渾身の作品ができあがりました!
その後ミナは、懸命にビーズアクセサリー作りに励んだ。
(なんとかOKもろたけど、いつまた気が変わってダメや言い出すかわからへんもんな。とっとと完成させな!)
ミナを溺愛する父と兄が一度した約束を違えるとは思えないのだが、世の中何があるかわからない。
自身が切り替えの早い性格のせいで、常に状況の変化に備える癖のあるミナは、やれることはさっさとやってしまう主義だ。
一心不乱にビーズを編み続け――――
『やった! 完成や!』
終わった時には、思わず日本語で叫んでしまった。
慌てて周囲をキョロキョロ見回す。
「よかった。誰もいないわ」
今は真夜中。
部屋の中は当然ミナ一人だ。
ベッドの上でナハトが丸くなって寝ているが、ペットは数に入れなくてもかまわないだろう。
もう少しで完成だと思った彼女は、寝たふりをしてヒルダを下がらせた後、こっそりビーズアクセサリーを作り続けていたのである。
(こういう時は貴族の邸は便利やな。扉もカーテンも重厚で、光が漏れ出るとかないし、防音も完璧や)
誰も自分の言葉を聞いていなかったことに安心したミナは、あらためて出来上がったネックレスを手に取った。
掌の上で、美しいダイヤモンドのペンダントトップが、彩り豊かなトパーズのディジーチェーンに囲まれキラキラと楽しそうに輝いている。
(うん。最高! 我ながら大満足の出来や!)
自然に笑みがこぼれた。
(あとは、このネックレスに魔力があったり妖精が宿っていたりしていないかやけど)
ビーズアクセサリー作りの最中、ミナは意識して魔力を抑えていた。もちろん召喚魔法なんて欠片も使っていない。
(ま、とはいえ他のビーズアクセサリーだって、あたしが自分で魔法を使おうと思ったことなんてなかったんやけど)
何はともあれここまで徹底したからには、このネックレスは本当にただのネックレスになっているはず。
そうでなければ困るのだ。
今のところ魔力の気配は、ネックレスから感じられない。あとは、妖精が宿っていないかどうかだが――――
(頼むで!)
心の中で祈りながら、ミナは部屋の明かりを消した。
たちまち暗闇が訪れる。
ミナの魔法属性ゆえか、宿る妖精は光の妖精が百パーセント。宝石が光らなければ、光の妖精は宿っていない。
ネックレスは――――少しも光っていなかった。
手のひらに重さは感じても、影も形も見えない
『やった! 成功や!』
またまた日本語で叫んでしまい慌ててミナは口を押さえた。
誰もいないから大丈夫だとは思うのだが、最近日本語での独り言が多いような気がする。
これが癖になったらダメだろう。
(うっかり口を滑らせたら、あかんもんな)
首をプルプルと横に振り――――その際、ベッドの方に視線が向いた。
二つの青い光が、暗闇の中らんらんと輝いているのが目に入る。
「ヒッ!」
思わず息を呑んだ。
体を強張らせ――――その後、大きく息を吐き出す。
「ナハトか……驚かさないで」
「ニャァ~」
二つの光は、眠りから覚めたナハトの目だった。
(そういや、猫の目は夜、光るんやもんな)
前世で猫を飼っていたミナ。夜中に起きて、光る猫の目に驚いた思い出はもちろんある。
同時に――――パチパチと目を瞬かせた。
(あれ? でも、そうや。猫の目が光るのは、わずかな光を強く反射するせいで、真っ暗闇の中では光らないんやなかったか?)
猫は別に目から光線を出しているわけではない。光るのはあくまで反射なのだと聞いた覚えがある。
だったら、どうしてナハトの目は光っているのだろう?
(本当は猫じゃなくて、魔獣のせい?)
そうでなければ、どこかにナハトの目を光らせる光源があるはずだ。
(……光源?)
嫌な予想に、ミナはプルリと体を震わせた。
恐る恐る視線を下に向ける。
「ゲッ!」
そこでは、つい先ほど出来上がったばかりのミナ渾身のビーズアクセサリーが、微かな光を放っていた。
『なんでや!? どうしてや!? さっきまでは、全然光ってへぇかったんに!』
思わずまた日本語で叫んでしまったが、もはや気にかけている余裕がない。
光は、徐々に強く激しくなっていった。
(ま、まずい! このままじゃ!)
ミナは、焦ってネックレスを手で隠そうとする。
そんなことで光が止められるわけもないのだが、彼女は必死だった。
焦り震える手から――――チェーンがこぼれる。
「うわっ!」
まるで生きているかのように、ネックレスはミナの手から落ちていった。
カチャン! と小さな音がする。
本当に小さな音のはずなのに、何故かミナには大きく聞こえた。
その途端――――ダイヤモンドから眩いばかりの光がほとばしる!
同時に、竜巻のような突風が起こった。
思わずミナは目を瞑る。
『な! なんやっ!』
瞑った目の裏で、白い光が爆発した!
腕を目の前に上げて、光を遮るミナの耳に低音の美声が聞こえてくる。
「……フム。ここは人間界か?」
――――どこか聞き覚えのある声だった。
慌てて、ミナは目を開ける。
閃光と風がおさまった室内に、いつの間にか内から光を放つ一人の青年が立っていた。
腰まで届くストレートの銀髪と不思議なオレンジ色の目。
なめらかな白い肌に、長い手足。
見上げる身長は、百九十センチはゆうにあるだろう。均整の取れた長身が、白い騎士服に包まれている。
腰に佩く剣は、そんなものが振るえるのかと疑ってしまうような長剣で、それがまたよく似合う。
圧倒的なオーラを放つ青年の人とは思えぬほどに整った顔が、興味深そうにミナの部屋を眺めていた。
「――――なっ!」
ミナは、大声で叫び出しそうになる。
目の前の青年には見覚えがあった。
――――今のヴィルヘルミナではない。日本の聖奈が何度もゲームの中で見た顔だ。
「……妖精騎士レヴィア・フェーリッター」
呆然と呟いた。
そこにいたのは、ゲーム後半に出てくる妖精騎士だった。




