夢の仕事
私は今悩みを抱えている。小学生の息子が勉強に対してやる気を出してくれないのだ。どれだけ将来のためだとかお前のためだとか言っても聞きやしない。
そのくせ、あのおもちゃが欲しいだのゲームが欲しいだの言ってくる。そんなもの将来自分でお金を稼げるようになってから言って欲しいものだわ。
スーパーからの帰り道、そんな考え事をしながら歩いていると、ある看板を見つけた。
『子供のやる気、引き出します。相談は無料。』
なんだこれは、そんなことが簡単に出来るなら苦労しないわ。しかし話を聞くだけなら無料らしい、私はその建物に入った。
「…こんにちは、ドリーム社です…」
1人で佇んでいる男が話しかけてきた。
「看板に書いてあることは本当なの?話を聞かせてちょうだい。」
「わかりました、ではこちらへ。」
そして私はソファに腰掛け、息子の現状について話した。
「なるほど、それならわたくしできっかけ作りは出来ますね。」
「本当に?ならお願いするわ。でも成果が出なかったらお金は返してもらうわよ。」
「…いいでしょう。」
そして私は男に言われた通りにある機械を息子の部屋に置いた。
すると数ヶ月後、息子が何も言わずとも勉強するようになったではないか。話を聞くには、将来やりたい事が出来たらしい。よかった、これで私がいちいち言わなくても勉強をやってくれる。
そしてドリーム社に向かい、約束の報酬を手渡しながら言った。
「素晴らしいわ、どうやったかは知らないけれど息子がちゃんと勉強してくれるようになった。これで手がかからなくなるわ。」
「そうですか、それは良かった。」
男は満足そうに答えた。
そして私が帰る時にこう言ってきた。
「しかし忘れないでくださいね、わたくしが行ったのはあくまでもきっかけ作りですよ。」
それからというもの、息子は熱心に勉強をするようになった。そして定期テストの結果を私に見せてくるようになった。その点数は平均点を優に超えている、これなら安心だ。次も頑張ってねと言ってあげた。
しかし中学3年生の受験期になって、問題が起きた。突然また息子が勉強しなくなったのだ。ふざけるな、効果が切れているじゃないか。私はすぐにドリーム社に向かい、文句を言った。
「どういうことなの、一時的にはやる気を出していたけど、また勉強しなくなったわ、もう一度やってちょうだい。」
男は冷たい目をしながら首を横に振った。
「無理ですね、このやり方は二度と出来ません。」
「どうしてなの?そもそもあなたのやったことって何?」
「やれやれ、普通は秘密なのですが、説明しないと帰ってくれそうにありませんね。仕方がありません、話すとしましょう。」
「わたくしが息子さんに与えたのは『夢』です。あの機械で毎晩学者は素晴らしいと伝え続けたのです。」
「何よそれ、まるで洗脳じゃない。」
「ええ、そうですよ。それでも息子さんはちゃんと勉強していたでしょう?しかし夢はあくまでも目標であり、褒美ではありません。息子さんはまるで馬の鼻先に人参をぶら下げるかのように走ったわけです。しかしそれも長くは続きません。だって何も食べずに走ることになるわけですからね。まあそのおかげで、あなたは楽が出来たわけですけれど。」
「ふざけないで!私はちゃんとあの子を育ててあげてるわ!!もういい、話にならないわ!」
私は怒りをむき出しにしながらそこを去った。
…そうして一人になった男は呟いた。
「子供に夢なんて形のないものを与えて実利を得る俺も、人のことは言えないのかな。しかしこんなに楽な商売そうそうないぞ、まさに夢の仕事だな。」