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クラスにつきました

今年度のラキセラ学園の新入生は全部で百人だった。

入学条件が『魔力を持つこと』だけである学園にとってこの数字が多いのか少ないのかは、判断に迷うところだ。


(たとえ魔力があっても学園に通えない平民とかもいるから、この数イコール魔力持ちの総数ってわけやないんやろうけど)


文官であれ武官であれ、国の機関で主要となって働く人間のほとんどはラキセラ学園の出身者。

そう考えれば優秀な人材が切磋琢磨できるように、同級生はもっとたくさんいた方がいいに決まっている。




(いてもいなくても大して変わらない有象無象ばかりが増えても無意味なだけだろう?)


辛辣な言葉を吐くのはレヴィアである。

ナルシストな妖精騎士にとっては、少しばかり魔法が使える人間の子供などは有象無象らしい。


(もうっ、そういうこと言わないの)


ミナが(たしな)めれば、胸のペンダントがフンというように小さく揺れた。


いつも通りの定位置にレヴィアはいる。

もちろん足元の影にはナハトも潜んでいた。

自分を見守る二人を意識しながら、ミナはハルトムートの後ろを歩いていく。

とはいえ、決して彼の後をつけているわけではなかった。

目指す教室が同じなだけである。


「同じクラスで嬉しいですわ」


「……フン」


馬車を降り、アウレリウスと別れてから、ずっと無言で歩くことに飽きたミナが声をかければ、ハルトムートはプイと横を向く。

一緒に訓練をはじめたからといって、彼はミナに心を許したわけではないらしい。


ミナは、やれやれと肩をすくめた。

あらためて周囲に意識を向ける。


――――始業前の学園内はガヤガヤとした騒音に満ちていた。


多くの人間が集っているのだから、音がしない方がおかしいだろう。

それなのに、ハルトムートとミナが通り過ぎた後ろでは、騒音がピタリと止まっていった。

シンと静まりかえり、不自然なほどに話し声が消えるのだ。


無言の視線が、ジッと二人を追いかけてくる。




(やな感じやな)


直接何かを言われるわけではない。

しかし、悪意を含んだ視線は心に突き刺さった。


(きっとハルトムートは、王宮でも同じ思いをしていたんやろうな)


無言で歩く少年の心境を思えば、ミナの胸は痛む。


居心地の悪い静寂を後に、二人は教室へとたどり着いた。

閉まっているドアの中からは、ここまでくる間に聞こえてきたのと同じ騒音が聞こえてくる。


一瞬立ち止まってしまったミナとは反対に、ハルトムートは無造作にドアを開けた。



途端――――騒音がピタリと止まる。



(ああ、やっぱり、ここもなんやな)


ミナは切なく眉をひそめた。

ハルトムートは、ギュッと唇を引き結び歩き出す。


仕方なくミナも後に続いた。




ラキセラ学園の教室は、日本の学校の教室によく似ている。

前と後ろに授業用のボードがあり、片側の側面は窓で、もう片方は廊下に面している。

教室の前側には教師用の大きな机があり、生徒の机が整然と並んでいた。


(まあ、壁も床も立派だし、教室自体も日本よりだいぶ大きいみたいだけど。机や椅子もゆったりしていて豪華やわ)


さすが貴族や王族も通う学園といったところか。


各列五人で四列で、このクラスの総勢は二十人だった。

前の白い壁には席順を書いた紙が張り出されている。


ハルトムートもミナも立ち止まってそれを眺めた。

ハルトムートの席は窓際の一番前。

彼の隣がミナである。


(残念、できれば一番後ろの隅っこが良かったんやけど)


学生時代、クラスメイトと争奪戦を繰り広げた一番人気の席をミナは未練がましく眺めた。


(世の中、そうそう思い通りにはいかへんよな)


チラリと席を確認したハルトムートは、黙って自分の席に着いた。


その拍子に、ハルトムートの後ろの生徒が、ビクッと体を震わせる。


その生徒を見たミナは、ビックリして目を見開いた。

それは、ミナのよく知る人物だったのだ。


「――――ルーノ。同じクラスだったのね」


「……や、やあ。ミナ。久しぶり」


ミナが声をかければ、ルーノは小さな声で挨拶を返してきた。

いつもと違う、彼の大人しい態度にミナは少し悲しくなる。


(まさか、ルーノも他のみんなと同じなの?)


「ルーノったら、いつもの元気はどうしたの?」


違ってほしいと願いながら、ミナはルーノにそう聞いた。

わざと明るく笑いかける。

ルーノは顔を引きつらせた。



「ど、どうしたって!? ……だ、だって……この方は、その……お、王子さま(・・・・)なんだろう? お、俺は平民なんだぞ。……なのに、こんな近くの席で――――」



ルーノはミナに近づき、おどおどとしてハルトムートをうかがい見た。

その目には、怯えはあっても蔑みはない。


平民で、しかも孤児のルーノにとっては、王子であるハルトムートは畏怖の対象なのだ。


「……ああ、そんなこと(・・・・・)? 大丈夫よ。学園では身分は関係ないって建前(・・)なんだから」


ルーノが単純に身分のせいでハルトムートを恐れているのだとわかって、ミナはホッとする。


そんなこと(・・・・・)のわけがないだろう! それに、なんだよ建前(・・)って!?」


ルーノは、強い口調で言ってきた。


そうは言われても、本当のことなのだから仕方ない。


「建前は建前よ。真実だと思って調子に乗ると痛い目に遭うけれど、一応そうなっているから、限度を見極めて利用する分には便利なものよ」


しゃあしゃあと、ミナは説明した。

ルーノは目を丸くする。




「……考え方が、おかしいだろう?」


恐る恐るミナに聞いてくる。


「おかしくないわよ」

「おかしい!」


即座に返事が”二つ”返った。


「おかしくない」と言ったのはミナで、「おかしい」と言ったのはハルトムートだ。


二人は、顔を見合わせた。

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