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最初の一歩でつまづきました

 本格ファンタジーRPGゲーム『闇夜の星』は、壮大かつ幻想的な世界観を、美麗なグラフィックで表現した超大作ゲームだ。

練り込まれたシナリオと重厚なバトル。

剣と魔法の世界を、魅力的なキャラクターが駆けまわる。

物語のテーマは友情。

主人公と、最終的に魔王となってしまう友人との、親愛と葛藤を軸にストーリーは展開されていく。


(最初のキャラ設定で女性を選択すれば、友情が愛情になるんやけど)


それも含め聖奈的には大当たりのゲームだった。

人気もあって、同じ世界を舞台にした続編も出たけれど、はじめの『闇夜の星』が一番だと聖奈は思っている。


(主人公の子供時代から丁寧にかかれていて、感情移入しやすかったんよね)


何度も何度も繰り返しプレイし、クライマックスでは号泣し、最後のハッピーエンドに胸をキュンキュンさせた。

大大大好きなゲームの世界に転生できて、普通なら大喜びしそうなものなのだが――――



ことは、そんなに単純ではない。


(だって、超大作ゲームやもん)


主人公の冒険は、たいへん長く様々なシチュエーションに富み、しかもそのどれもがハラハラドキドキの連続なのだ。


(海で溺れそうになったり、雪山で凍死しそうになったり……そうそう、砂漠で行き倒れたりもするんよね)


ゲームならいい!

どんなに主人公が苦境に陥ろうとも、現実の聖奈は、エアコンのきいた部屋でソファーに座りながら、コントローラーを握り画面を見ているだけだ。


(海はまだましやけど……雪山とか砂漠とか……絶対、あかんやろ)


何度も何度も死にかけた主人公。

実際、聖奈も何回かはゲームオーバーになっている。


(現実にはセーブポイントなんて、あらへんし……なのにそれと同じ目に遭うとか、絶対いやや!)


断固お断りだった!


(まずい。……まずいでぇ。なんとかせぇへんと)


聖奈――――いや、今やヴィルヘルミナとなった彼女はうんうんと考え込む。



ゲームのはじまりは、今と同じ七歳のはずだった。

王都にあるエストマン伯爵家での誕生パーティーからオープニングムービーが流れる。


(ふわふわの金髪と青い目の、天使かっつうくらい可愛い主人公が、嬉しそうに笑っていて……そこに、王子さまが来るんよね)


王子さまは、ヴィルヘルミナの住むフォクト王国の第二王子で、名前はハルトムート・ヴァル・フォクト。

主人公と同じ七歳で、夜空のような黒髪と黒い目を持つ美少年だ。

本来、伯爵家の誕生パーティーに第二王子とはいえ王子が訪れることなどないはず。

しかし、ヴィルヘルミナの母が王妃の従妹であったため彼はパーティーに来たのだった。


(母親同士仲良くて、同じ年に生まれた子供が男と女だったから、将来結婚させましょう! ……てな話に、なってたんよね)


ちなみに最初の選択で男を選んだ場合、主人公は王子の側近候補となる。

第二王子とはいえ、王族の伴侶や側近をそんな母親の口約束で決めてしまっていいのかとも思うが、……そこはゲーム。深く考えてはいけないのだろう。


(まあ、ホンマに口約束レベルで正式なもんやないしな)


事実三年後、この結婚の約束は当人同士が知らない内に立ち消えになっている。

学園に入学前の魔法属性検査で、ハルトムートの属性が人々に忌み嫌われる闇属性とわかるからだ。

申し出の取り消しは、エストマン伯爵家からではなく王妃の方から言い出されるはずだった。


(それくらい、闇属性っちゅうのはこの国ではタブーなんよね)


それまで王子ということで、蝶よ花よと育てられた子供が、闇属性の魔法使いと分かった途端手のひらを返したような冷遇を受ける。

態度を変えなかったのは、唯一主人公だけで、王子は主人公を心の拠り所とするのだ。


なのによりによって王子の実の母である王妃が、主人公を王子から取り上げる。


(絶望した王子が闇堕ちして、最後は魔王になるんよね。……そして光の魔法属性を持つ主人公が、王子を救うために冒険の旅に出るんや)


ヴィルヘルミナはそこまで思い出す。




そして、ふと思いついた。



(――――だったら、王子を闇堕ちさせなければいいんやないか?)



主人公の冒険の旅の目標は、王子を救うこと。

そもそものその目標がなくなれば、ヴィルヘルミナは旅立たないですむ!


(いや。王子が闇堕ちしようがどうしようが、知らんぷりしとけばOKちゅうのも、ありなんやけど――――)


やっぱりそれは、後味が悪い。――――聖奈は、ヴィルヘルミナと同じくらいハルトムートも好きだったのだから。


(それに、そうなったら王子は魔王になって、この世界を滅ぼすんやないか? ……あかん、あかん! 世界が滅ぶのは冒険の旅に出るのよりたいへんや!)


やっぱり王子を闇堕ちしないように、導くのが最善の方法のようだった。

今度は、そのためにどうすればよいかを、ヴィルヘルミナは考えはじめる。


(ともかく王子に会って、今からメンタル鍛えたり、楽しいことぎょうさん教えたりしたらいいんやないやろか?)


人生には笑いが必要なんだと聖奈は思う。

幸いにもヴィルヘルミナとハルトムートは、彼女の七歳の誕生日パーティーで出会い仲良くなり、その後も度々会うようになるはずだった。

三つ子の魂百まで。ハルトムートは、もう七歳だがまだまだ間に合うはずだと、ヴィルヘルミナは思う。




しかし――――


(……え? あ、でも、待って! ……七歳の誕生日パーティーって?)


ふと思い出したヴィルヘルミナは、自分の顔から音を立てて血の気が引いていくのを感じた。



(……パーティーで、あたしハルトムートに会ってへん!)



あの時、前世の記憶を思い出したヴィルヘルミナは、ハルトムートに会う前に見事に気絶していた。

当然、ハルトムートの影も形も見ていない。

仲良くなるどころか、その前のお知り合いにもなっていないのだ。



(あかん。……計画の第一歩でつまずいた)



フラッと体を揺らし、ヴィルヘルミナはそのままベッドにポスンと突っ伏したのだった。

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