと高鳴る胸を押さえ、心の中で叫ぶミナだった。


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