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妖精騎士は……予想外でした

「ほう? 人の子が、我が名を知っているのか?」


ミナの呟きを聞いた妖精騎士――――レヴィアがこちらに視線を向けてくる。

オレンジの目に見据えられ、ミナはゴクリと唾を呑みこんだ。


「何故? ……どうして、あなたがここにいるのですか?」


ミナの質問に、レヴィアは形良い眉をひそめる。


「私の質問には答えずに、質問に質問を返すか?」


低い声が、不機嫌そうに響いた。


「あ――――」


ヒヤリと冷気を感じたミナは、怒らせてしまったのかと体を強張らせる。

恐る恐る視線を向ければ、麗しい騎士が小さなため息をついた。


「……まあよい。私は有名だからな。幼い人の子であろうと、我が名を知るのは不思議ではないことだ」


自分で自分の質問に答えたレヴィアは、満足そうに頷く。



(……は?)


ミナは、きょとんとしてしまった。

呆けるミナにかまわず、レヴィアは言葉を続ける。


「人に比べれば遥かに高位な存在である私が、このような場所にいることに疑問を抱くのも、また仕方ないことだろう。……フム。私は優しいからな。教えてやってもいいぞ」


ものすごく偉そうに、そう言った。

ミナの青い目は、真ん丸になる。


(へ? レヴィアってこんな性格だった? ゲームとまるで違うんやけど)


ゲームのレヴィアは、どちらかと言えば謙虚で控えめな性格だ。強い力を持ちながらも決して驕らず、ヴィルヘルミナの賞賛に対して『一人でできることには限度がある。大切なのは皆で協力することだ』と真剣に説いていた。

そんな彼の態度に、聖奈は感心し憧れていたのだが――――


「私がここにいるのは、私が宿るに値する類まれなる宝玉が出来上がったからだ。この美しさ、輝き! どれをとっても崇高な(・・・)私に相応しい!」


目の前のレヴィアは、そう言うとミナの作ったネックレスを持ち上げ、うっとりと見つめた。



「……ニャー」


タイミングが良いのか悪いのか、丁度その時ナハトが小さな鳴き声を上げる。

ミナには呆れ声のように聞こえたのだが、レヴィアには違って聞こえたようだ。


「そうか、そうか。お前もそう思うか。小さき生き物でも、私とこの宝玉の美しさはわかるのだな」


うんうんと納得して頷く。



(………………ナ、ナルシストか~い!!)



ミナは心の中で、盛大にツッコんだ。

今の言葉は、誰がどう聞いてもそうとしか思えない。


(そんなバカな! ゲームのレヴィアは、絶対ナルシストやなかったのに!)


今にもネックレスに頬ずりしそうなレヴィアに、ミナはドンびいてしまう。


(いったい、どうしてこうなったんや!?)


一生懸命考えはじめた。



――――ゲームと今との大きな違いは、レヴィアの事情だ。

ゲームでは時はもっと先で、魔物の進攻により妖精国および妖精たちは危機に(ひん)していた。

そのためレヴィアは、助けを求め自分からヴィルヘルミナの仲間となる。


(……あれか? ゲームでは助けを請う立場やったから、低姿勢だっただけなんか?)


力を借りる相手に対し、依頼する者が謙虚になるのは当然だ。お願いするのに高飛車に振る舞うバカはいないだろう。どんなうぬぼれ屋だとしても、丁寧に対応するに決まっている。

つまりゲームのレヴィアは、本来ナルシストな自分を制しヴィルヘルミナに接していたのだと思われた。


――――まあ、それ以前に魔物の進攻を止められなかったことで、高い鼻が折れていた可能性もないではないが。




(…………そんな。詐欺やろう)


ガラガラと崩れる妖精騎士のイメージに、ミナは放心しそうになった。

そんなミナの心境など気にした風もなく、レヴィアは満足そうにネックレスを撫でている。


「人間の少女よ。この宝玉を完成させたのはお前か?」


真剣な声で聞いてきた。


「……はい」


違うとも言えず、ミナは頷く。


「そうか。これほどのものを私に献上(・・)するのだ。礼をせぬわけにもいくまい。望みはなんだ?」


レヴィアは、そんなことを言い出した。

寝耳に水の発言に、ミナはビックリ仰天する。



「け、献上?」


「私以上にこの宝玉に宿るに相応しいものはおるまい。であれば当然これは我がものとなるべきだ。お前も、私のような高位の妖精騎士に自分の作った宝玉を捧げるのは光栄の極みだろう? 受け取ってやるだけでも栄誉を授けることとなるが……私は優しいからな。望みのものがあればなんでも与えてやろう」


いまだその手の上にアクセサリーを乗せながら、レヴィアは偉そうにそう話す。

慌ててミナは、レヴィアの側に駆け寄り彼の手からアクセサリーを奪い返した。



「これは、私のものです!」



断固として宣言する。


「……私に逆らうのか?」


視線を険しくし、レヴィアが睨みつけてきた。


(当たり前やろ! このボケ!)


とは思ったが、まさかそう言うわけにもいかない。


「――――逆らうとか逆らわないとか以前の問題です。これは間違いなく私の物。人の物を勝手に取り上げるとか、ありえん――――もとい、ありえないでしょう? 高位の妖精騎士ともあろうお方が、そんなことをされるとは思えません」


負けじとミナも睨み返した。

せっかく作った渾身のビーズアクセサリーを献上しろだなんて、冗談じゃないと思ってしまう。

高ぶる感情のまま言葉を続けた。


「このアクセサリーは、私が父からもらった大切な品です。それを一生懸命アレンジしてようやく今日完成したのです。この世でたった一つの私だけのネックレスを、あなたであれ他の誰かであれ、お渡しするつもりはありません!」


きっぱりとそう告げた。

妖精騎士はムウッと眉間にしわを寄せる。


「それほど価値のある物ならば、やはり私に献上すべきだろう」


「勝手に決めないでください! そんなこと誰が許しても“妖精女王陛下”がお許しになりませんよ!」


ミナが妖精女王の名を出せば、レヴィアは、はじめて怯む様子を見せた。


(良かった。レヴィアが妖精女王の名に弱いのは、ゲームとおんなじなんやな)


ミナは、ホッと息を吐く。


人間に比べずば抜けた力を持つ妖精騎士レヴィア。

騎士である彼が敬愛するのは、当然妖精国の女王だ。

ゲームでは、妖精女王は滅亡の危機に瀕している妖精国を守るため、死力を尽くして妖精国の結界を維持しているという設定だった。

このため、女王がヴィルヘルミナの前に直接姿を現したことはなかったが、ことあるごとにレヴィアは女王を称える発言をしていた。

曰く――――


『長きに渡り妖精国を守り率いてきた麗しの君』

『太陽のごとく輝き、月のごとく澄み、夜闇のごとく底知れぬ力を持つ御方』

『深き慈愛と気高き矜持を合わせ持つ、優しく厳しい我らの母』


――――等々。


(レヴィアが、妖精女王に心酔していて絶対逆らえへんっちゅうことが丸わかりのセリフばっかりやったもんな)


その女王が許さないと言えば、レヴィアも考え直すに違いない。


「妖精女王陛下は、公明正大で慈悲深き方と聞き及んでいます。陛下は、今のあなたの行いをどうお思いになるでしょう?」


もう一押しと思ったミナは、ダメ押しの言葉をレヴィアに告げた。

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